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第二章 月城明と里見ひなたはケンカをする。その結果、ハッピーエンドは遠のく side明(3/10)

「本当? 友だちはできた?」

「何人か男子とも話したよ。一応、話の合いそうな男子グループにいるようにはしてる」

 クラスでも一学期の間に交友関係ができあがっていて、いきなり入ってきた俺が一から友だちを作れるタイミングはそう多くない。

「転校前の話とかした? 東京の様子とか聞かれて会話が弾んだり……」

「いや、昼休みは誰かが持ってきた変身ベルトでライダーごっこをしただけだ。放課後はアイドルオタクの男子に教わってオタ芸をするノリだったな」

「男子ってアホだねえ。誰が変身ベルトなんか持ってきたの?」

「名前は知らないよ。顔は覚えたけど」


 俺が言うと、早苗は理解に苦しむと言いたげに首をかしげた。

「なんで、知らないわけ? 名前とか聞いて、仲良くなったんじゃないの?」

「名前なんか聞いて、仲良くなるかよ。とにかく変身ベルトを持ってきてるやつがいたら、順に変身するんだよ」


 高校生にもなってライダーごっこをするなんて女子からは想像がつかないだろうが、男子はする。なんなら大半は大学生になってもしているだろうし、一部は社会人になってもするだろう。

 誰がなんといおうと男子はライダーごっこをするのだ。

 名前なんて、他の男子が呼んでいるように呼んでたら良いし、本名はそのうち覚えるはずだ。

 とにかく一学期も終わり、さぐりさぐりの会話もすでに終わっているのだ。二学期からはライダーごっこが始まるのだから、俺はそれに参加するしかない。


「でもでも、やっぱりまずはお互いのこと知らなきゃじゃん? 名前くらいは聞かないと」

「ライダーごっこの最中に名前なんか聞いてたら、アホだと思われるだろ」

「ライダーごっこしてる方がアホだけどね?」

「早苗には分からないんだよ」

「女子とは? 女子の友だちはできた?」

「どうかな。隣の女子はなんか感じが悪いんだよ」

 俺は今朝のことを早苗に話した。

 隣の女子とは自己紹介をして、本名も一応覚えた。

 里見ひなた。


 俺が転校生と聞いて、悩みがあったらいつでも相談してと言われたときにはすごくいい子だと思ったのだが、今すぐに悩みを教えろとしつこい上に、その理由というのが里見さんの悩みの参考にするためだ。

 しかも、その悩みが「悩みがないのが悩み」とかいう屁理屈みたいな話で、そんなのの参考にされたらたまらないとそれ以降口をきいていないのだ。

 その話をすると、早苗は不思議そうに首をかしげた。


「そんな嫌な子じゃないと思うけどなあ、ひなっち」

「でも、なんかやたらと俺に相談させようとしてしつこかったんだよ」

「それは多分きっと裏の理由があるんだよ」

「表の理由もくだらないのに裏の理由があるとは思えないがな」


 早苗はそこでしばらく考えるようにしていたが、何か思い当たることがあるのか、急に視線をあげた。

「あ、そうだ。きっと、ひなっちはあっきーの事情に共感してるんだよ」

「俺の事情?」

「そう。ひなっちって実は東京に住んでたんだけど、こっちの高校に通うために一人暮らしを始めたんだって。なんでもおばさんのお店で料理を教わるため、みたいな?」

「それがどうかしたのか?」

「でね、一人暮らしが大変で、一学期の頃は毎日のように帰りたい、帰りたい、って言ってたんだよ」

「その気持ちは俺にも理解できるよ」


 一人暮らしは本当に何かと大変だった。

 まず料理、洗濯、掃除とすべて自分でやらなくてはいけないのが辛い。それに、家は寂しいし、ホラー映画を見たあとは心細い。そのうえ、慣れない土地で入ったうどん屋は口に合わないし、水の味さえ慣れない。

 俺が精神的に調子を崩したのはそれが原因だった。水が美味しくないのは本当に苦痛で、いつもそれを飲むわけだし、水筒にも入れてもっていく。それが口に合わないと、それだけで病んでくるのだ。


「でしょ? 言ってみれば、あっきーは一人暮らしの末に地元に戻ってきた人で、ひなっちは帰りたいと思いながらも一人でなんとか持ちこたえてる。だから、きっとあっきーの境遇に共感して、なんか力になってあげたいと思ったんじゃない?」

「そうだったのかも……」

 確かにそれだと納得がいく。俺自身、一人暮らしが辛いのを分かち合える人は少なかった。それも辛かったのだ。

 里見さんは、俺と一人暮らしの苦労話とかを共有したかったんじゃないだろうか。


「俺、悪いことしちゃったな。彼女の悩みとか否定したし、酷いことも言った。謝らないと」

 俺は部屋で一人、天井を眺めているあの間延びした時間を思い出していた。

 あのむなしさ、あのさびしさ、無気力な空間で、希望もなくただただ時間が流れていくのを待っている。時間が流れたところで何があるというわけでもないのに。

 里見さんは、二学期になって多少は友だちもできただろうか。家に誰かを呼んだり、学校の帰りに友だちと飲食店に寄ったりすることはあるのだろうか。

 少なくとも一学期の俺にはそんなことはほとんどなかった。

 そういった孤独を里美さんは克服できたのだろうか。

 謝りたい。間違っていたからとか、俺に非があるから謝るんじゃない。気持ちが分かるからこそ、ちゃんと謝りたいと思った。


「仲直りの印とか送ったらよくない?」

 早苗がそこで声を弾ませた。

「そこまですることかな?」

「うん。口で言っても伝わらないかもじゃん? でも、ひなっちは一人暮らしで何かと不自由してるから、あっきーだからこそ分かる一人暮らしの便利グッズとか渡せば、ばっちり伝わるみたいな」

「それは良いかもな」


「よし、分かった。じゃあ、ひなっちにあっきーにラインのアカウント教えて良いか聞いとくよ。後は適当にどこかで待ち合わせして、びしっと仲直りの印を送れば完璧じゃんね」

「そうだと良いけど」

 早苗はさっそくスマホを取り出すと、ラインを起動し、里見さんにメッセージを送り始めた。俺はその隣でどんなものを買っていこうかと考える。曲がりなりにも半年近く一人暮らしをしていたのだ。あったら便利な品はいくつも思いついた。


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