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第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side 明(5/15)


 Side 明


 筆箱の下の封筒に気が付いたのは、俺が昼休みの間際に慌ててトイレに行った帰りだった。

 俺は自分の席に着くと、午後からはじまる数学Ⅰの教科書を机の中から引っ張り出した。ノートと一緒に重ねておき、筆箱に目をやったところで、下に封筒があることに気が付いた。


 俺は封筒をつまみあげると、裏返してみた。裏表ともに、何も書かれていない。

やや膨らみのある封筒で、触るとふわりとやわらかく沈む。

 誰からだろうと首をかしげる。


「なあ、里見さん、この封筒、俺の机にあったんだけど、何か知ってるか?」

 俺は隣の里見さんに聞いてみた。

「へっ? 封筒? 知らないけど、どうして?」

「いや、あて先が書かれてないんだよ。なんか嫌な予感がしてさ。誰が置いてったか知らない?」

「さあ……」

 里見さんが首をかしげる。


「誰かが俺の席に近づいたりしなかった?」

「申し訳ないけど、あなたの机に誰が来たかなんて一々気にしてないから」

 なんとなく言葉にトゲがあるような気はするが、里見さんはいつもこんな感じだ。彼女が知らないというなら知らないのだろう。


「開けて良いのかな」

 里見さんは何も答えない。

 俺は恐る恐る封を手でちぎり、中身取り出した。

 俺は三つに折られた便箋を読み始め、「へっ…………?」と気の抜けた声を出して、手紙をたたんだ。


 こ、これは……ラブレターだ。しかも、ひとめぼれの片思いというやつか、彼女は自分の名前を名乗ることもしない。その勇気が出ないことを綴り、俺のことが大好きだということが一途な文字から伝わってくる。

 俺はあまりの急展開に読むのをやめ、一度呼吸を整えた。

 心臓がドキドキしてきた。これを書いた女の子はどんな子なのだろう。文体と文字からすごくまっすぐで清楚な感じが伝わってくる。


 俺が転校してからまだ二週間しか経っていない。とすると、やっぱりひとめぼれ、俺に一目ぼれしてくれたんだろう。

 イタズラやドッキリの類ではないと直感的に分かった。便箋に含まされた香水の香りがそれを物語っている。


「よし……」


 俺は脳内で黒髪ロングの清楚な女子高生を思い描きながら、続きを読む。

 しかし、手紙は後半にさしかかったところで、ワイルドスピードか、マッドマックス並みのドリフトをかまして、明後日の方向へと突き進んでいく。


「ひっ? ひええ……」


 俺は小声で悲鳴をあげた。

 その女子は俺への思いを一生打ち明けられないことを嘆き、せめてもの繋がりを求めて、俺にパンツを履いて欲しいと書いてきた。

 俺はさきほど触った封筒の膨らみを思い出す。

 ドキッ……。心臓が疼いた。

 俺は慌てて封筒を覗き込んだ。

 パ、パンティだ。

 大人の女性が、部屋着で履くような、つるりとした生地のやわらかいパンティだった。

 俺はもう一度手紙に戻る。


「こんな方法しか取れないことを残念に思います。もっと自信のある女の子になれたらな

もし、パンツを履いてくれたら、金曜日の放課後、月城くんの席の机の中に封筒を入れておいてください

最後に、もう一度だけ言わせてね。月城くんのことがすごく、すごく好きです」



 俺は小声で最後の文を読み、慌てて、手紙を封筒に戻して、カバンに押しこんだ。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしょう!!

 女の子から告白されちゃった! しかも、とんでもなくヤバい女の子だ。

 この子の思いが一生懸命なのは分かる。本当にシャイなだけで、そんなに悪い子じゃないのも分かる。で、でも、告白なんてできないからって俺に自分のパンティを履いて欲しいってなんだよ……。

清楚が振り切れて、とんでもないド変態になっている!


 俺は頭をかく。

 まず第一に、これは本当にイタズラやドッキリの類ではないかということだ。


 多分、それはあり得ないんじゃないだろうか。

 綺麗な文字は罫線にぴったりと沿っているし、字には迷いがない。

 じゃあ、この手紙がガチだとして、俺はこの子にどう応じるかだ。

 俺だって年頃の男だ。彼女はほしい。女の子が俺のことを憎からず思ってくれているなら、会って、話してみたい。どんな子かだけでも確かめてみたい。

 

 でも、彼女はそれを嫌がっている。そして、俺は彼女のメールアドレスすら知らない。つまり、彼女とコミュニケーションをとる手段はこの手紙だけ。

 金曜日の放課後に俺が履いたパンティをこの机の中に入れておけば、そのパンティに手紙を挟んでおけば、連絡が取れるかもだが……。

 

 でも、そのために俺はこのパンティを履くのか?


「それはキモすぎるだろ!!」


 え、だって、それはエロいとかじゃなくてオカシイ。男が、女装もしてないのに女物のパンティを履くなんて、気持ち悪い。

 俺は自分があのパンティを履くところを想像してゾクゾクとした。でも、それが生理的な不快感なのか、倒錯的な高揚感なのかも分からない。


 いや、やっぱりエロいとかじゃないよな? 女物のパンティを自分で履くんだぞ? しかもそれは、顔も知らない女の子のもので、その子が普段から履いているやつだ。


 え、エロい……かも……。


 俺はぶんぶんと頭を振った。

 だめだ、だめだ。考えれば考えるほど、自分が変態になっていく。もう考えるな、お前は何も考えるな。


 俺はもう何が何だか分からないまま、授業に集中しようと努めた。


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