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第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side ひなた(13/15)

 やっぱり月城は嫌いだ。

 私はテキトーにうちわをあおぎながら月城を見た。

 なんで私が罪悪感を感じなくちゃいけないワケ?


 月城は私を傷つけたくせに、そのことにも無自覚で、私がケーキを作れなくなったことも知らずに楽しく生きている。

 私がそれにちょっと仕返しをしただけなのに、こんなことになってしまう。


 本当にバカだ。私は悪くない。こいつが体調管理をしなかったからだ。自動販売機でお茶買えば良かったじゃん。


 私は月城に水をかけただけで、熱中症になった直接の原因を作ったわけじゃない。まあ、月城が警戒して水を汲みに行かなくなったのは私のせいだけど。

 でも、私のせいじゃない。私は悪くない。

 自動販売機でお茶買えば済む話だし。


 お茶を買うお金もなかったのだろうかと考えて、私はハッとした。

 私ならどうだろうか。私は親に無理を言って一人暮らしさせてもらっている。

 お母さんには半分ケンカみたいな感じで、一人暮らしを認めさせた。お母さんがどうしても普通科に行けってうるさいから、普通科ならどこでも良いんでしょ、と言ってここの高校を受けたのだ。

 お母さんは怒ったけど、「お母さんが普通科に行けって言った」の一点で私はお母さんを黙らせて、一人暮らしを認めさせた。だって私は本当は栄養科学コースに行きたかったんだもん。

それが体調を崩して「やっぱりあんたには無理だったじゃない」なんて言われながら実家に連れ戻される。


「あんたの家賃も食費もみんな無駄だったわね」なんて言われたら、お小遣いが欲しいって言えるだろうか。


 私はそこで頭をぶんぶん振った。私は鬱になんかならないし、自活できないほど弱くない。寂しくて夜泣いちゃうときもあるけど、それで壊れたりなんかしない。

 私はこいつとは違う。


「そっか、私はこいつのそういうところも嫌いなんだ」


 私は気がついてしまった。

 私のケーキを否定したことは許せない。嫌味なケーキを渡してきたことも許せないが、それよりも月城の存在自体が私を苛立たせるんだ。


 私は月城がこなければ、一人暮らしに不安なんておぼえなかったし、鬱になって親に連れ戻されるなんて考えもしなかった。

 それが月城が来てから、あんな風になったらどうしよう、あんなのは絶対イヤだって思う。


 それだけでも感情をかき乱されるのだ。だから、私はいつも言い聞かせる。実家に帰ったら、あんたも月城みたいになるのよ。だから、しっかりしなきゃだめ。

 そうしないと月城みたいにさえない転校生になるのよって。


 そうやって自分を奮い立たせているのに、月城が早苗ちゃんとお話ししながら屈託なく笑っている姿を見ると力が抜けてしまう。地元に戻っても居場所があるんだろうか、なんて弱気なことを考えてしまうのだ。


「あんたが楽しそうにしているのを見てると、イライラしてくるのよ」

 私は眠っている月城に向かって言った。

「早苗ちゃんと一緒に登校して、楽しそうにじゃれ合ったりもしてムカつくのよ。あんたは一人暮らしもできず、実家に連れ戻されたんでしょ。なんでヘラヘラしてるのよ」


 怒りに任せて言った。

「せめて不幸になってよ。親に連れ戻されたんでしょ。居たくもなかった地元に戻ってきたんでしょ。もっと不幸そうにしなさいよ」


 私は眠っている月城に言った。

 月城は言い返してもこなかったし、怒ることもしなかった。しんどそうではあるものの、快適そうに眠っているだけだ。

 ムカつく。

 私は拳を握りしめた。

 呪いだと思った。


 月城を呪って不幸にするのだ。そうしたらあの日の恨みも晴らせるし、月城を見て、嫌な気分になることもない。

 月城は多分、早苗ちゃんが好きなんだろう。早苗ちゃんに連れられて寄り道させられているところも何度か見たことがある。

呪いが効いたら、きっと早苗ちゃんに他の彼氏ができて、月城はひとり寂しく、冴えない顔して登校するはずだ。


「里見ちゃん、月城くんの様子は?」

 カーテン越しに渡辺先生の声が聞こえてきた。

「たぶん、大丈夫だと思います。お水も飲んだし、顔色もよくなったし、身体も熱くないです」

私は月城のおでこに触れて言った。

「汗は引いた? 身体が痙攣したりとかは」

「ないと思います」

「それは良かった。先生、ちょっと骨折してるかもしれない男の子を連れて病院に行ってくるから。月城くん、見といてくれる?」

「分かりました」

「様子がおかしかったら、職員室に行って田中先生に診てもらって。必要なら救急車呼ぶように伝えておくから」

「はい」


 渡辺先生はてきぱきと準備を進めると、さっきの男子生徒を連れて保健室を出ていく。カーテンを開いて、ちらりと様子を見ると、男子生徒は副木をして腕を釣っていた。

 保健室は急に静かになった。


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