1 始まりと出会い
息遣いが荒くなりながらも、ドラゴンによって灰となった村の中を俺は走る。
「はぁ………はぁ………とうさん!」
誰もいない、灰となった村で俺は家族を呼び続ける。
「かあさん………リリア…………う、おぇぇぇ」
急に地面に倒れこみ、血反吐を吐く。
白い灰がみるみる赤く染まってゆく。
どうして…どうしてこんなことになったんだ。
訳が分からない。
「もう、みんなのところへ行かせてくれ」
目の前にあった、ナイフを自分の首に向ける。
「お兄ちゃん」
「ギール、狩り行くぞ」
「ほんと、甘えん坊さんね。ギールは」
ナイフに刻まれた刻印を見て、過去の記憶が流れ込んできた。
もう、嫌なんだ。なんで、なんで皆………。
俺は、ナイフを地面に置き倒れこむ。
「ごめんなさい………ごめんなさい………ごめんなさい」
小声で何回も謝り続ける。
「こんなスキルに選ばれなければよかった」
【スキル『災厄』が発動します】
脳内にアナウンスが流れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・ドーン
「え?」
気が付くと、木炭となった木に頭をぶつけた。
「いってぇ………」
ぶつけた頭の後部に手を押さえながら言う。
隕石でも落下したのかクレーターができていた。
目の前に起きた光景に、目をそらし、しゃがみ込む。
すると、目線の先の光景に目を疑った。
「あああああああああああ」
右足が無くなっており、全身に痛みが走る。
これぐらいの罰受けなきゃだめだ。
必死に、血を止めようとする。
「ここね?」
女の人の声が聞こえてくる。
だが、助けてなどいえるはずもない。
皆、俺が殺したのだから。
これは自分への罰だ。
「あなた? 私を呼んだのは」
女の人の声が徐々に近づいてくる。
その声には聞き覚えすらない。
この村にはいない人だろう。
もう、死にたい。
「そんなに死にたいなら、冥府へと導いてあげましょうか?」
女の人の声は、俺が思ったことに反応するかのような内容だ。
心を読んでいる………そういうスキルか。
「あなたよね? 死にたいて吠えていたのは」
女の人の声が目の前で聞こえてきた。
女の人は、俺の目の前にいるのだろう。
灰の上に、白い肌の人の足が見えた。
「吠えてない。思っただけだ」
反発するかのように俺いう。
「そう………でも、あなたの家族は、あなたに生きていてほしいと思っているはずよ?」
女の人は、そういう。
だが、家族すら俺は失っている。
何もすることができない。
村の皆を、殺してしまった。
生きてほしいなんて絶対思っていない。
そうに違いない。
「そう、なら本人たちを呼ぶしかなさそうね」
本人?
そんなのもうとっくにみんな死んでいる。
「ふふふ、安心しなさい。私の力なら可能よ?」
死んでいるものを蘇るわけがない。
罪悪感があふれだし。俺は再度目をつむる。
「この人たちかしら」
女の人の声が遠のいていく。
どこかへと行ってしまったらしい。
「こっちよ」
女の人の声が近づいてきた。
誰かを連れてきているようだ。
俺は、その場から立ち上がろうとする。
だが、右足がないため、立つことができずそのまま倒れてしまった。
「大丈夫か?」
「だいじょうぶ?」
聞き覚えのある声が俺の周りに現れる。
もういないはずの人たちの声だ。
無くした右足からどんどん暖かい感触が外に出て行っている。
「や、やめてくれ………俺を辱めるつもりか!」
右足を押さえる。
声の主の方へ、地面の灰をまき激怒する。
「そんなことするはずがないじゃない。あなたの家族なのでしょ?」
声の主を確認するべく見上げようとするも、頭に積もった灰が背中に落ちる。
目の前には、想像を絶する光景がいた。
左から、体が薄いが父さん、母さん、リリアが立っていた。
それを見た途端、涙が止まらなくなる。
「この人たちよね? あなたの家族は」
と言って、右足を押さえている俺の前で少女はしゃがみ込む。
夜の闇に同化するかのような黒バラの髪飾り。
まるで、月夜に照らされた灰のように白く美しい髪が、風で揺れている。
黄金のように、輝くトパーズの様な瞳に、まるで蛇の目のように赤い線の様な瞳孔。
青空に浮かぶ雲のように白く輝き、小柄な体系をさら幼く見えるフリルがついたドレス。
閃光のように装飾品が輝く、ハイヒール。
「なんで………なんで………」
必死に半透明止まった家族の方へと痛みに耐えながら這いずりよる。
家族に触れようと手を伸ばす。
だが、触れずすり抜けてしまった。
「感謝します。エレラーノ様」
父さんがエレラーノと呼ばれた少女の前で頭を下げた。
どこかで聞いたことがある名前だ。
「そう。この子貰っていいのね?」
父さんは、笑顔で、こっちに振り替える。
「ええ、ギールにとって貴女様の御側にいたほうが安全でしょう」
言い切ると父さんは、俺に近寄り、半透明な手で俺を撫でようとする。
だが、俺が触ろうとしたときと同じく、すり抜けてしまった。
「分かったわ」
白銀の剣を、漆黒の様な暗闇から白銀に輝く剣を少女は取り出した。
「ま、まて………」
俺は、必死に、少女の方へと這いずり寄る。
「ごめんね。ギール」
だが、少女は、俺の名前を言って謝る。
手に持った白銀の剣を勢いつけて、一列に並んだ三人を突き刺した。
「や、やめろおおおおお」
必死に止めようと少女に近づく。
だが、刺されている家族の笑顔を見た途端力が抜けてしまった。
「そんな顔しないでくれ!」
笑顔の家族に向かって言い放つ。
「すまん。許してくれ俺達を」
「ごめんなさいね。側にいてあげられなくて」
「ごめんね………生きて………」
白銀の剣に貫かれた三人は、一言ずついうと天へと消えていった。
まるで、成仏でもしたかのように。
涙が止まらなくなってしまった。
少女が俺に近寄る。
「ああするしかなかったの。あの人たちをアンデッドにせずに冥府へといざなう方法はね」
「冥府………皆成仏を?」
「ええ、そう。あなたもいきます?」
少女は、俺に白い左手出していた。
俺はその手を握ろうとする。
だが、その手を握ってはいけないと思ってしまった。
「それがあなたの答えですか?」
少女は俺に問いただす。
俺は気づいてしまった。
死者を冥府へと導き、世界の輪廻へといざなう神がいることを。
「はい。それが答えです。冥府の神 エレラーノ様」
少女は、持っていた白銀の剣を俺の前に突き刺した。
「そうですか。では、これを受け取りなさい」
冷静に平然と少女は言葉を返す。
灰の地面に刺さった剣を杖代わりに俺は立ち上がる。