0.7 冥府へ
「これからどうするんだ………」
と少女に聞くと、少女は右手を鳴らし背中に門を出現させた。
入ってきたときの門とほとんど同じだ。
「私の世界いくけど、来る?」
少女が誘ってくる。
それは、俺に一度死んで来いと言っているようなものだった。
少女が冥府の神なのだから仕方がないのだが。
「来るって………俺まだ生きてるぞ?」
少女が首をかしげる。
「え? 今のギールは、肉体から魂だけを抜き出した存在だから普通に冥府に行けるよ?」
少女が言った言葉に困惑する。
「え、ちょ、まて肉体はどこにあるんだ? てか普通にお前に抱きしめられてる感触とか普通にあるんだが」
俺は自分の右手を一度にぐりしめ再度手を開く。
手を動かく感触はそのままなのがわかる、それに食欲もある。
そろそろお昼の時間帯なのだろう
「あーその辺はパパに聞いた方が早いから、早くあっち行こ」
少女にはぐらかされ、そのまま門をくぐった。
先ほどくぐった時より、どんよりと重い感触が全身に感じる。
まるで通常より重力が重いかのように。
「ようこそ、冥府へ」
少女が俺の腕から離れ、目の前で手を広げて言う。
その後ろには、禍々しい世界が広がっていた。
周りには、人の形をした黒い靄が奥の山を目指して歩いている。
山の前には、巨大な城壁がありそのまえで黒い靄が一列に並んでいる。
まるで検問のように。
その後ろの山は、元の世界ではありえないほどのドラゴンたちが山の周りを飛んでおり、山の横には月の様な物が辺りを照らしている。
「ほんとに来てしまった………」
あの時少女の手を取っていたらここに来ていたのだろう。
本当に何もない世界。
ただただ、死しかない世界。
こんな場所で少女がいたなんて考えられない。
「着いてきて」
少女言われるがまま、少女の小さな背中を追う。
いつもなら抱き着いているはずなのに、なぜか抱き着いてこない。
冥府だからなのかよくわからない。
「トマレ」
三つの首を持つ狼が俺達の前に立ちふさがる。
ケルベロスだ。
彼がここの門番なのだろう。
「ただいま、いいこにしてた? ユーイ」
少女がケルベロスに近づきながらいう。
すると、ケルベロスがそんな少女前で口を明け吠える。
「キサマ、ダレダナゼワタシノナヲ」
ケルベロスが困惑しているのか少女の匂いを嗅ぎだす。
まさかこいつ主を忘れているのか。
「ン! コノニオイアルジ?」
すると、少女がケルベロスの腹を右手でなでる。
それが効いたのかケルベロスの表情が一気にたるんでいく。
さすが、というべきんなのだろう。
でもなぜ、ケルベロスは主のことを忘れていたのだろう。
「さて、行きましょ」
ケルベロスを撫で終わった少女。
ケルベロスの元を後にし、その先へと向かう。
徐々に禍々しい山が見えてくる中、俺達の先には巨大な門が行く手を阻んでいた。
その門を順番に通っている。
その先で待ち受ける審判を受けるための列なのだろう。
その門を守っているのが、少女が軽く呼び出す災害級モンスター、デュラハンだった。
こんなとこで警備しているのかと思ったが、霊が鎧を操っているのならここにいてもおかしくはないのだろう。
「気になりますか?」
デュラハンをまじまじみていた俺に少女が気付いて声をかけてきた。
すこし照れくさくなりながらも、俺は一度頷く。
なぜここにデュラハンがいるのか、そもそもこの門は一体何なんなのか
よくわからないことだらけだ。
「そうですか………話付けてくるので着いてきてくれますか?」
少女はそういって門の近くにいるデュラハンに向かっていった。
俺は、少女の背中を追って向かう。
「ッ!」
大きな殺気を感じその場で足を止める。
そのさっきの持ち主は、少女が話していたデュラハンからだった。
呼吸を整え自然を装いながら少女の横にたどり着く。
「そう、なら貴方に任せていいかしら?」
デュラハンがその場で少女の目の前で跪く。
了承した合図だろう。
頭がないから頷くことができないから仕方ないか。
そう思いながらデュラハンの鎧をじっと見つめる。
デュラハンの鎧の中央に小さな刻印が彫られていた。
生前のどこかの国のマークだろうか。
遠くから馬の鳴き声が聞こえてきた。
その声は次第に近くなっていき、巨大な門が開いた同時に骨の馬が一匹目の前に現れる。
豪華に装飾されており、一瞬で少女の馬なのだとわかった。
「乗って」
少女は骨の馬に跨り、俺に手を伸ばす。
なぜ二匹呼ばなかったのだろうと考えながら少女の手を掴む。
馬に跨った途端、急に走り出す。
「ちょ………はやすぎ!」
固定すらできていない手を風圧で後ろにあおられながらも、なんとか馬にまたがっていた。
さすがにまずいと思い、咄嗟に少女腰に手を伸ばす。
「ひゃん!」
少女声で、悲鳴が聞こえてくる。
そして少女が後ろじっと見つめまた前を向いた。
少女の顔が赤かったのは言うまでもない。
「なんで飛ばずに行ったんだ?」
風圧に煽られながら少女に聞く。
「ここ、飛ぶことできないの」
少女の言葉にこれまでの疑問に納得した。
手綱を持たず、永遠と走りつづける骨の馬。
骨と骨との間が空いており、そこへ何か落としそうで怖かった。
「そういうことか。景色楽しんでほしかったのかと」
少女は、にっこりと笑顔を見せる。
すると、急に馬のスピードが遅くなる。
衝撃で手元がぶれる。
「は、離して?」
両手から小さいが暖かく柔らかい感触が伝わってくる。
腰を掴んでいたはずの両手が、いつも間にか少女の胸を掴んでいた。
俺は、すぐ胸から手をどける。
「ごご、ごめん」
俺は少女に謝る。
少女が馬から降りる。俺もそれに続いて降りた。
「もっと触っててよかったのに」
少女がボソッと小声でいう。
去っていく馬の足音で何が言っていたのか聞き取れなかった。
目の前には、禍々しい山肌があった。
石と土が合わさっているかのように、この山は、人骨やモンスターの骨が積み重なってできたようだ。
山を眺めていると少女が声をかけてきた。
「それ偽物だよ?」
偽物。
現世からの魂がこちら側に来るのだから肉体である骨は、現世に残っている。
そのため偽物なのだろう。
なぜこのような山ができているのかが気になるが。
「まじかよ………そもそもここに来るのは魂だけか」
俺が理解したことがうれしいのか、少女が目を輝かせて俺のことをじっと見つめていた。
少女が初めに言っていたことを復唱しただけだが、まぁいいだろう。
「てかどこ行くんだ?」
「着いてきたらわかりますよ?」
少女の隣を歩く。
骨の山にはありえない人工物が正面から見えない裏側にそれはあった。
山の周りは整備された道を囲んでいた。




