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第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side ひなた(4/15)

 目の前には便箋がある。

 その前に正座をして、なるべくかわいい女の子の字で手紙を書き始めた。


 月城くんへ。


 突然の手紙で驚いたよね。ごめんね

 月城くんのことがずっと好きでした

 すごく好きです


 私は恥ずかしがり屋で、たぶん一生告白できないと思います。だから、私は月城くんと付き合うことはできないでしょう。フラれるのが怖くて、名前すら明かせないからです。月城くんと付き合うのはもう諦めています。告白したところで、こんな私じゃオッケーしてもらえないだろうから……

 だから、せめて月城くんに私のパンツを履いて欲しいです

 パンツを同封します

 どうか一生のお願いです。私のパンツを履いてください。それだけで私は月城くんと恋をした気持ちになれるのです。このドキドキに満ちたりた幸せを感じられるのです


 突然、こんな気持ち悪い手紙を書いてごめんなさい。きっと怖いよね

 でも、抑えきれませんでした。でも、怖くて面と向かっては告白できないだろうから。

 こんな方法しか取れないことを残念に思います。もっと自信のある女の子になれたらな

もし、パンツを履いてくれたら、金曜日の放課後、月城くんの席の机の中に封筒を入れておいてください


 最後に、もう一度だけ言わせてね。月城くんのことがすごく、すごく好きです




「やば、私って文才あるんじゃない?」

 私は一息に書き上げた手紙を見て言った。


 作戦は『名前を言えないシャイな女の子からの手紙を装ってパンツを渡す作戦』だ。


 シャイな女の子からの一生のお願いとあれば、パンツを履いてくれるに違いない。そして、それを金曜日の放課後に回収すればいい。

 これなら私の名前に傷はつかないし、ちょっと変態だけどかわいそうな女の子に同情をして、パンツを履いてくれる可能性は高い。

 だって、女の子の頼みだもん。



 月城が一瞬、席を離れたすきに、筆箱の下に挟んでおくことにしよう。

 私はそう決めると、手紙を三つ折りにして封筒に入れた。それから、パンツを丁寧に畳んで、香水をひと振りして、封筒に入れる。

 勝手に開かないよう丁寧に糊付けすると、私は鞄の中にしまって、布団に入った。

 寝ようと思って電気を消したのに、なぜか先ほどまであのパンツが包み込んでいたお尻とか股の周りに、パンツの感触が残っているような気がする。


 やわらかく股間をしめつけながら、じんわりと股のところがあったかいような気がしている。

 目を閉じると、なぜか制服姿の月城が頭に浮かぶ。制ズボンの下に私のパンツを履いていることを私だけが知っている。今、私が感じている温かい締め付け感を月城も感じているのか、じれったそうに私を見る。


 ドキッとして私は慌てて飛び起きた。


「ぬああああああああああ」


 な、なんで、こんなこと考えているの、私! これじゃあまるで変態じゃない。

 大体、私はそういうつもりで、月城にパンツを履かせるのではない。あいつを呪うため、あいつが好きな女の子から、都合のいい男としてこき使われながら、呆気なく他の男に取られる体質にするためよ。

 これは復讐なんだから。

 あいつは嫌な男。


 でも、ゴキブリを退治してくれた……。

 でも、私に嫌味なケーキを寄越した。


「もう良い寝る!」


 私は布団に潜り込んで、目を閉じた。

 だけど、浮かんでくるのはごちゃごちゃした東京の下町で、買い物袋を提げて歩く月城。私と入れ違うようにして、東京で半年を過ごした月城。Tシャツにジーンズ姿だけど、その下には私のパンツを履いている……。


「違うってばああああああああああ」


 私は叫んで飛び起きた。今、なんか変なこと考えてなかった? 

 頭をぶんぶんと振って、思考をリセットしてから再び布団に潜り込む。

 もう東京のことは忘れよう。地元に戻りたいって気持ちが、あんなことを考えさせたのよ。

 次の瞬間、脳内の景色が一変する。


 舞台は西洋のお屋敷、私はその家の一人娘で、月城は借金のカタに身受けされた小間使い。


 月城は主人である私の言いつけに逆らえない。私が女物のパンツを履きなさいって言えば、月城は恥ずかしながらも自分からズボンを脱ぎ、パンツを脱ぎ、私のパンツを手に取る。それから、羞恥に瞳を揺らしながら、私のパンツを履き始める……。

 私はパンティ姿の月城を踏みつけて、彼にもっと強く踏んでほしいと言わせようとする……。


「なんで、こうなるのおおおおおおおおおおおおおおお!」

 私は勝手に暴走する妄想に悲鳴をあげて、掛け布団をベッドの下に蹴り落した。

 暑い。


 掛け布団なんかいらない。

 はあ……、なんか変な気分になってしまった。


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