第四章 九兵衛早苗は幹事を任され、里見ひなたは動き出す side ひなた(2/5)
「それで、早苗ちゃんは一人で幹事をすることになったの?」
「そう、一人でだよ? あり得なくない? こういうのは委員長と副委員長が別れてやるもんでしょう。男子は男子が呼んだ方よくない?」
「まあ、そういうイメージはあるけど。じゃあ、月城に手伝ってもらえばいいんじゃないの?」
「あっきー? 手伝ってくれるかなあ。どうせあっきーのことだから、『クラス会なんて出るわけないだろ。お前、俺の状況が分かってるのか?』とかなんとかブーブー言うんだよ」
「そうかもね」
「まず、場所が決まらないんだよなあ。ファミレスとかでクラス会やると、周りのお客さんに迷惑だし、かといって公園でたむろするのも感じ悪いし、どこかにちょうどいい大きさの貸し切れるお店ないかなあ」
「あのー、早苗ちゃん?」
私は意味ありげな視線を彼女に向けた。
うちの喫茶店でクラス会をやればいいと思った。先週末から絵里子ちゃんに手伝ってもらいながら、新作ケーキの開発をしている。早苗ちゃんの友だちが、二、三十人も来れば、ケーキの感想もたくさん集まるし、売り上げにも貢献できる。
そうだ。いつまでもくよくよしててはいけない。
あのケーキは作る気がしないなら、新しいケーキ開発に集中しよう。
私は自分の方を指さした。
「ん? 向こう? そ、そうじゃん。商店街の奥にフリースペースがあったよね? でも、あそこって個展とかはできても、クラス会はできるかな?」
「そうじゃなくてここよ。ここ」
「ここ? えー、この喫茶店かあ……」
「なによ、なんか不満でもあるわけ?」
「ここはあたしの隠れ家的な? こんなに紅茶もケーキも美味しくて、静かでくつろげる店、誰にも教えたくないんだよねえ」
「もう早苗ちゃんったら! マドレーヌ食べる?」
私は機嫌をよくしてマドレーヌをカウンターに置いた。
「え、良いの? にしても、どこにしようかなあ」
「早苗ちゃん! 隠したい気持ちは分かるけど、みんなに教えてあげても良いんじゃない?」
私は既にこの店でクラス会をやる準備を考えていた。ケーキは人数分焼いて、小麦粉とか、卵アレルギーの子のために、スイートポテトも作ろうか。
「でも、バイト前に一息つこうと思って入ったら、中学の友だちがこの席に座ってたら悲しいしなあ」
「その席はもう早苗ちゃんにあげちゃう。名前書いて帰って」
「え、良いの? でもなあ、二、三十人も一度に来たら、仕込みとか大変じゃない?」
「そんなことないわよ? 逆に用意する数が分かってる分、売れ残りがでなくて助かるくらい」
「でも、あたしらがはしゃいでるところ、ひなっち一人、働かしちゃうのはイヤだしなあ」
「あー、楽しい。労働って本当に楽しいわねえ。人にこき使われるのって幸せだなあ」
私は慌てて厨房に引き返すと、見るからに楽しそうに返却台の皿を回収し、食洗器を回した。その様子を見ていた早苗ちゃんが、難問に取り掛かるように眉を寄せた。
「もしかして、ひなっち、このお店でクラス会してほしいの?」
「うん……まあ、ハッキリ言えばそうね」
「じゃあ、商店街のフリースペースに掛け合ってみて、そっちがダメならこっちにするよ」
「なんで、なんで? どれだけフリースペースの優先順位高いの?」
「ははは、冗談、冗談! じゃあ、ひなっちのお店でお願いしようかなあ」
話はそういうことでまとまり、私は少しだけモチベーションを取り戻した。クラス会を成功させれば、きっとあの頃のような前向きな気持ちが戻ってくるはずだ。