第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する(1/15)
第三章 妹たちは勝手な計画を立て、月城明は誤解する。
Side 美央
早く言いたい。
さくっちにうちのナイスアイデアを伝えなきゃ。だって、さくっちも絶対賛成してくれるはずだし、うちとさくっちにとっても良いことづくめなんだから。
うちは待ちきれなくなっていた。あと十五分の授業が終われば、きっとさくっちとこのわくわくを分かち合える。
最近の早苗姉さんは感情の浮き沈みが激しい。
機嫌よく鼻歌なんかを歌っている日があると思うと、難しい顔をして黙りこんで、うちが何かを言っても、まったく聞こえていないときもある。
かと思えば、お酒でも飲んでるみたいに、ちょっとしたことで笑いが止まらなくなって、機嫌よくうちの肩をぺしぺし叩いたりする。
さくっちのお兄ちゃん、明くんが地元に戻ってくると知った頃からだと思う。
明くんとお姉ちゃんはうちとさくっちの関係と全く同じだ。唯一無二の親友で、なんでも話しあえる相手。
違うところがあれば、それは同性か異性かの違いだろう。
さくっちとうちは同性の親友だから、今まで通り変わりなく仲良くしていればいいだけだが、あの二人は見ててじれったいところがある。
お二人はどうするの? ハッキリして!って言いたくなるときもあるけど、別に親友のままならそれでいい。
恋人になって別れられるとうちとさくっちも何かとやりにくくなるしね。
明くんが東京の高校に進学すると聞いたときは早苗姉さんは泣いていた。
家で泣きごとを言ったりしない早苗姉さんが、明くんとラインしながら、目元をおさえていたのを見たときはびっくりした。
高校に入ってからも塞ぎこんでいたというか、普通に生活して、高校の友だちもすぐにできた(早苗姉さんなら当然だけど)みたいだが、ときどきぼーっと何もないところを見つめていたり、うちの話を聞いていないことがよくあった。
明くんのことを心配していたんだと思う。
明くんが帰ってくるんだって伝えたときの早苗姉さんの顔は今でも忘れられない。
「え? なんで?」
って顔を曇らせて、明くんのことを心配していたのだけど、ちょっと怒っているような迫力もあった。うちには、早苗姉さんが嬉しい気持ちをわざと抑え込んでいるのが分かった。
けど、帰ってきたら帰ってきたで最初の方こそ嬉しそうにニコニコしていた早苗姉さんだけど、最近はときどき落ち込むことがあるみたいで、むすっと考え込んでいる。
まったく姉というのは手のかかる生き物だ。こうなると、妹であるうちがなんとかしなきゃいけない。
チャイムが鳴り、午前の授業が終わるとうちはお弁当を持って急いでさくっちの席に向かった。
「聞いて、聞いて!」
「聞く、聞く!」
さくっちがテンションを合わせてくれる。
「早苗姉さんと明くんにお手紙のやりとりをさせるってのはどうよ」
そうだ。お手紙作戦だ。
「ん? わたしたちって便箋の使い道でも相談してたっけ?」
さくっちが不思議そうに首を傾げた。
「もう、早とちりしないでよ。順番に聞いて?」
「じゃあ、順番に話してよ」
うちらは声を立てて笑った。
うちは昨日あった出来事を話した。
昨日の早苗姉さんは、何かを考え込んでいるようだった。どうしたのかと、聞いてみると、「あっきー、やっぱり地元に帰ってきたこと、ちょっと気にしてるみたいなんだよね……」とため息をついた。
明くんの元気がないことを早苗姉さんは心配しているみたいだったのだ。
だから、うちは早苗姉さんに言ってあげた。
「なにか、励ますようなお手紙を書いてみたら良いんじゃん!」
「手紙?」
「そう、そう。手紙だと、普段は言いにくいことを素直に伝えられるじゃん? だから、明くんが帰ってきちゃったことを恥ずかしいと思ってても、早苗姉さんとしては帰って来て嬉しいって気持ちを伝えてみたら? そしたら、明くんだって慰められるかも」
「あっきーって手紙とか面倒くさがるから。ラインできるのに、なんでわざわざ手紙なんか書くんだよって」
「じゃあ、ラインで言えば?」
「改まってラインで言うなんて変じゃん」
「じゃあ、お手紙書けば?」
「あっきーはめんどくさがり屋だから」
早苗姉さんはそう言って手紙を書くのを渋っていた。
「そこでさくっちの出番だよ。さくっちが早苗姉さんにちゃんとお返事を書くように、明くんを説得するの」
うちはさくっちのかわいい奥二重を覗き込んだ。
「えー、どう説得するの? 早苗ちゃんからお手紙が届いたんでしょ? お返事書きなさい!って、いつまでも子どもじゃあるまいし、そんなこと言えないよ。第一、わたしがお手紙を届いたことを知ってたらおかしいよ」
「そこだよ。そこ」
うちはそこまでバカじゃない。ちゃんと考えてきた。早苗姉さんの手紙をうちが受け取り、それをさくっちに渡すのだ。
そして、さくっちが明くんに手紙を渡せば、さくっちが手紙をもらったことを知ってても不思議じゃない。
うちはそのアイデアをさくっちに話した。
「なるほど、わたしたちが郵便屋さんになるんだね!」
「そういうことよ」
「それは楽しそう。郵便屋さんごっこができるね。『もしもし、切手が五十円足らないのですが……』」
「それよ、それよ。住所が間違ってるので送り返します!みたいな?」
うちらは、そんなことを言い合いながら、早苗姉さんと明くんにお手紙のやりとりをさせることに決めた。




