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第一章 月城明は地元に戻り、妹への気遣いからヒロインから嫌われる side ひなた(9/10)

 みかんとクルミのロールケーキは、おばあちゃんが教えてくれたケーキだ。


 おばあちゃんは料理が得意だけど、今はひざを痛めて台所には立てなくなってしまった。だから、おばあちゃんが元気だったころに私が唯一教わることができた、たった一つのレシピだった。

それを作って、絵里子ちゃんに食べてもらったとき、「これお母さんのじゃない。ひなちゃんもこれ食べてパティシエに憧れたんだ」とほほ笑んだ。


 私は嬉しかった。おばあちゃんの作ったケーキが絵里子ちゃんを感動させ、そして私を感動させたのだ。だから、私と絵里子ちゃんはここにいる。


「おばあちゃんのだったらダメ?」

「うーん、ダメってわけじゃないんだけど、私的にはお母さんのケーキをお店で出すのは癪って言うか、なんか認めちゃう感じがイヤなんだよね」


 私からすれば、ただただ優しいおばあちゃんだから、純粋な憧れしかない。けど、絵里子ちゃんからしたら、直接育てられたお母さんなわけで、微妙に複雑な思いがあるのだろう。自立したいっていう思いもあってか、今までそのケーキはお店に出していなかったようだ。


「でも、私これしか美味しいの作れないし……」

 チョコケーキやショートケーキは作ったことがあるけど、オリジナルのケーキで、お店に出せるレベルなのは、このケーキしかなかった。

 私がよほど暗い顔をしていたのか、絵里子ちゃんはくすりと笑って言った。


「じゃあ、せっかくだしお店で出そうか」

「うん! ありがとう!」

 私は自分の提案したケーキがお店で出せるのがうれしくて、メニューにみかんとクルミのロールケーキを付け加えて、空欄に大きな字で「新発売」と書きこんだ。それを最初に食べたのがあいつで、あいつはそれをあんなに大袈裟に否定した。

 そういった経緯を占い屋さんに話したのだけど、途中から涙が止まらなくなり、それでも話そうとして余計に涙が出た。


「うぐっ……ごめんなさい……泣くなんてアイツに負けたみたいで悔しいから、絶対にしないって決めてたのに……」

「大丈夫よ」

 占い師さんはそう言った。

「それで、ひーちゃんはどうしたいの?」

「私、ちゃんと美味しいものが作れるか占ってくれませんか? 不味いって言われたのはたまたまで、ちゃんと料理がうまくなるって」


 私が言うと占い師は「げっ」と言った。


「ごめん、それ私が一番苦手なやつだ」

 占い師は申し訳なさそうな声を出す。占い師のくせに占いが一番苦手ならなにができるのだ。私は急に心配になってくる。


「だめですかね?」

「それ以外なら大体できるんだけどねー」

 随分とノリの軽い占い師だ。

「じゃあ、私をお払いしてほしいです。私にはその男の悪い空気みたいなのがついていると思うので、それを払い落としてくれませんか?」

「ごめん、それも苦手」

「できないんですか?」


「ううん、できないことはないんだけど、この前なんか悪霊と一緒にその人の守護霊までお祓いしちゃったの。それ以来、その守護霊、居場所をなくしてこの店にいついちゃったんだよね。ほら、ひーちゃんの後ろ」

「ひぇっ? この部屋にいるんですか?」


 私は思わず立ち上がった。


「安心して。隙を見て隣の喫茶店に置いてこようと思ってるの」

「安心できませんから!」

「ははは、それでひーちゃんはどうしたいの?」

「じゃ、じゃあ……あいつに仕返ししてやりたいです。何か呪いとかおまじないみたいなのってありますかね?」

「ある、ある! それなら得意だよ」

「え、本当に呪いとかあるんですか?」


 自分で言いながら私は面食らってしまった。私も占いとかは信じているし、毎年初詣に行けば、お守りを買ってもらうけど、嫌いな奴を呪うなんて本当にできるとは思わなかった。


「じゃあ、ちょっと見てて……」

 占い師さんは仕切りに空いた小窓から手をだし、手のひらを私にかざしてきた。

「むにゃむにゃむにゃむにゃむにゃ……」


 何やら聞き取れない言葉を繰り返すと、急に私のお腹がぎゅるぎゅるとすごい音を立て始めた。次の瞬間、急にお腹が痛くなり、尾てい骨のあたりがじんと疼きはじめた。


「占い師さん……これ……なんですか?」

 私がお腹を押さえて言うと、占い師さんは私の方にかざした手をさっとどけた。途端にお腹の痛みが和らぎ始める。

「今のはここの呪いではないんだけど、チベット密教の神、ヴァジュラヴァイラバに頼んで、腹痛を起こさせたの」

「そんなことしないでくださいよ!!」


 私は怖くなっていった。

「ごめんなさいね、疑われたからつい証明しようと思って……とにかく呪いは本当にあるのよ」


 私は仕切りの窓から見え隠れする手を見つめていた。これは本物だ。今さっと手をかざして、呪文を唱えただけであんなことができてしまうなんて……。

 私はもう呪いを疑ってなどいなかった。

「じゃあ、その呪いであの男をこらしめてやりたいです」

「うんうん、その男いてこましたろ」


 占い師は急に活き活きしはじめる。

「呪いの話になると急にガラ悪いですね……」

「当たり前でしょ? そいつを呪うんだから」

 占い師が急にノリ気になり、私はなんか不安になり始めた。



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