第四章 九兵衛早苗は幹事を任され、里見ひなたは動き出す side 明(3/5)
Side 明
「なんで俺が行きもしないクラス会の手伝いをしなくちゃいけないんだよ」
「だから、何度も言ってるでしょ。別に手伝いはしなくていいんだって。クラス会にも来たくないなら来なくていいから」
「だったら、何の買い物なんだ?」
俺は早苗を睨んで言った。
彼女はさっきから俺の布団の上に座り込み、頑として動こうとしない。
いつもなら家の前の交差点で別れるところを早苗は「良いから、良いから」といって俺の家までついてきた。その時点で嫌な予感がしていた。
それでも、何か帰りたくない理由でもあるのかと思って家にあげ、お茶を出したところまでは良かったのだが、そこから早苗は買い物に付き合ってほしいと言い出した。
「さっきも言ったじゃん。ひなっちに差し入れするんだって」
「なんで?」
「ひなっちのお店でクラス会やるからだよ。仕込みとか当日も忙しくさせちゃうんだから、ちょっとは差し入れとかしないとだめじゃん?」
どうやら早苗は一人暮らしをしている里美さんのために、夕食のおかずを作って持っていきたいようだ。それで俺にもそれに付き合えと言ってきたのだ。持っていきたいなら、勝手に作って、勝手に持っていけばいい。
「俺はクラス会に行かないから」
「だーかーら、クラス会は関係ないって言ってるじゃん? ひなっちに差し入れを持ってくんだから、クラス会に行かなくても付き合ってくれたらいいじゃん」
「イヤだ。俺は里見さんともなるべく関わりたくないんだよ」
「分かってるよ。だから、関わらなくていいんだって。買い物だけ一緒についてきてほしいの」
「なんでだよ」
「それは、あたしが買い物が下手だからだよ」
俺は頭を掻いた。
確かに早苗が買い物が下手だ。早苗はノリがよく、人当たりがいいのだが、裏を返せば勢いに流されやすいところがある。
そのうえ、商店街の八百屋や魚屋とは顔見知りのため、ついほしくもないものを買ってしまったり、色々とお喋りしているうちに何を買おうと思っていたか忘れることがあるのだ。
だから、俺に買い物に付き合ってほしいらしい。
「断る」
俺は言った。
「なんでよ?」
「第一、早苗よくクラス会なんて開こうと思えたよな。俺が帰って来てるのを知ってるくせに」
「しょうがないじゃん? だって、みんなと会いたいねって話になったんだから」
「それなら中三のときの委員長とかに丸投げしてればいいだろう。幹事まで引き受けて、行く店まで決めてノリノリじゃねえか」
「あっきーも一緒に行こうよ。みんなそんなこと気にしてないって」
早苗も俺もこのやりとりに終わりがないことをよく知っていた。
ここ二週間の間に百回は同じやりとりをした。
この話はいつも平行線のまま終わる。それが分かっているから俺はこの話をしたくなかったし、クラス会にはたとえどんな形でも関わらないと決めていた。
「クラス会にもいかないし、買い物も手伝わない」
「別に、手伝わなくていいから!」
「手伝わなくていいなら、買い物に行って何するんだよ」
「あたしが、買い物をするから、間違ったら注意してほしいんだよ。早苗ちゃん、じゃがいも買うの忘れてるよって」
「なんだそれ」
俺は半目になって言った。はじめてのおつかいでもあるまいし、隣に立って一々見ていなくちゃいけないのか?
「ね、それだけで良いんだって。それだけしてくれたらカレーもあたしが作るし、ひなっちの家に届けるのもあたしがするから! だから、お願い。買い物にだけ付き合ってよ」
「ったく、本当にそれしかしないからな?」
俺は仕方なく早苗と一緒に商店街に行くことにした。