第二章 月城明と里見ひなたはケンカをする。その結果、ハッピーエンドは遠のく sideひなた(9/10)
私は自分のことのように共感して、黙っていただけだったけど、それを月城はじっと話を聞いてくれたと思ったらしい。
「ほんとだ。里見さんの言う通りだ。この話、本当に誰にもしてなかったんだよな、妹にも、早苗にも。だから、話せただけでスッキリしたよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、俺帰るから」
「え、もう?」
私は少し寂しい気がした。だって、月城なら、一人でご飯を食べる寂しさを分かってくれるはずで、それならご飯くらい一緒に食べてくれてもいいのに。
「なんで」
「ピザとろうよ! せっかくだし、二人で食べない?」
私はテーブルに置いてあったピザのチラシを手に取った。
「それ、ゴキブリ叩いたチラシだぞ?」
「バカ!! いつまでここに置いてるのよ!!」
私は月城を叩いた。慌てて折りたたまれたチラシをゴミ箱に投げ入れる。
「はは、いや、ありがたいんだけどさ、家で飯あるし、それにさくらが一人で待ってるだろうから、早く帰ってやらないと」
「さくらって妹さん?」
「そう」
「そう……」
「じゃあ、お腹すいたら持ってきたお菓子食べてよ」
月城はそう言って立ち上がる。私は玄関まで月城を送りに立つ。
「今日はありがとうね」
「おう」
………………。
私が何も言わなかったからか、微妙な沈黙が流れる。その沈黙がどこかもの欲しげに感じるのは私だけ? いや、別にもの欲しげって何かを期待しているわけじゃないし。
っていうか、こいつは私のケーキをマズいって言って、それだけならともかく面白がるように食べた嫌な男だ。
今日だって話の流れで家にあげて、ゴキブリを退治してくれたお礼にピザを取ってあげてもいいかと思っただけ。
「じゃ、じゃあ」
「うん、また明日」
私はそう言って手を振った。月城がアパートの廊下を歩き、階段をおりて見えなくなるまで彼を見送る。
彼が見えなくなったあと、私はドアに鍵をかけて、そこにもたれかかった。
「でも、ケーキをマズいマズいって面白がるように食べたのも、ちょっと悪ふざけが過ぎただけって感じ? いや、絶対許せないけど、呪うほど悪い人じゃないのかなって思ったり」
私は少しだけ月城の評価を軌道修正した。でも、これはあくまで軌道修正であって、別にちょっと助けてもらったからって、許したわけじゃない。
そんなことで許せるほど、私の傷は浅くない。
でも、いっぱい仲直りの印貰っちゃった。私はなにもあげてないのに。
部屋に戻り、冷蔵庫を開ける。
「そういうところ、意外といいやつなんだよね」
月城が買ってきてくれたお菓子を開けてみる。
でも、月城に対するちょっとした親近感も、次の瞬間には完全に消え失せていた。
むしろ、仲良くなった分だけマジの恐怖を感じた。
え。
お菓子を開けて、私は凍り付いた。
え、なにこれ、どういうこと?
そこに入っていたのは、近所にあるケーキ屋で買った、オレンジのロールケーキだった。
上に粉砂糖とクラッシュナッツがたっぷりかかっていることから、私が作ったケーキと似た味になることは予想できる。
「え…………だって、マズいって言ってたじゃん…………」