第六話 モエモエフリフリキャピキャピキャッホーなマイア
人生において、こうも見知らぬ女と次々と出会い、それらと深く関係するような新鮮さと困惑を味わう者もそうはいないだろう。俺なんか自分の家の中にいても顔を合わせるのは知らないヤツばかり。異常事態だな。
異常事態といえば、目の前で起きているコレがそうだな。
あられもない姿だった俺はすぐに洋服を着せられた。それは謎の闖入者によるセレクションだった。
「あ~可愛い!可愛いじゃん!やっぱりねぇ。太郎は男の割には腰がキュッと引き締まって、お尻もキュッかつプルンとしているから、こういうモエモエフリフリキャピキャピキャッホーな服が似合うと思ってたのよ~」
すごくご機嫌だ。女は俺に服を着せて恍惚とした笑みを浮かべている。
俺が下着姿でいる所に突撃して来た女は、驚きたっぷりで怒っているようにも見えたが、その後すぐに機嫌を直して俺を着せ替え人形にしてしまった。
うむ。しかし女の言う通りなかなか似合うな。俺にはモエモエフリフリキャピキャピキャッホーな服を着こなすだけのすんばらしいセンスがあったのだと分かった。
それが分かったところで、まだ分かっていない謎の解明に入ろう。
「で、誰よ?」
次に着せたい服を俺にあてがう女にズバリ問う。
「ぬぉ!あんた、記憶が飛んだままなの?この私を覚えていない。思い出していないだなんて。ああ~なんてこと」
額に手を当て、女はゆっくりと床に膝をついて倒れ込む。悲劇のヒロインの一場面を大げさに演出したかのような嘘臭い言動だ。
「ああ、私はてっきり太郎が記憶を失ったところで、真の自分を見つけて真なる覚醒を迎えた。だからここで女装を始めたのかと思っていたのに……」
どういうことよ?何を言ってるんだこいつ。何を言っているのかまるっと分かる気がしないが、少しでも分かるよう、そこのところについて女に尋ねてみた。
ふむふむ。なるほど。
女はかつてのしっかり男らしかった時代の俺に、モエモエフリフリキャピキャピキャッホーな服を着ること、つまりは女装をお勧めしまくっていたらしい。で、かつての俺はそれらを全て断っていた。彼女の望み通り俺が女性物の洋服に袖なり足なりを通したのは、彼女が知る限り初の事だという。だから感動していたらしい。
「て、コレ俺の服じゃないんかい!」
女があてがってきた次なる服を投げ捨てた。
「ああ何を!もう着ないの?」
「これは真に覚醒を迎えた俺の姿ではなかったんだ。ていうかそっちにとっては真に覚醒を迎えた俺はこれで正解、とかいう勝手な想像すんなよ」
危ない。全て流れだ。流れに流されて騙されるところだった。俺はこういう服を嗜む男ではなかったのだ。
ノリで着てしまったが、今になって深い後悔と反省がこみ上げてくる。
「えっ、じゃあなぜこんなものが俺の部屋に?それにあんなワンダフルが過ぎるマンガも……それに俺は本当に格闘技好きなのか?」
部屋にあるアイテムと俺との親和性が解けて行き、それぞれのアイテムに対しての違和感が復活した。
「何言ってんのあんた。ここはお姉ちゃんの部屋じゃないのよ」
「はぁ?」
「だからココはこの私、六反田舞愛の居城よ!」
女は片手を腰にあて、もう片手はパーにして自分の胸に置く。偉そうなポーズだ。
「はぁ?何だって。ココは俺の部屋じゃないのか?」
俺はまた部屋をぐるりと一周見回す。
「でも、男っぽいよな……」と感想が漏れた。
「ふっ、何を言うのよ。格闘技にゲーム、そしてたくさんある本の作風、どれを取っても、嗜む者の性別、年齢だって問わない一級娯楽と言えるわ」
きっぱりと言い切りやがった。
「まぁ、そりゃまぁ……ん?で、誰だって?」
「だからあんたよりも2年と3ヶ月先行してこの世に生を受けた正真正銘の六反田太郎の姉、それがこの私、六反田舞愛よ!」
またさっきと同じ偉そうなポーズを取って言うのだった。
「姉……まい、あ?」
「そうともさ。あの日、両親の愛が舞に舞って形を成した次なる命、それがこの私、六反田ま―」
「もういいわ!」