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エピローグ(3/3)




「里美さん、なに? どうしたんだ?」

「ふぇっ!? な、なにってなにがよ」

「いや、さっきから俺の方を見てくるから、何か言いたいことがあるのかと」


 次の日の昼休み、月城の様子をうかがっていた私は彼とばっちり目が合ってしまう。

 本当に呪いがかかっているのか、前と違ったところはないけどなあ、なんて思いながら彼を眺めてしまった。


「別に、なんでもないわよ」

「そ、そっか……あれから、どう? お店」

「べ、別に……ふつうだけど……」


 誤解は解けたのだけど、だからといって急に仲良くなるわけでもなく、かえってなんとなく気まずい感じになってしまっている。


 私は以前の態度を改められずにぶっきらぼうになってしまうし、月城は月城でどこか会話がぎこちない。


 たまに会話をしてもすぐに話すことがなくなって変な沈黙が続くし、私の視線に気が付いてか、月城もたまに私の方をちらちらと見てきたりする。

 といっても目があったところでいつもこんな感じで、これはパンツを履かせる前に、またうちに遊びに来てもらうことさえ難しい。


 いますぐに呪いを解くのは不可能だ。

 私は長期戦を覚悟している。


 というより、呪いのことは半分忘れて、チャンスが訪れるのをのんびりと待つつもりだ。

だって、毎日、月城に私のパンツを履かせてキスとか、考えていたら体がもたないし、そんなことばかり考えていたら変態になってしまう。


「なあ、里美さん、今日、早苗と一緒にお店に行こうと思うんだけど……またあのケーキ食べて良い?」

 月城が従順な犬を思わせる目つきで私を見た。

「な、なんで一々、私に聞くわけ?」

 私は思わずドキリとしてしまう。

「いや、だって俺があのケーキ食べたら里美さん怒るかなって……」


 月城があのケーキというのは、私がお店に出すことを再開した「みかんとクルミのロールケーキ」だ。


 彼は、本当はあのケーキをとても気に入っていたというのだから、皮肉な話だ。

 だけど、わたしはあのケーキをまだ月城に出せていない。この前、店にやってきたときは、つい意地を張って断ってしまったのだ。


 月城の許可を求める上目遣いが私の中の何かを揺さぶる。

「怒らないわよ。お客さんなんだから、好きなものを頼めばいいじゃない」

 あんな目をしながら、私のパンツを履いてくれたら……。

 って私ったらそればかりじゃない。


 私は顔が熱くなるのを感じて、慌てて顔をそむける。


「わ、分かった。って、なんで里美さん顔をそらすんだ? やっぱり怒ってるのか」


「怒ってない。いいからどっか行きなさいよ」

 落ち着きなさい、私。


 私は自分に言い聞かせた。すべてはもう終わったのだ。呪いが完成してしまったのだって、善意で私が解呪してあげようと思っているだけで、月城のためにこんな思いをすることはないのよ。


 普通に学園生活を送って、普通にチャンスが来るのを待つの。

 チャンスが来なかったら……、そのときはそのとき考えよう。


 とにかく私は夢を追いかけ、月城は戻ってきた地元での暮らしに少しずつ慣れて行けばいい。

 だから、私が月城のことであれこれ悩むことなんかないし、別にもう月城に自分のパンツを履かせる必要はない。

 それなのに、私の身体がいつになく火照って、月城の顔を上手く見れないでいる。それでいて、月城の様子が気になって、無意識に彼を見てしまいそうになるのを必死で抑えつけて……。


 なにこれ、私はちょっと助けられたくらいで、ちょっとケーキを褒められたくらいで、こんな風になっちゃうチョロい女じゃない。


 だから、これはただの思春期のもやもやで……ホルモンバランスの暴走で……なんてことのないただの生理現象で……特別な意味なんかなくて……。


 私は心配そうに顔色をうかがう月城の視線を感じながら、窓の外を眺めるふりをして、ひそかに顔を赤らめた。


        ヒロインが俺にパンティを履かせようとしてくる《了》







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