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第十話 CASE 今泉たかし:この夏にあの一本を引き当てろ!

 ここウエストバイソンタウンには、西梅村高校という学校がある。偏差値を見ても、部活動などの戦績を見ても、これといって目立った点のない普通の学校だ。よって、ただ高卒という証が欲しいだけの人間が通う分には問題のない学校だと言える。

 ちなみに学校名は、正しくは「にしうめむら」なのだが、「ばいそん」とも読めることから、そこらの者が学校を呼ぶ時にはバイソン高校、もっと縮めてバイ高と呼ぶこともあるという。地域に馴染みのある学校らしいぜ。

 そんな大したことのない田舎学校の生徒の一人がこの俺、六反田太郎なのだという。そして俺は2年3組に在籍している。

 ここまでの情報を、わずかな間だけバスケを共に楽しんだ赤シャツ少年から聞き出したところだ。


「で、俺は2年2組の今泉いまいずみたかし」

「で、通称赤シャツであると?」

「いや、全くそんなことはないのだが」


 赤シャツ改め今泉たかしが、新キャラとして俺の人生に登場した。


「今泉たかしよ、俺はバスケ勝負に負けたのに色々と情報を教えてくれてありがとう。お前はいいヤツだ」

「いや、別に勝負なんてしてもしなくても忘れてしまったことなら教えてあげるんだけど」

「何?お前やっぱりいいヤツじゃないか。無条件でだと……あれ?じゃあなんで俺はこうも張り切ってバスケ勝負に出たんだっけ?」


 考える。グミのヤツがけしかけたっぽいな。で、ベンチで休んでいるグミを睨んで見る。


「ははっは。そうだよ~。別に普通に聞けばそれくらい教えてくれるってば。それなのに太郎くんってば、弾むボールを見れば飛びついて行って、まるでネコみたいだね~」


 呑気にそんな言葉を返しながらグミは笑っていた。

 青シャツ、黒シャツもグミを挟んで座り、3人で談笑していた。お気楽な女だぜ。


「で、今泉たかしよ。何でもいんだ。俺は俺を知りたい。俺について知っていることを何でも話してくれよ」

「うん、いいけど。まぁ正直言うと、俺たちの付き合いはそんなに深くはない。でも小学校から一緒だったんだぜ」

「そうか。幼馴染じゃないか」

「まぁな。ここは狭い田舎で学校がいくつもあるわけではない。進学しても結局は同じメンバーがまた揃う。だからだいたいが幼馴染だ」

「そうかそうか。昔なじみばかりなら、情報集めもとい記憶集めもスムーズに行きそうだぜ」


 世間様は狭い。そして俺が暮らすここはもっと狭いようだ。


「じゃあとりあえず一番印象的なエピソードを話そう。自分がどういう人間かを知る一番パーソナルな部分が滲み出るものを選んで話すぜ」


 そいつは助かる選出だぜ。


 そして今泉たかしは語る。

 

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 その夏にもまた自由研究という厄介な難題が俺の人生を塞いだ。これをなんとか早めにクリアして楽しい夏休みをエンジョイしなきゃ。


 自由研究は連名で行っても良いルールがあった。まずはネタを考え、次には研究結果をレポートにまとめなければならない。ネタを考えるなら脳、レポートを書くなら手、どちらの作業も頭数が多い方がきっと有利。

 そんなわけで俺は、クラスで隣の席に座っていた暇人の六反田太郎を誘い、二人で自由研究をさっさと完成させることにしたんだ。


 六反田の脳内はユニークな案で溢れていたので、俺はその世話になることにした。

 六反田考案のこの夏イチオシな研究とは「何本食えばアイスの当たり棒が出るのか」だった。

 

 この案は、とにかく宿題なんかどうでもいいからアイスが食いたいというヤツの煩悩から端を発したものだ。だが、よくよく考えれば面白いと思い採用することにした。俺もどうせやるなら楽しく、そして美味しく事が済めばベストだと思った。それにもしかすると、あれこれやっている内に当たり棒を引ける確率なんてものも見えてくるかもしれない。研究のお題に上げるだけの価値はある気がする。


 さっそく俺達はアイスをたんまり売っているスーパーに突撃した。

 六反田はぼぅ~としているようで意外にも用意周到だった。レジを通してその場で食うわけにも行かず、駐車場まで出て食う。で、また買う。そんなことをすると効率が悪い。そこでヤツが用意したのは、氷がたんまり入ったクーラーボックスだった。


「とりあえず10か15……いや20本いくか」

 六反田のアクションがやけに頼もしい。

 学校での授業、課外活動、どれにおいてもヤツが頼もしかったことはない。ただ給食においては優等生で、お残しはゼロ。なんなら人のにも手を出すくらいしっかり食うヤツだった。


 六反田の意見で20本買ったのを駐車場でひたすら食う段に入った。

 

 噛めばガリガリとした食感とソーダ風味が口内をたっぷり幸せにしてくれる例のアイス棒の袋を開け、いざ研究開始だ。

 

 互いに一本食う。

 俺のは見事にハズレ。というか、人生においてこいつを100本は食ってきたはずだが、未だ一度もあたりを引き当てたことはない。

 

「ハズレだな。そっちはどうだ?」

 六反田に成果を聞いてみる。 


「あっヤベェ」

 すっかり食い終わった棒を見てヤツは言う。


 六反田はこちらに木の棒を見せる。多くのそれは、まんまただの平べったい棒なのだが、ヤツが見せたのは違う。


「お前、それは!」

「うん、やっちまったな。あたりだよ、一本目から」


 まじかこいつ!俺がこれまで100本以上食って見たことのないあたりを、たった一発目で引き当てた。


「どうしよ。まさか一発目からあたりじゃこの研究は盛り上がりにかけて面白くもない。う~む、盛るか。とりあえず残りは全部食っちまおうぜ。で、テキトーに17、18本くらいで当たったってことにしよう。切りの良い20だとなんか怪しいじゃん」


 それっぽい隠蔽工作に出たぞ。


「あとこれは誘ってくれたってことであげるよ」

 

 俺は人生で初めてあたり棒を手にした。ということは、人生で初めてあたり棒と次なるアイスの交換を経験出来るってことか。やべぇ、ちょっとワクワクすっぞ。


 そうして俺達の自由研究は、どの年と比べても最速タイムで終わるものとなった。六反田にはなんだかんだで感謝している。

 

 この研究は果たして研究になっているのか。自分でもそこのところは怪しいと思うのだが、そのまんま提出すると、意外にも先生、クラスの皆双方からのウケが良かった。

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