第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side ひなた(14/15)
月城と二人きり。
渡辺先生のデスクの横に金魚を飼った小さな水槽がある。水槽のポンプの音だけが、静寂の底にずーんと響いている。
私は月城の顔の前で手を振ってみた。反応なし。
「おーい、月城? 聞こえたら返事しろ?」
声をかけてみるもこれまた反応なし。
「聞いてるんでしょ、この出戻り男。古米男。腐れ汁」
私は月城のほっぺたをツンツンとついてみた。
「私を怒らせたあんたが悪いんだからね」
私はポケットの中に入れたポーチから、パンツを取り出した。
それからベッドの上に乗りあがり、月城のベルトを緩めた。いとも簡単に外れ、力を失ったようにベルトが腰から垂れさがっている。
それを見ていると、なんだか冒涜的な光景に思えてくる。自分より二十センチは高い男の人の股間がこんなに無防備で良いものかと思った。
無防備にしたのは私なんだけど。
私の心臓はドキドキしていた。
もう何がなんだか分からない。寝ている同級生の男の子のズボンを下ろしているからドキドキしているのか、月城が起きやしないかとハラハラしているのか。
ベルトを外すとジッパーを下ろして、ズボンの裾を引っ張った。お尻が重くて中々ズボンが抜けない。
月城の腰を抱くようにしてお尻に手を回すと、引っかかっているズボンのウェスト部分を必死にずり下ろした。そのとき、鼻先を股間に埋めるような格好になり、もったりと甘い匂いが鼻をかすめた。
くさくはない。不快ではないが、感情を揺さぶるこもった匂いだった。
私は息を止めた。こんなのをかいでいると頭がおかしくなりそうだった。
ズボンを足から抜く。
ズボンをベッドに置くと、月城に目をやった。
彼はまだ起きない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
寝ている人の服を脱がすのはかなり体力を使う作業で、息が上がって心臓が苦しい。
ズボンに引っ張られてパンツがズレかかっていた。
無骨な腰骨がはみ出て、鼠径部のくぼみが露わになっている。
それを見たとき、じんじんと下腹部が疼いた。
顔が尋常じゃなく熱い。
力が抜けて座り込んでしまいそうになる。座り込んだら動けない気がする。
「無理無理、絶対下ろせない」
私は首を振った。
月城のパンツはわずかに膨らんでいて、その下にあるものを想像してしまう。思いついたときは何でもないと思ったのだが、実際にやってみるとこれはダメすぎる。
月城が寝ている間にパンツを取りかえてやろうと思ったが、いざパンツ姿の彼を見ていると、そんな勇気もなくなってくる。
無理だ。パンツは下ろせない。
「でも……もし、月城が私のパンツを履いたら……」
その瞬間、身震いするほど脳が痺れた。
月城が恥ずかしそうにしながら、すがるように私を見つめるところを想像してしまう。
月城に私のパンツを履かせて生活させたら、彼はきっと落ち着かない様子で授業中にため息をついたり、頭を掻いたりして、最後には「……もう良いだろ?」と言って私に許しを請うだろう。
自分がとんでもなく変態なことを考えていると気が付き、私は顔を上げた。