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第三十六話 穴場を知る者達の穴場

 ゆっさゆさ。揺れる。

 真っ白な世界が揺れる。どこまでも白だから世界の揺らめきを視覚的に感じにくい。でも俺は体感で気づいている。世界はしっかり揺れているのだ。

 強い揺れは居心地良き白の世界から俺を遠ざける。次に明るい光が俺を包み込む。眩しい。


「太郎くん、太郎くん!」


 呼び声がする中、パッと目を覚ます。最近良く会う女の顔がすぐ傍にあった。


「なんだグミか。今日はグミ攻め無しの大人しいけど喧しいモーニングコールになったな。あれはもう絶対にやるなよ。危ないし、グミは起きている時にゆっくり味わいたい」

「それってセクハラ?それとも純粋にお菓子愛好家の意見?」


 お前がなんというかその、もっと醜悪な何かだったら俺は殴っていたかもしれない。人で女だから許している部分は大きいと忘れるな。


「で、なんだよ。朝だろうが。早いだろうが」

「そんなこと無いってば、もう十時過ぎだよ。良い子も悪い子もしっかり活動開始していそうな皆の時間だよ」


 ……確かに皆の時間だ。

 はて、なんでこんなに遅いお目覚めになったのか。


「私ね、なんか悪寒というか、闇のお告げめいた物を感じてね。それというのが、おかしな話なんだけど、誰も知らない見えないような何かに、メインヒロインの座を脅かされるような気がして」


 あっ、いたわそんな闇の女が。確かにいたんだよ。

 それに一回起こされて、それでどうなったんだっけ?

 どこでどう話を終えて忍者とお別れしたのか。気づくと寝てしまって朝だった。

 グミの感じたおかしな感覚は、おかしいまで敏感に世の真実に感づいてのことだろう。というかメインヒロインとは?


「ところでグミよ。忍者ってどう思う?」

「うん、そこらに忍んでいるものだと思う」

「……それって一般的な意見?」

「うん、だって一般人代表だから」


 こいつの言うことは素直に信じてはダメな気がする。代表の座はそんなに安くはない。


「姉さん、そこにいるんだろ?忍者ってどう思う?」

 

 どうせそこらにいるだろうと思い、視界に映らない姉に問いかける。


「ふっふ、おはよう我が弟。よくぞ姉の存在に気づいたわね」

 とか言いながら扉の裏から出てくる。外からこっちを覗いていたのだろう。


「忍者がどう思うってのは、何をどう思ってのことなの?」

「つまり、いるのかどうかって事を人々はどう思っているのか知りたい」

「それならいるわよ」

「なぜ?」

 

 姉はニヤリと笑う。


「あんた、猫を見たことがある?」

「ああ、昨日道を歩いていたな」

「じゃあ猫はいる。それがあんたの理解」


 確かにそうだが、猫と忍者の関係は?


「忍者がいると言えるのは、いるという真実をこの私が目で見て知っているから。私が見て理解したなら、弟はそれを信じて同じ理解を示す。そうね?」


 そうねと言われてもなぁ。グミに次いでこの姉様も得体が知れないからな。身内であっても外の人間の感じがまた拭えない。だって簡単に馴染めるキャラじゃないのだもの。


「じゃあその、シノビち……えっと、この家を訪ねてくる女の忍者っているかな?」

「はぁ?おバカな夢の話?やめてよね朝から。バカを言うなら休んでから、そして寝言なら夜に布団の中で言え。おじいちゃんの言葉よ」


 じいさんはケースバイケースを体現した人間だったという。


「なぁんだ。可愛いくのいちとキャッキャウフフな夢でも見たってわけ?思春期ど真ん中だなぁ」

 俺の黄金の脇を小突きながらグミが言う。


「可愛いかどうかと言っても、顔がほとんど隠れていたしなぁ」

 相手の目しか見えなかった。


「ププッ、夢の中でくらいズバッと全部見れるようコントロール出来ないものなの?歯痒い男子の心理だね」

 

 こいつ何言ってんだ。とりあえず小バカにされているのは分かったけど。


「ところで姉さんは忍者をウォッチングする趣味があったんだな。忍者ってのはどんなだ?」

「いえ、趣味ではないわ。ただ普通に生きていても、私のように感覚鋭く目が肥えたイケてる女には忍びまくった輩だって透け透け状態なの」


 こっちもこっちで何言ってんだ。


「まぁ忍者談義は今度にして、今は素敵なレディがあんたを訪ねて来てるでしょ。いくらお姉ちゃん好き好きっ子とは言え、家まで来てくれた女の子を放っておいてお姉ちゃんにラブラブコールを送っていたら駄目でしょ」


 言ってる事が嘘だらけなお姉様だぜ。もうあっちに行ってくれないかな。

 

「で、グミよ。今日は何だ?」

「昨日も今日も同じ事だよ。記憶を拾い集めよう」

 

 本当に拾えるんだろうなぁ。


「今日はどこに行くよ?」

「若くあるって事はとても忙しい。でも同時に一周して暇を弄ぶということもしばしば」


 また始まったぞ。さっさと答えを言わない遠回りな物言いパターン。


「そんな暇を潰して忙しいを量産したい連中の量産を叶えるお金儲けスポットがこんな田舎にもちゃんとある。これには若者社会の現状を突いたお金儲け術が見えるね」

「なんだそりゃ。なんだかそう聞くと悪どい商売な感じがするな」

「いや、それが楽しく健全で皆大好きな物がある場所なんだ。私も、そして多分かつての太郎くんも好きだったはず」


 はて、何も見えて来ない。それは一体どこだろうか。


「ちょっとなんていうか、性的に高まる若さを解放出来るスポットかな~?」と簡単な予想をぶつけてみる。

「違うよスケベ」


 違ったぞい。


「それはズバリ、ゲームセンターだよ」

「ゲームセンターだと!て何をどうするのだろうか」

「まぁ行ってみれば分かるさ。ゲームなんてのは、百聞より一見が早いの最たる例だよ。原始人にコンピューター技術をいくら説いても分かりはしない。なんなら見せてもまだ全部は分かりきらない」


 俺は現代人なのだが、原始人ってのはいつのどんな人間なのだろう。


「ここに忙しい人はまず来ない。暇な人がわんさか来るのさ。暇な人ってのは、暇を埋めるために何にでも首を突っ込みがちなの。そうした人が多くいるなら、情報も多く集まる。その情報の中には、過去の記憶だって含まれる。となれば、太郎くんが落としたピースのいくらかだって回収出来るってものさ」


 なるほど。そうなようで、本当にその通りに行くのか怪しいといういつものグミ理論だな。

 記憶回復の成果に期待はしないが、退屈しない冒険にはなると思う。


「まぁおいでよ。今日は女装しなくていいけど、したいなら待つよ」

「お前なぁ……もう嫌だ」


 こいつも言う事が段々とやんちゃだな。全部にツッコんだり、噛みついたりするのは疲れる。


「じゃあ行こうか。夢のゲームセンターに」

 グミは笑顔で俺を導く。


 じゃあ今日もいっちょ行きますか。

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