悪役令嬢はヒロインを囲い込む
「なによなによ!悪役令嬢のくせに邪魔しないでよー!」
公爵令嬢であるラムダは、目の前で吠える男爵令嬢の顎をひっつかんで目と目を合わせて言った。
「そのように吠えるでない。せっかくの愛らしい声が枯れてしまうだろう」
「え」
「お前たち、果実水を持て」
「こちらに」
「男爵令嬢の…アルトと言ったか」
不覚にも、悪役令嬢であるはずのラムダが自分の名前を覚えていてぽかんとしてしまうアルト。
「飲め。美味いぞ」
「…は、はい」
つい、押し負けて飲んでしまう。
「…美味しかったです、ありがとう」
「それは良かった。下げよ」
「はい」
「アルトや」
ラムダに呼ばれて、アルトはいつのまにか俯いていた顔を上げる。
「うむ。やはり愛らしい。そのように可愛らしい顔立ちなのだから、下を向いてはもったいないぞ」
「で、でも」
「それと、吠えるのではなく囀れ。そなたの声は癒される」
「あ、はい」
「そして」
ラムダは、当たり前のように言った。
「妾の側にいると良い。癒し係、というやつだ」
「癒し係」
「妾専用のな」
こうしてアルトは、癒し係となることになった。
アルトは、普通の女子高生だった。ある日突然、通り魔に殺されたが。その日買いに行ったゲームこそ、『もし・ドキ!ハピネス!』と称されるゲームだった。気付いたら不思議空間にいて、暇な女神を自称する美しい人に記憶を持ったまま転生するか、普通に輪廻に乗るか選べと言われて記憶を持ったまま転生したら、赤ちゃんだったのだ。そして、乙女ゲームのヒロインアルトに転生していたと五歳頃に気付く。そこからはヒロインとしてステ上げに必死だった。結果はこれである。
「アルト、あーん」
「あ、あーん」
「王室御用達ブランドのいちごのモンブランは絶品であろう?」
「お、美味しいです」
「アルトと戯れておると、妾は癒される。ずっと側にいておくれ」
何故自分が悪役令嬢のペットになっているのか。何故周りは止めないのか。何故攻略対象達は悉く不仲なはずの婚約者達とものすごく仲良しで隙がないのか。実は、悪役令嬢であるラムダも転生者だからである。
ラムダは、普通の女子大生だった。ある日突然、暴走車による不慮の事故で亡くなったが。その日買いに行ったゲームこそ、『もし・ドキ!ハピネス!』と称されるゲームだった。気付いたら不思議空間にいて、暇な女神を自称する美しい人に記憶を持ったまま転生するか、普通に輪廻に乗るか選べと言われて記憶を持ったまま転生したら、赤ちゃんだったのだ。そして、乙女ゲームの悪役令嬢ラムダに転生していたと三歳頃に気付く。そこからは悪役令嬢としてステ上げしつつ、婚約者との仲を良好に保つ努力をした。さらに、他の攻略対象者達とその婚約者の関係も取り持った。
そんなラムダ、前世から可愛い女の子大好きである。なので、攻略対象者全員が婚約者と仲良しになって付け入る隙がなくなった可哀想なヒロインを飼ってあげようと最初から決めていた。結果はこれである。
「アルトの髪はふわふわでピンクで愛らしいのぅ」
「そうですか?えへへ」
「甘い匂いもするのぅ。妾は菓子よりアルトの髪が好きじゃ」
「もう、ラムダ様ったら!」
アルトはそのうち、金持ちで顔も良いんだからラムダ様でも別にいいかと開き直った。そうなったら二人は大分ラブラブになり、ラムダの婚約者がヤキモチまで妬くほどとなる。可愛がられ、お金を湯水のように与えられ、可能な限りの贅沢を尽くしてアルトは夢のような日々を送る。
結局、おばあちゃんになってもラムダのアルトへの溺愛は止まらず二人とも幸せな老後を二人で過ごしていたようだ。