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第二十一話 CASE 八巻七緒(なっくん):空に描く軌道の先に 2

 偶然の出会いから俺は真夏の七輪パーティーにお呼ばれされることになった。


「やぁやぁ、お友達かい?ナイスなタンクトップだね」

 

 タンクトップを褒めてくれたのは父親である。クーラーボックスを持ってやって来た。そして七輪の前にいる子供のことは知っている。小学校の同級生の六反田太郎だ。


「丁度良かったよ。君も遠慮はいらない。むしろしてもらっては困る。食材を使い切ってしまわないといけないんだ。しっかり食べていってくれよ」


 父親はクーラーボックスを3つも並べる。中から野菜、肉、魚介類などの美味そうな食材が顔を出す。

 そしてその横にはダンボール。炭が入っている。


「はいはい、飲んで飲んで」と言って父親はペットボトルのコーラを渡してきた。


「いや~こちらにとっては嬉しいだけのことなんだけどさ。これらのバーベキューの食材ね、本来は今頃ウチの課長が家族と共に消費しているはずだったんだよ。でもあちらにとってはなんというか、気の毒な感じでね……」


 ほうほう、課長の家庭からこの家に流れてきた食材と炭だったのか。


「課長も気の毒に。予定は家族あっての事だったのにね。家族と海でバーベキューをする予定だったのが、直前で離婚騒動さ。そんなわけで、家族の素敵な夏の思い出を彩るはずだったこの肉や野菜は仕事先を失ったのさ。で、そこに再就職の口がすぐにも。それが元気な我が家の面々。皆よく食うんだ。この子なんてそんなに入れて何をするのさってくらい燃料を欲しがる体なんだ。どうせ起きている間には『ゾルダの黒歴史』や『マダロイド』で遊んで、後は微妙な内容のアニメを見ているくらいなのにね~ハッは~。良き子供はもっと水辺に来い。鯉が待っているだけにね~ハッは~」

 

 課長の波乱の人生と共に、その他知らん事をべらべら喋るおじさんだった。

 息子の方はといえば、ウインナーの表面の焦げ目具合に満足すると、ニヤリと笑ってタレにつけて食べていた。こいつは食べることにとても真剣なようだ。


「ほらほらお友達。君も遠慮なく食べなっての。嫌いなものある?あってもなるたけ食べさせる方針で行きたいな~。ほらほら、人気の低そうな野菜共も喰らえ」

 

 おじさんは俺に持たせた皿の上に焼いたピーマン、キャベツ、人参、椎茸まで乗せてきた。確かに子供達の中に文句を言う者が多く出てきそうなラインナップだが俺は全部好きだ。ウチで育てている野菜もあるもの。


「おおっ!お友達ってば食いっぷりが良いね。男の子はそうあるべき。無論女の子もね。男女で差別区別はなるたけ減らした方が良い。はっは~」


 このおっさんってば終始ご機嫌だなぁ。


「それにしてもお友達。君ってばお友達だなんて不便な二人称が本当のお名前なわけないだろう?本当の名前を教えてくれよ。おじさんも呼びにくいじゃあないか」


 勝手に呼んでおいてさぁ。まぁいいか。確かに不便だものな。


「八巻七緒と言います」

「なにぃ!はちまき?そんでななお?どんな字だろうか?」

  

 こういう漢字だと教えてあげた。


「ははっ、そりゃいいね。いい名前だよ。八度巻き、七度もいとぐちがある。いいじゃないか。未来に向けて景気が良い」

 

 なんだか良くわからないが褒められたぞ。


「お父さんに太郎ってばもう食べてんの?待ってよね」

「大丈夫大丈夫。皆の分は残してるから。すぐに無くなる量じゃないさ」


 おっ、中から姉と母も出てきたぞ。


「誰この子。太郎と並べてバカみたいとは言わないけど、たくさん賢くは見えない顔ね」


 失礼な姉だな。


「あらあら可愛い子ね。それに逞しきタンクトップ姿。未来が楽しみなお友達その1ね。遠慮せず食べてね。課長さんへの感謝を忘れずにね」


 母は愛想が良いが、なんか変人臭いなぁ。


「おいおい」

 太郎が俺を呼ぶ。


「食べるなら集中して味わうと良い。この夏は一度でバーベキューも一度」


 なんだこいつ。異常に食う事への執着というか、余計な集中力がある。

 

 変な食卓にお呼ばれしたが、確かに腹が減っていたので俺はたっぷりとご馳走にありついた。

 クーラーボックスの中からはデザートのフルーツもたくさん出てきたのでそれらも頂く。にしてもこの家族、どれを見てもものすごい勢いでがっついているな。よく食う家族だ。それからクーラーボックスをたくさん持っているんだな。


「クーラーボックスは人類の偉大な発明だ。こいつはきっと22世紀まで残るね」

 

 ここの親父はクーラーボックス信者だった。

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