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最終章 月城明は覚悟を決め、ひなたは月城を許す side ひなた

 しばらくして警察が来た。


 私は事情を説明して、たぶん、下着泥棒だったと思うと言った。二階とはいえ、下着は干さないようにしていたし、実際に盗まれたのはセーラー服だったのだけど、警察は優しく対応してくれた。


 捜査といっても指紋を取ったり、髪の毛を拾ったりといった事態にはならなかったが、被害届を出すために月城と一緒に交番まで行くことになった。


 交番につくと婦警さんが対応してくれたので、男の警察官よりは話しやすかった。

 交番を出ると十一時になっていた。この時間には寝ようと思っていたのに、まだ晩ご飯も食べていない。


「どっかで飯食って帰るか?」

「うん」

「国道沿いのラーメン屋に行ったことあるか?」

「ない、美味しいの?」

「美味しい。この辺の店の中では一番じゃないかな」

「詳しいのね」


「一応、十五年住んでるからな」

 私たちはラーメン屋に入った。鳥白湯の店で、月城が、塩白湯が良いというので、それを食べた。すごくダシがこくて美味しかった。

 月城は私を家まで送ってくれた。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るから」

 玄関のところで月城が言ったとき私は彼のシャツの裾を掴んでいた。

「まだ落ち着かないのよ。もうちょっと一緒にいてくれない?」

「里見さんだって早く寝たいだろう? 俺なんかいたら風呂にも入れないだろうし」

「ううん、月城がいないとお風呂なんか入れない。部屋にいてよ」

 あんなことがあった後じゃ、心細くて一人でお風呂に入れない。


「分かったよ」

 月城は言って部屋の中に入ってくれた。

 月城は机の前に座ってスマホをいじりはじめる。

 私はとにかく時間稼ぎになるものと思って、テレビのリモコンとお菓子と漫画を月城の前に並べた。

「なんだこれ」

「暇つぶしになるかなと思って」


「暇つぶしに『まるごとバナナ』をすすめるなよ。こんなもの暇つぶしで食ってたら頭おかしくなるぞ?」

 月城は私が冷蔵庫から出したお菓子を見て顔をしかめた。

「勝手に帰らないでね? ちゃんと部屋にいてね」

「分かってるから」

「あと、後ろ振り向かないでよね?」


「分かってるよ」


 ワンルームなので、脱衣所と呼べるようなものはなく、キッチンを兼ねた通路から直接お風呂場に繋がっている。

 私は引き出しから着替えとバスタオルを取り出すと、浴室の向かいにある洗濯機の上にそれを置いた。

 それから月城が私を見ていないかと警戒しながら、靴下を脱いだ。

 私は同級生の背中を見ながら裸になった。


 月城はテレビもつけずに、物珍しそうに漫画の表紙をなぞっている。

 私の様子なんて興味がなさそうに見える。

 私が後ろで裸になっているのに、まったく気にしていないのだろうか。それとも、気にしていないふりをしているだけ?

 沈黙がどこかもの欲しげに思えるのは私の勘違いだろうか。

 ふいに眠っている月城のズボンを勝手に脱がせたことを思い出した。

 夜の部屋に二人きり、私は裸だ。今この状況がなんらかのサインを発している気がしているのは私だけ?


「私の裸、覗かないでよ?」

「覗かないって」

「ちょっと、私が裸だからって変なことも考えないでよね!」


「そういうこと言うやつの方が変なことを考えてるんだよ」

 月城が言って、私は急に顔が熱くなる。


「頭の中も覗かないでよ!」

 私は逃げるように風呂場に入ると、シャワーの温度を浴びて頭からかぶった。

「はあ……」


 私は何度もため息をついた。

疲れているのに、ソワソワしていて落ち着かない。とてもそんな元気がないのは分かっているのに、街中を駆けまわりたくなるほど、じってしているのが苦痛だ。

 シャワーの水が床を叩く音が浴室に響いている。それが私のため息をかき消してくれるのがありがたかった。じゃないと、ため息を連発しているのを月城に聞かれてしまっただろう。

 私は頭と身体を洗って、お風呂から出た。身体を拭いて、パジャマを着ると少し気持ちが落ち着いた。


「お風呂あがったよ」

 月城は漫画を読んでいる。

「そうか。じゃあ俺は帰るよ」


「なんで、そうすぐ帰ろうとするのよ」

 私は月城の腕を引っ張った。


「いや、だって里見さんも俺が帰らないと寝れないだろう」

 月城は不思議そうに私を見ているけど、私からすれば、月城の神経が不思議だ。

 どうしてこの男は分かってくれないのだろうか。さっき変な男が部屋に入ってきたのだ。そんなことがあったばかりなのに、一人で寝られるはずはない。

 私はじれったくなった。

 でも、それを言うのはもっと勇気が要った。

 月城の方から提案してくれればいいのに。


「私が寝るまで部屋にいて」

「でも、それだと誰が鍵を閉めるんだ?」

「あんた、それ本気で言ってるの?」

(泊まって行ってって言ってるのよ!!)

 心の中でそう叫んだ。


「いや、鍵は閉めなきゃ物騒だろう。変な男が来たばかりなんだし」

「鍵は私が閉めたわよ」

 私は玄関を指さした。

「じゃあ、俺はどこから出ればいい?」

「あんた、まだそんなこと言ってるの!?」

「何が?」

「何がって、あんたねえ……」


 私はイライラしてくる。この男、わざとやっているんじゃないか。


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