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チリリ「じゃああらためて。ここから私たちパーティね」

「「「応」」」


 鬼崩しは岩山の岸壁が、タイルが剥がれるように崩れて積み上がったものだ。

 板状の岩クズを主として大小のそれが危うく重なり、あるいは剥げかけた鱗のように連なっている。


 その入り口といってよい場所で、チリリ・リーダーの呼びかけに4人が手を重ねる。


 これをすることで、パーティの契約がなされ、特技、特に範囲型の魔術の対象になるかどうかが分けられる。

 戦場において範囲型の対象は「パーティのみ」「パーティ以外のみ」「無差別」の三種に分けられるのである。


 なお戦場の範囲とはなにかだが、ゲームでの抽象的な扱いを再現して、けっこう曖昧だ。


「では俺が先行する」

チリリ「平気なの?」

「斥候だからな」


 いくつか手信号を取り決める。

 こういうのは歴代探索者によってだいたい決まっていて、先輩から教わるものだが、方言といってよいものがあるので事前確認がいるのだ。


 そして、人間大やら馬車並みの岩々の間を忍び足で進み、かすかな音や風のニオイを嗅ぎ分けて、一通り見歩いてから俺は戻った。


「この先5分ほど道なりに進み、別れ道を左に曲がって2分ほどの距離に2体のスケルトンがいる。一つは人型で棍棒を持ち、もう一つは猫の骨だ。

 周囲にほかに敵はいないので、いい練習相手と思う」


「猫と戦うのは嫌だにゃあ」

 ジーネがなんかいってる。


「猫の骨におっさんの悪霊が憑いて動かしてるだけかもしれないでしょ。

 神官様は罰や迷いで迷宮から抜けられなくなってるだけで、ぶん殴れば迷いが解けて輪廻に戻れるようになるって言ってるじゃない。

 ぶん殴ってやるのが功徳ってもんよ」

 エスタは神殿の主張を信じているようだ。


「行きましょう」

 チリリ・リーダーの声により、また俺の先行で、みな歩き出す。


「多分こちらの音に気付いて向かってくるから覚悟よろしく」

「OK」


 戦士や魔術師も、ヘタなりに忍び足はできるが、人数居れば誰かはしくじるので気付かれる。


 積み木のように重なる岩により、あちこちで直上からの陽光が遮られている。

 陰になった場所から日の当たる場に踏み出そうとしたとき、ピンと来た。


「来る」


 左側から猫の骸骨が飛びかかってきた。


 これを盾で受ける。

 PCにとり盾が都合いいのは、特技の発動判定と同じ仕方で防御できるか決まるところで、これも発動判定としてダイス目を選択できるのである。


 俺の盾は4級のそこそこだが、PCの異能でしっかり働かせることができた。

 一度に15点ダメージを受けると壊れてしまうが、猫髑髏ごときにその点数は出せない。


 そして体を入れ替えた結果、三人娘を視界に納めた。


「せい!」


 俺の盾で弾かれ地に落ちたキャット・スケルトンに、エスタが両手で棍棒を振り下ろした。

《2:2》

 脆弱な猫の骨が砕け散って消滅する。

 たぶん特技は発動しなかったが、通常の一撃で死ぬ弱さだったようだ。


 チリリがエスタの背後を守って警戒する。


 遅れて人型スケルトンが現れ、チリリに撃ちかかる。

 我らのリーダーはこれを難なく受け止めた。


 後方でジーネが精神を集中し、俺の目には《3・4》の数字が躍った。

 確か意味なかったよな、と思いつつ4を選んだが、やっぱり何もなかった。


 俺は骸骨の後ろに回り、槍を棍棒のように叩きつける。

 肩甲骨やアバラが折れヒビが入り、背骨がぐらりと揺れた。


 髑髏が振り向こうとしたところを、エスタが《5:3》で気持ちのいい一撃を首元に打ち込み、頭蓋を叩き落とした。


 戦闘終了である。


 うーん、でも《5》を選んでも特に凄くはなかったな…


エスタ「ふふん。まあまあかな」

ジーネ「うわぁ、また何もできなかった…」

俺「魔石は2と4。大きな実入りではないが」

チリリ「怪我なしなのがなにより。連携に問題はなかったかな」


「もう何度か戦って確かめたいところだ」

 俺はそういったが、

「うーん、でももう正午だよ。あまり時間かけると帰れなくなる」

 ジーネの指摘ももっともである。


「できれば第一の目的であるコアまで到達したい。お願い」

「まあ、道々確かめることはできるだろうけど」


 チリリにも言われ、俺も承諾する。


「ただ、これは言いたくないって人もいるから、それならいいけど、どんな特技持ちか聞いていいかな?」

チリリ「あれ? ジーネから聞いてないの?」

ジーネ「いわなかったっけ?」


俺「いや、本人が言いたくない場合もあるんだから、勝手に聴くのはまずいだろ」

エスタ「なんだこいつ紳士じゃん」

ジーネ「だから言ったでしょ」

エスタ「言ってない、鴨葱系男子見っけた言った」

ジーネ「それは紳士の意味でしょ!」


「ジーネの本音は置いといて、私は【喰いしばり5】を持ってるよ」

 ため息つきつつ、チリリが俺にいう。


「【喰いしばり】というと、死ぬほど大けがしてもなお戦える能力か」


 HPがマイナスに突入しても、発動判定に成功すると意識を保てる受動型特技である。

 3ラウンド以内にHPをプラスに戻さないと死ぬのは変わらないが。


 なお受動型でも、戦闘中に使いたいなら、NPCは行動表に入れておかないといけない。

 その欄に他の行為は書きこめなくなり、通常での扱いは空欄と同じになる。

 条件がそろったときには発動判定をするが、書きこんだ欄の等級でなされる。


 もっとゆるい制限でのプレイもあったが、この世界のあり方は、経験上多分こうである。


 なんにせよ、チリリの場合、ほかに特技もないので、5級で書きこまれていることだろう。



「ジーネの【完全治癒】と相性がいいな」


 【完全治癒】はHPをフルに戻す。

 ただしHPがマイナスだと効果がないが、【喰いしばり】に成功してる相手なら例外となる。


「無茶いわないでー。6級なんて発動することあり得ないから…」

 ジーネが頭を抱えて嘆く。


「あたしの技も同時にディスるな。こっちの【豪打+19】はこれまで2回発動してるんだよ」

 エスタが口を尖らせた。


「豪打の19!? なかなかダイス目走ったな。そう見るもんじゃないぞ」

エスタ「ダイスネ? まあね、出れば強いよ。6級だけど」


「ほかには?」


 俺が問うと、二人は顔を見合わせた。


エスタ「私たち、霊格が3と4なんだ。これ以上弱いので埋めるのはためらいがあって」

チリリ「今日はそのためにここに来たの。もう少し安定して強い技がいるわ」


 なるほど。

 三人とも強力だがまず発動しない特技だけを得てしまったわけだ。


 低級の恩寵は、発動率・威力・効果範囲・使用回数のどれか、または全部に不足があるものだけど、パーティ全員が発動しにくい特技ばかりでは、不安定すぎて生き残るの難しいよな。


 俺の能力との相性はむしろいいけど。

 6級は36回に1回発動だったのが11回に、5級は4回だったのが20回に増えるわけだが…

 ここまで上がれば頼れるかといえば、正直そうじゃないしなあ。


 そして言うべきか言わざるべきか。

 成人から3年間、特技が殆ど発動しないという体験を積んできた人らだ。

 成功率が上がっても慢心せず、ただの偶然で、すぐまた元に戻る、と考えてくれたらいいのだけど。


 結局言わんかった。

 まだ発動したわけでもないしな。




 こうしてまた俺が先行偵察しては、弱い魔物集団を見つけて襲撃し、多めのやつは迂回する、という感じで、着実に奥へと向かって行った。


   ◇ ◇ ◇



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