第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side ひなた(15/15)
「ちがうッ! これは復讐よ……ただの呪いの準備よ……」
私は頭をぶんぶん振って、いやらしいイメージを追い払った。
それなのに、追い払っても追い払っても、月城の顔が頭に浮かぶ。しかも、なぜか怒ったり反抗したりしている顔じゃなくて、妙に従順でちょっとだけ不服そうな顔なのだ。
「何? 私ってドエスなの? なんで、こんなこと考えて興奮してるの……」
駄目だ。さっさと終わらせよう。パンツを履かせて、また脱がせて回収するだけだ。そしたら、占い師さんに呪ってもらって、あとは月城が不幸になるのを遠くから見つめていたらいい。
私はぶんぶんと首を振って、パンツを脱がそうとする。
しかし、お尻が重くて、思うように脱げてくれない……。
「はぁ……はぁ……はぁ……もうちょっと……もうちょっとなのに……」
さっきからドキドキし過ぎて胸が痛い。
「んんっ……うーん……里見さん……?」
月城が寝ぼけまなこで顔をあげ、私は慌てて、パンツから手を離した。
「お、おはよう、月城」
なんで、このタイミングで起きるのよ。もうちょっとだったのに。
そう思いながらも、心のどこかで安心している自分がいるのに気付く。あのまま月城のパンツを脱がせていたら、何か変な性癖に目覚めるところだった。
危なかった、危うく変態になるところだった。
「あ、そうか……俺倒れたんだよな……ん……どうしたんだ?」
月城はベッドの上に乗った私を不審そうに見つめる。彼はパンツ一枚で、ズボンはベッドの端で丸まっている。
終わった……、私は完全に終わったと思った。
「あれ? なんで俺ズボン履いてないんだ?」
月城が目をこすりながら言う。
「こ、これは……これは、あれよ。熱中症だから、熱がこもるといけないでしょう? だから、熱を逃がすためよ。分かる?」
「熱を逃がすより、俺が逃がしてほしいんだけど?」
月城は言って、ベッドから這い出そうとした。明らかに私を警戒している。
「いや、本当に何もしてないから。一生懸命看病してただけだから」
私は怯えきった月城を押し倒すようにして、ベッドに寝かせた。
「ま、マジで何もしてないんだよな? もしかして、里見さん、また俺にパンツを履かせようとした?」
「そ、そんなことするわけないじゃない」
「や、やっぱり……あの手紙って、里見さんが書いたのか?」
「へっ? て、手紙?」
「だって、先週から里見さん、俺に自分のパンティを履かせようとしてるだろ? だから、手紙の主って里見さんなのかなと思って」
「は、はあ? 何言ってるのか全然分からないわね」
「里美さんがさっき背中に隠したパンツ、この前、俺の手紙に入ってたパンツとよく似てるんだよな……」
「ふ、ふーん、それは珍しい偶然ね」
「里美さん……もしかして、俺のこと好きだったりする?」
月城はそういって決まり悪そうに視線をそらした。
「は、はあ? キモすぎ。あり得ない。私があんたのことなんか好きなわけないでしょ。自意識過剰じゃない?」
「そ、そうだよな。ご、ごめん忘れてくれ」
「じゃあ、私はもう教室に戻るから。あんたも体調が戻ったら午後の授業受けなさいよね!!」
私は早口でそう言うと、保健室から逃げるように飛び出した。




