表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/84

第六十二話 全部人に聞くのではなく、そこはあなた自身で知って欲しい

 なるほどなぁ。とても長い。

 人に歴史あり。ならばキンキンこと金剛寺金造にこそ歴史ありだ。と分からされたのである。


「くぅ~そうだ。そうなんですよ。あの時が坊っちゃんの一つの魂の出立の日だったんですよ。長年お付きの者として控えさえて頂いた私から見てもその成長には感動を禁じえない!」


 たまたま牛丼屋に居合わせた肘継のおじさんが、いつの間にか同席して泣きながらキンキンの成長物語を懐かしんでいた。


「ちょっと恥ずかしいよ。肘継、その辺にしてくれよ。それより午後からの仕事は?」


 仕事の話と聴いて肘継のおじさんはスッと姿勢を正した。


「おっと、そうでした。仕事は大事だ。サラリーを貰うのと引き換えの条件だもの。しっかりやらないといけませんね」


 どうやら契約事には義理堅い性分の男らしい。


「しかし、こちらのお友達があの時の六反田様だったとはすぐには気づかず、実に申し訳ない。いや~記憶力がいまいち貧弱でして」


 そういえばキンキンの話だとこのおじさんと昔出会っていたのに、さっき会った時に俺を認識していなかったな。あの時と比べて今の俺は激しくダンディになっていて同一人物には見えなかったとかそういことかな。


「いやはや、まさかあの六反田様がガールフレンドを連れていようとは思わないもので」


 なんだと。このおじさんまずは勘違いだし、しっかり考えると俺の事ディスってない?


「はっは~太郎くんだと女の子を連れて青春を謳歌しようなんて甲斐性が無いと思われたんじゃない?」と当の女の子直々の意見が飛ぶ。失礼しちゃうぜ。


「ああなんだ、お友達でしたか。これは早とちりで失礼しました。失礼ついでに良きお話も。こうして出会った縁なので、ここは私が皆さんの分の会計も出します」


 なんて素敵な申し出!

 俺とグミはガッツポーズした。


「ん?こちらの……牛丼ビックバンデロデロ盛りを頼んだのは……坊っちゃん、食べ盛りとはいえよくもまぁあんな山盛りのをペロリと行ったものですね」


 肘継のおじさんは伝票を見てキンキンの手前に置かれた丼が空になっているのを確認した。


「いや、僕は並盛を……」

「では六反田様が?」

「俺は大盛り」


 となると後は1人。肘継はグミを見る。3人とも丼を綺麗に空にしていた。


「まぁこの時代にギャルをやるんですもの。このくらいペロリっとね!」

 

 なんか可愛いつもりになっているのか。変なポーズを取ってグミは昨今のギャル事情を話した。ていうかギャルの定義とは?


「ははっ、逞しいお嬢さんだ。では会計は済まして置きますね」


 俺達は牛丼をタダ食いして店を出ることになった。


 キンキンと別れてまた帰路につく。


「で、どう思った?」

「何が?」

「1年くらい前の六反田太郎を知った感想」


 う~ん。すぐに思ったけど、なんかキャラがおかしくないか。キンキンの語る俺とこの俺とで合致する部分があるのかないのか、よく分からん。


「記憶を集める程に混乱するんだけど。何か変な話が連続で来るよな」

「じゃあ君は変なヤツなんじゃないかな?」


 お前が言うかよ。


「まぁ良き兆しじゃないの?空っぽの胃にガツンと油のキツめの物を放り込むと、胃はびっくりしてちょと調子が悪くなる。太郎くんの記憶事情も一緒なんだよ。一気に変な話を放り込むことで脳がびっくりしている」


 脳科学の人なのかな。でもちょっとそんな気もする。


「なぁグミよ」

「なぁに?」

 

 ちょっと足を止めてみる。


「で、物語の序盤も序盤からいるお前こそ、かなり不思議で変な存在に思うわけなんだ。いい加減お前は何者で俺の何を知っているのか、お前から情報をくれないか?」


 ちょっとだけ間が空く。


「ふっふふ、傍にいて子供の手を引くようにサポート役に回っていれば安心してこちらに違和感を向けないだろうとも思っていたけど、まるでおバカってワケでもないんだね」


 失礼言ってない?


「確かに、最初からずっと傍にいる女なんてなんか怪しい。がしかし、その考えもまた安直すぎて、真実を解明するに至る道として選んで良いものか、と悩む余地があるくらいには怪しい」


 こいつぅ、よくもまぁ苦しい状況でもそれっぽく切り替えしてくる瞬発力があるもんだ。


「ふぅ、私の事は何ていうか、自分で思い出すっていうか、太郎くん自身で見て知って欲しい」


 ん?どういことだ。真っ直ぐこちらを見てそんな事を言う。

 いつもの緩いテンションによる思いつきの言動なのか、それとも額面通りの深い意味や想いを込めての言葉なのか。


「はっは~私を知ろうだなんて、グミちゃん好き少年かよ~」

 

 グミはフザケて走り出す。

 

「ついて来なよ。私を見失ったら家までの道も分からなくなるぞ」


 あ、ホントだ。


「ちょっと待てぃ。あぁ、メシ食ったばかりだから走ると腹が、腹がなんかきつい」


 メシを食ってすぐに動くときついのだ。

 あいつは俺の倍くらい盛られたのをガツガツ食ったのに良く動けるな。


 グミから話を聞くことはできなかったが、まぁそれはそれで良い。

 俺もなんだかよく分からないけど、グミの言う通り俺のペースでグミを知っていけば良いと思ったのだ。


 今日の学び。牛丼は美味い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ