表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/21

0.3 日常

 少女は、大きなため息をすると何かの詠唱を始め、いつの間にか目の前には懐かしの光景が広がっていた。


「おかえりなさい。ギール」


 少女は、俺から離れてから言う。

 懐かしの少女が作った城だった。

 デュラハンが出てきたあたりで記憶がないため、前とははるかに模様替えが施されている。

 特に壁や床には装飾が施されており、天井には巨大な氷のシャンデリアが光り輝き、各部屋に続く両開き扉が部屋の塞いでいた。

 記憶とはほとんど違う内装となっていた。

 だが、城の間取りは全く同じだった。


「ただいま。エレラ」


 俺はいつの間にか涙を流していた。

 まるで人間に戻ったかのように。

 ただ、スキルから逃れるために作り上げられた鉄壁の城だというのに。


「もう遅いから寝ましょ?」


 知らない装飾が施された部屋に案内される。

 そこには、以前作ってもらったダブルベッドが置かれていた。

 その周りには私物の様なものが置かれていた。


「あのさ………とりあえず片付けるぞ」


 頬を赤く染めて下を向いていた少女が頷く。

 やはり、少女の私物らしい。

 床に散らばった私物を手に取る。

 本や服、真っ白な紙たちがベッドの周りに散らばっていた。

 ベッドの下の方に字の書かれた紙を見つけ手に取る。


『ギールはどこ?』


 と一言だけ書かれていた。

 ただその紙は、ありえないほど綺麗だった。

 まるでこの世界の紙ではないかのように。

 紙の束を適当に置かれていた紐で束ね、部屋の端に置く。

 とりあえず紙は無くなった。


「あ! こんなとこにあった」


 少女が床に置いてあった布を拾って言う。

 視線の先には、女性ものの下着が見えた。

 色は、黒。

 勝負下着だよねあれ。

 気にしたら負けだと思い、周りに散らばっていた布を手に取り、それらを少女が服を入れていた籠に入れてゆく。

 すると、籠から服が消えていた。


「すごいな」

「えへへっ」


 少女が驚いている俺に照れていた。

 自分の実力を褒められたからか嬉しがっているのだろう。

 だが、俺が次に手に取った布で状況が変わる。

 それを広げると俺が以前着ていた麻製の服だった。

 なぜこんなとこにあるのかわからず、そのまま籠にしまい込む。


「こんなもんか」

 

 一度立ち上がり、周りを見渡す。

 床にはなにも落ちてなく綺麗になっていた。

 床で服を拾っていた少女がベッドに倒れこむ。

 

「そのまま寝るのか? しわになるぞ」


 少女に聞くが、何も言わない。

 ただ、少女が着ていた服が無くなり、いつの間にか下着姿でベッドに寝ころんでいた。

 空間魔法の応用だと思うが、目の前の光景に考える余地すらなかった。

 部屋の明かりを消そうとベッドの近くに置かれている人魂を廊下に持っていこうとすると、少女に服を引っ張られた。


「置いていって………お願い………」


 今にも泣きそうな顔でこっちを見つめている。

 暗いのが怖いらしい。

 冥府の神なのに。


「分かったよ」

 

 人魂を元の場所に戻し、少女が入っている布団に潜り込む。

 すると、少女が俺の手を握ると、俺の横で眠ってしまった。

 少女のおでこにキスをして俺は、そのまま眠りについた。



「ん~。重い………」

 

 目が覚めると腹の辺りがいつも以上に重かった。

 ほんのりと暖かく、腹の辺りの掛け布団が盛り上がっていた。

 少女がいたはずの場所に目をやると、そこには誰もいなかった。

 確定だ。

 もぞもぞと布団が動き出す。

 少女が寝返りをしているのだろう。


「たくぅ、そんなに寂しかったのかよ」


 小さい声で俺はひとり呟く。

 だが、俺も寂しかったのだろう枕が濡れていた。

 さらに、体が汗でぬれており、気持ち悪い。


「悪夢でも見たのか?」


 小さい声でつぶやく。

 すると、少女が俺の顔の方へと這いあがってきた。


「ふにゃ………ギール………抱きしめて………」


 少女は目を閉じたまま、俺に抱き着いてきた。

 そういえば、魔王城を抜け出した俺は、まだ魔王なのだろうか。

 こんな俺でも帰れば魔王に戻れるのだろうか。

 だが、帰ったら少女はどうなる。


「えへへっあったかい」


 俺の胸元で少女の柔らかいほっぺをこすりつけてくる。

 擦るたびに、暖かく気持ちいい。

 少女の頭を撫でるとそのまま少女は何も言わなくなり、小さな寝息が聞こえてきた。

 再度眠ったみたいだった。

 窓の方みると日が部屋に差し込んでいた。

 グウゥという音が俺の腹から鳴る。


「腹減ったなぁ」


 思い返せ昨日何も食べていない。

 ずっと少女に抱き着かれたままここに帰ってきたため、何も食べることができていない。

 ベッドの横に白い皿の上に置かれていたサンドイッチに目が行く。

 なぜ今まで気づかなかったのだろう。

 寝ころんだままでは、食べずらくすこし体を動かし、壁の方へと腰を曲げる。


「美味いな」

 

 皿の上に置かれたサンドイッチを取り、一口食べる。

 新鮮な野菜とパン、そしてすべてを包み込むドレッシングがいいバランスに混じりあっていた。

 もう一口食べようとすると、歯が通らなくなった。

 中に何か入っており、それを取り出す。

 それは、結界に守られた手紙だった。


『起きたら食べて エレラ』


 と書かれていた。

 いや、普通に皿の上に置いておけよと思いながら、腰の上で寝ている少女に目をやる。

 一切れ食べきり、眠気が全くないことに気付き、ベッドの壁沿いにある棚から一冊の本を手に取り、中身を開く。

 そこには、魔法の概念と真理について書かれていた。

 魔王をやっていたときには、よく目にしたため次第に覚えることができた魔法が一覧で載っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ