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第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する side ひなた(3/15)



 Side ひなた


「どれにしようかなあ。一番お気に入りのやつって言ってたわよね?」


 私は床にパンツを並べて、考え込んでいた。

 月城を呪うために、あいつの悩み事は聞き取った。これで、あの占い屋さんの呪いが月城の一番弱いところを突き抜けて、あいつに影響を与えるだろう。


 次は私のパンツを月城に履かせることだ。髪の毛は最悪、あいつがバカみたいな顔して、教室で座っているところを後ろから引き抜けばいい。円形脱毛症ができるくらい思いっきり引っ張ってやればいい。


 髪の毛は何とでもなるから、まずは月城に私のパンツを履かせることが先決だ。

 そこでいくつかの作戦を考えた。

 だが、その作戦を実行する前に、一番お気に入りのパンツを選ばなくちゃいけない。


「黒のこれは、かわいいけど、ちょっといやらしすぎるからな……」

 一番お気に入りではない。

 青いやつはかわいいけど、はきすぎてちょっとくたびれてきている。

 ってことは、これと、これかなあ。私は候補を二つに絞った。

 ひとつはピンクのシルクのパンツで、よく言えばシンプル。悪く言えばちょっとダサいのだけど、履き心地も良いし、履いてみると意外とかわいい。

 もう一つは黄色のパンツでこっちは黄色のブラと上下で買ったやつだ。黄色のブラも気に入っているから、必然的にセットで履くことが多い。こっちもお気に入りだった。


「よし、こっちにしよう」

 私はパンツを一つ選ぶ。お気に入りだし、最後に一度履いてみることにする。パジャマを脱いで、パンツを脱いで、目の前のパンツに足を通した。鏡の前で見てみると、やっぱりかわいい。

 最後にこれを履いてどこかにお出かけしたかったところだけど、計画は明日の朝、実行するから、そんな時間はない。


「これを月城が履くのか……」


 私は自分の股のあたりを見つめてしまう。今自分が履いているパンツを、月城が履いて過ごすところを想像する。

 何気なく授業を受けている月城の横顔が浮かぶ。そのなんでもない制服姿の下に、私のパンツを履いている。あいつはそれに戸惑っているのか、居心地の悪そうな顔をして、むすっと黙って授業を受けている。でも、完璧に冷静というわけでもなく、ときどきもぞもぞと腰を浮かせて、悩ましそうにため息を吐く。


 どきっ……。


 そこまで考えて私は顔を上げた。私は今、何を想像していたんだろう。なんで、急に胸のあたりが疼いたのだろう。

 私はあいつに自分のパンツを履かせようとしている。冷静に考えたらヤバい女だ。

 どきっ……。


 違う、これはそういうドキドキじゃない。ほんとうにこれを履いてくれるんだろうか、なんてことを考えたら不覚にもドキッとしてしまっただけだ。


「やだっ、なんで顔が赤くなってるの? 私キモすぎる!」


 姿見の中に真っ赤になった自分を見つけて、手で顔を仰いだ。何に興奮しているんだろう。

「ばっかみたい! こんなの変態みたいじゃない……」


 私は頭をぶんぶんと振る。

 違う、これは月城が履いてくれるかどうかが不安で緊張してきちゃっただけ。だって、そうじゃない。自分のお気に入りのパンツを拒絶されるかもしれないのだから、不安とか、心配とか、期待とかそういう気持ちでドキンとするのは不思議じゃない。

 別にあんな男に自分のパンツを履かせることに、変な気持ちになっているわけじゃない。

 私は頭をぶんぶん振った。


 あいつは大嫌い。本当に嫌な男なのだ。あいつは私の唯一、お店で出すのを許されたケーキを否定した。

 でも、私の一人暮らしを心配して、紙皿と割りばしをくれたし、ゴキブリの退治もしてくれた。

 だから、何? そんなことで許したわけじゃない。


 あいつは面白がるようにマズい、マズいって食べて、それだけじゃなく、私に別の店の似たようなケーキを送ってきやがった。


「このケーキでも食べて勉強しろよ」

 そういって大袈裟に首をすくめるあいつの顔が浮かぶ。

 思い出すとムカついてきた。すっごくムカついてきた。これで良い。占い師さんにあいつを呪ってもらうのだ。

 私はパンツを脱ぐと、それを一度床に置いて、テーブルに向かった。


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