第十一話 夏のお昼にはコンポタをグビれ
三色のシャツトリオは公園を後にした。残った俺はベンチに座って先程聞いた話を思い返してみる。
「はぁ~、俺はアイスが好きなお子様だったのか。そうなのかグミ?」
何をするでもなく隣に座っている暇そうな奴に尋ねてみた。
「まぁお子様なら皆アイスが好きでしょ?私も好きだよ。逆に嫌いな人ってのも聞いたことないな~」
アイスってのは、地球のほとんどのお友達から好かれているようだ。素晴らしい発明じゃないか。記憶を失って初のアイスを楽しみたくなった。
太陽が高い。腕を見ても公園のどこを見ても時計という物がない。でもあの昇り具合を見るにそろそろお昼だな。
「うむ、お昼だなぁ」
「なんだい君、太陽がどれだけ昇ったのかを見て時刻を計るの?随分と原始的なんだね」
グミは携帯電話を取り出した。
「おっ、12時をちょっと過ぎたくらい。ナイスな人間時計だね太郎くん」
なんだ、コイツは時計を持っていたのか。そういえば俺は携帯電話を持っていないな。記憶喪失前にはどうしていたのだろう。
「喜べ男子。ここで男子には名誉な良いものがある」
男子で良かった。そう思える何かを出してくれるのかな。ちょっと期待して待ってみる。
「はい、コレ」
グミは手提げカバンから水筒を取り出した。
「なんだこれ?」
「ふっふ、それは魔法瓶と言ってね、人類の偉大な発明の一つだよ」
「じゃなくて何が入っている?」
温度をなるたけ長くキープした状態で液体を持ち運ぶ事を可能にする。それが魔法瓶の持つ機能だということはなんとなく覚えている。
「はい、コップ持って」
コップを持たされる。そしてそこに水筒内の液体が注がれる。
なんとも香ばしさが漂うドロっとした黄色い液体が注がれた。そしてこの暑い太陽の下で飲むには熱い。
「はい、飲んで飲んで」
そう言ってくるので、お言葉に甘えてグビグビと飲み干してみる。
「こ、これは!ドロリと心地良い喉越し。たまに見つかる愛しくも小さき黄色い粒が生む旨味のハーモニー。知っている、知っているぞ。俺はこの液体を知っている!」
「で、何かなそれは?」
「これはコーンポタージュだ!」
コーンポタージュを飲まされた。クソ暑い夏の昼に。
「しかし美味いなぁ。おかわりを!」
「良いともさ」
グミはおかわりを注いでくれた。
暑い中で飲むに適するものではない。だがそれとは別に美味しいのだ。今は飲もう。
「いや~良かった良かった。親戚にね、高原でうんとたくさん野菜を作っているのがいてね。で、うんとたくさん採れたトウモロコシが余りまくっていると言うんだよ。だからドロっとした状態でおすそ分け。朝からちょこっと頑張って作ったんだよ」
「なんとハンドメイド!」
「そうそう、だから男子が喜ぶってものだよ」
「え、なぜ?男子とトウモロコシの関係性は?」
「バカバカ、わ・た・し」と言ってグミは自分を指差す。
「ね、美少女!」
「えっ、美少女?」
「?マークなんて使うなよ。待ったなしの美少女でしょうが。それが手作りした飲み物だよ。見る人が見れば垂涎ものさ」
お前ってそんなにありがたい女なのか。じゃあ、ありがとう。そう思っておかわりも飲み干す。
「飲み物だけではと思ってこっちもね。はいどうぞ」
次には食い物が出て来た。腹が減ったのでどんどん食べて行こう。
「ぬっ!コレは硬い!けど美味いパンだな」
硬くて美味いパンだった。
「ベストな食べ方はそれに漬けて食べる。漬けパンってやつね」
なるほど。硬いなら濡らして柔らかくってか。で、コレが美味い。
「美味いじゃないか!グミは硬いパンも作れるのか?」
「いや、それは普通に店に並んでいる硬いのを買ってきただけ」
「なんだ、パンは作らないのか」
「いや、ちゃんと焼いたこともあるよ。新時代の乙女だもの、パンくらい焼けなきゃ。もちろん柔らかいパンを焼くんだよ」
お前ってば新時代の女だったのか。
「まっ、機会があったらパンも作ってあげるよ」
「おぅ、楽しみにしている」
喋って飲んで食っての憩いの一時を過ごした。
美味いしなんだか楽しいぞ。こうも楽しい時間を女子と送ると、何だかそれっぽい感じもするものではないか。
「でもいいのかお前。こんな所で俺とこうしていて」
「え?駄目ならしやしないよ」
「いや、そういう意味じゃなくてだな」
分からんヤツだな。彼氏持ちの女が、彼氏じゃない男とお昼の公園でコンポタと硬いパンで楽しい宴なんてしていたら色々と想うヤツもいるだろうが。
とか思っていると、大きな声が聞こえた。
「あぁあああ!誰だその男!おいそこのアホ面の男!お前、誰の女と素敵なお昼のランデブーを楽しんでいるんだ!」
ほらな。そういう事を疑う男が出てきたぞ。