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第九話 情報収集をするなら、まずは欲しい情報が集まるであろう場所の情報収集から始めるべし

 まずはどこへ行こうか。ゆっくりと考える間もない。

 自分が住むこの土地についての情報も失ってしまっていると気づく。

 分からない。近所の店とか駅とか学校とか、どれも場所が分からない。10数年かけて培ったであろう土地勘がゼロに戻ってしまった。

 なので今日もまた、ユラユラと揺れるグミのポニテとその向こうにチラチラ見えるうなじを見ながら道を行くのである。


「ちょっとちょっと太郎くん、君ってば本当に良い趣味してるよね」

「どうも」

「いやいやどうもじゃなくってさ。そうも熱視線を浴びると、まるで虫眼鏡で太陽の光を集めて紙を焼くっていうアレみたくうなじ一点に熱を感じて変な気分になるんだよね。分かる?」

「その例えが分からなくてなんだかな~な気分になるんだけど。なにせ記憶がないのだもの」


 太陽光を一点に集中すれば発火が可能。人類の叡智の一つであるそれについては、実のところ覚えていた。でもこの場合は知らんぷりした方が具合が良いのかもしれない。なのですっ惚けてみる。


「いいからさ、隣、来なよ」

「おいおい、いいのか。そんなに簡単にこの俺に隣を譲っても。なにかあっても知らないぜ」

「何があるっていうのさ。ていうか、背中とうなじを取られている方がより危険な何かを仕掛ける余地がたっぷりだから、隣に来てもらった方がこちらも安心出来るよ」


 俺をハンターか何かと勘違いしているのか。なにもしやしないさ。それにちゃんと覚えているぞ、こいつには彼氏がいるってこと。


 お言葉に甘え、俺はグミの隣にポジション取って田舎道を歩く。


「で、どこへ行くのさ?」

「コミュニティってのは、こんな田舎にもちゃんとあるものさ」


 質問の答えはよそに、グミは田舎のあれこれを語り始めた。


「はぁ?で、そのコミュニティってのをどうするんだ?」

「複数人が集まってのコミュニティだよ。頭数が多ければ、集まる情報も多いってこと。情報集めを行うならそこを攻めるべき」

「はぁ、それはまた理にかなった行動だな。グミは結構理論派なんだな」

「別にそんなこともないよ。ただ、物事にはいつだって真理ってのがあって、私は大した理論なんて引っ張り出すことなくそれを見抜いて動くことが出来るってだけ」

 

 それって結構すごいのかな。というか、どうも言うことがセリフっぽく、七面倒臭い女だなぁ。


「具体的にはどこを目指すんだ?」

「地域コミュニティ形成にふさわしい場の相場なんてだいたい決まっている。特にこんな大して何もない田舎でそれを行う場所なら更にグッと絞られる。で、絞って絞って暇な皆が集まって何かやる場所ってのが、ほらそこに!」

 説明の途中にもグミはとある場所を指差す。なんと、べらべら話す内に目的地に着いていたのだ。


「公園だな」

「そうそう、公園だよ。公園を見て公園と分かるくらいの常識はちゃんと覚えているんだね」


 公園を忘れるようじゃ終わりだよな。社会で生きて行くのも難しくなるじゃないか。そんなわけで俺は公園を知っている。


 公園には3人の男の姿が見えた。バスケットボールのゴールが設置されていて、3人はゴール付近でバスケットボールを楽しんでいた。


「ストリートで生きる彼らのような人達は、そこらで起きていることに詳しいってのが定番だよね。で、情報ってのはタダでもらえる場合が全てじゃない。時には何かしなきゃ教えてもらえない。この場合は、あの人達にバスケで勝っちゃえば良いんじゃないかなって気がする」

「な~るほど!」


 人の手から手へと移動する球体。それを見ると、なぜか俺の心は高ぶった。

 気づけば俺は公園目掛けて走り出していた。


「うぉぉおお!勝負じゃぁああ!」


 いざ、ストリートバスケバトル開幕だ。



 景気良く開幕を迎えて数分が経過した。

 その間、俺は走って投げて守ってを繰り返した。そして膝を着く。  


「はぁはぁ……疲れた」


 知らなかった。バスケとはとても疲れる競技だったのか。

 体から汗がたっぷり流れ出る。そうか、今は夏なのか。今更になってしっかり季節を知った。


「おいおい、どうしたよお前。もうバテてんのか?」と青シャツが言う。

「まるで辻斬りのごとくいきなりのバトル開始だったから、挨拶もなく流れで始めたけど、お前は3組の六反田太郎」と黒シャツ。


 なるほど、俺は3組の構成員だったのか。で、どこのよ?


「ふむふむ、動きも手先の技術も悪くはなかったが、一番必要なスタミナがないんだなコレが」

 赤シャツは、ボールを弾ませながら俺の事を品定めしていた。


 もっと動けると思ったこの体は、どうやら鈍っていたらしい。


「ぷぷっ、負けてんじゃん!」

 公園のベンチに座ったグミのやつは、こちらを指差して笑っていた。


 何をどうやって勝敗を決めるなんて全く話し合わず、勢いのまま勝手に始めたわけだが、こうしてさっさと地面に膝を屈した俺は、傍目から見れば十分に負けたヤツに見えるだろう。まぁ、ここは負けでいいわな。

 

「で、六反田、どうしたんだよ急に」

 一息ついたところで、青シャツが至極全うな問いを発した。


「うん、それがな、教えて欲しいんだ。俺って男は、一体どんなだ?」

「はぁ?」と3色のシャツ一同が首をかしげる。


 あれ?俺の事情は皆知らないのか。


「おいグミ。皆に俺が困ったことになっているってこと、言ってないのか?」

「はぁ?なんで私が太郎くん情報の回覧板の役目をしなきゃいけないのさ」


 確かに。というわけで、皆はまだ俺が記憶喪失だと知らないらしい。

 面倒だが、まずはそこの都合を話してから協力を頼もう。

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