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エピローグ(2/3)


 洗濯槽はツボみたいなものだし、私の服とかも一緒に洗濯したから、その日、泊まりに来ていた月城の髪の毛がついていてもおかしくはない。このパンツを洗濯機の中に入れたときは、なんか月城のパンツ姿を想像して悶々としていた。その流れから月城のことばかり考えていて、やっぱり実家に戻ってきてしまったことを気にしていて、かわいそうだな、私ももし戻ることになったらあんな風になるんだろうかと、共感していたのは確かだ。


「それよ!!」

「それよ、じゃないですよ! 本当に呪跡はあるんですか?」

「はっきりとね」

「そんな……」


 私は大変なことをしてしまったと思った。月城が好きな女の子に都合のいい男として利用されるだけ利用されて付き合うこともできないなんてかわいそうだ。


 早苗ちゃんはそんな性格の悪い女の子じゃないから、意図的に利用することはないかもしれないけど、月城はあれでいて結構優しい。


 早苗ちゃんがちょっと困っていたら、つい報われない恋と知らずに尽くしてしまうはずだ。


「か、かわいそう……」

 私は自分まで悲しくなってきた。せっかく呪いの中止をしようと思っていたのに、こんなことになるなんて。


「安心して、その呪いにはちゃんと解く方法があるのよ?」

 仕切り越しに、占い師さんが困ったように笑ったのが分かった。

「呪いを解く方法?」

「そうよ。ちゃんとそういうのがあるの」

「それさえすればあいつは好きな人と付き合えますか? だって、あいつは意外といいやつで、最近は辛いことばっかり続ていたみたいだから、幸せになってほしいんです」


 私はかつてのクラスメートの前で決まり悪そうに頭を搔いていた彼を思い出す。彼はそこまでして私を助けてくれたのだから、これからは幸せになるべきだ。


「そうね。呪いは解けたから、その子が、ちゃんと思いを打ち明けることができたら付き合えるかもね」

 それなら呪いを完成させてしまった責任として、私が呪いを解くべきじゃないか。

 そこで私はこれがここの占い屋さんのやり口である可能性に気が付いた。こんな風に呪いが完成しちゃっていると言って、さらにお金を取られるんじゃないだろうか。


「その呪いを解くのに、すごくお金がかかるとか?」

 私はその疑問を口にする。

「ううん、呪いは呪いをかけた人自身がやらなくちゃいけないから、あたしができることはないわ。ひいちゃん自身が、呪いを解くの」


「ただで?」

「ええ、ひいちゃん自身がやるんだもの」


「それなら教えてください。呪いってどうやったら解けますか? じゃあ、私、どんなことでもやります」

「本当に? ちょっと難易度高いかもだけど、頑張ってみる?」

「はい。絶対やります」

「じゃあ、教えてあげるね。呪いに使ったパンツをもう一度、彼に履かせるの」


 占い師さんは落ち着いた声で言った。なんだ、そんなことか。それなら簡単だ。また前みたいにうちに泊まってもらって、お風呂に入っているうちに、ズボンの中にパンツを入れておけばいいだけだ。


「分かりました。やってみます」

「まだ途中よ。それだけじゃないわ」

「え?」

「そうやって、その彼に呪いにつかったパンティを履かせたうえで、そのパンツにあなたがキスをするの」

「ひぇっ? それってどういうプレイですか?」

「プレイじゃないわよ。解呪の方法よ」


 その光景を思い浮かべるだけでくらくらしてきた。それって要はパンツごしに月城のあそこにキスをするってことだろう。しかも、彼は私のパンツを履いている。


 月城はそれをどんな顔で見ているのだろう。恥ずかしがっているのか、興奮してるのか、目を血走らせているのか、私を懇願するように見つめるのか。


「でも、普通、そんなシチュエーションになりませんよね? どうしたらそんなことできると思いますか?」


「そりゃあ、まずは付き合っていい感じの雰囲気になった後で提案してみればいいんじゃない?」


「それができない呪いなんですってば!!」


「分かる、分かる。服屋に着ていく服がない的なね」

「気楽なこと言ってる場合じゃないですよ」


「とにかく解呪の方法は教えたから」

 占い師さんの笑みをかみ殺している姿が想像できた。


「わ、分かりました……やってみます……」


 できてもできなくてもやるしかない。この呪いを解いて、月城には幸せになってほしい。

 私は占い師さんに相談料を払うと、固い決意を胸に店を出た。

 もうすっかり日は落ちていた。あたりは暗く、暑さの残る秋の住宅街にすずしさが訪れる。

 夜空に星は数えるほどしかなく、雲は街の光を反射してか、薄明るく浮き出して見える。

 悩みは絶えない。

 誤解は解けたし、また前みたいに夢に向かって頑張ろうと思えるようになった。一人暮らしの大変さとか、寂しさを共有できる友人もできた。


 いつか呪いを解いてあげる。

 きっとすぐには無理だろうけど、焦る必要はない。少しずつ仲良くなって、またうちに泊まりに来てもらって、そこでこの前と同じ作戦で月城にパンツを履かせればいい。そのあと眠っている月城のズボンを下ろして……。

 私はその光景を思い浮かべて、急に恥ずかしくなった。


 なんで、興奮しているの。違う、これは呪いを解いてあげるためにするだけ。私がしたいわけじゃないんだから。


 私はブンブンと頭を振って歩き出した。



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