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俺「だいたい分かった。あいつらに特技はない。悪党の記憶を持たされた、ただの子供だ」
俺たちは市場を抜けて、『学びの園』の庭園に来ていた。さすが富豪の豪邸だけあって、景観が良い。ちょっと和風の形式である。手入れはされていないので樹が伸びすぎてきてはいるけど。
庭でも授業が行われているときがあるが、空いているならこうして東屋のひとつで雑談しても、文句は言われない。
ビルト「では急いで殺す必要はないな」
ウヒョウ「それなら一安心だが。
あー、しかしあれがクルベルトワの使ったシロモノと確実に同じという確証がないのでは?」
ウヒョウが途中で買った煎餅を割りながら言った。
俺「あの商人の言い方からして、将来自分も使いたそうだし、なら同じものを手に入れてると思うけど。
たぶん彼はこちらが、『連中は過去を知るものを殺している』と伝えたことに反応していて、彼のルールに反しない範囲での情報提供をしてくれたんだと思う」
俺は景色を楽しむ風で、周囲に視線を飛ばす。
ビルト「自分が殺されるかも、と? でもただの子供なんだろ? 特技のない」
俺「未成年でも、魔道具は使えるんだぜ。毒物だってな」
ビルト「そうか。そうだな。彼は自分が売った品について知っているだろうし」
ビルトソークも煎餅を齧る。
ウヒョウ「ともあれ、あとは子供たちを捕らえて、その記憶をぬぐいとればいいんだな。どうしたらできるんだ?」
俺「できないぞ」
ウヒョウ「待て待て。待て。なんで即座に諦めているんだっ?」
俺「茶に酢を混ぜたとして、その酢だけどうしたら取り除ける? 覚えたものを一部だけ忘れさせるのは難しいぞ。何かそんな魔術があるかもしれない。しかしそんなものに当てはない。俺は知らない」
言いながら竹の水筒から水を飲む。溜めた雨水を売っているもので、ひと杓子で1ギル。前世のペットボトルの水くらいの感覚。
ウヒョウ「しかし本来は、彼ら単なる幼児だ。変な記憶があっても、それは夢を見たんだと教えたら、やがて消えるんじゃないか?」
ビルト「なるほど。僕も子供の時に自分は英雄などと想像したものだよ。あれ? それ忘れないだろう?」
お前はいつまでも夢追うものだよビルトソーク。
俺「移植された記憶は、『移植先を乗っ取る』という強い意識をもってやってきてるからな。自分の体が幼児になっていても、おかしいとは思わない。仮にとらえて、説得して『幼児の自分こそ本来なんだ』と教え込んでも、移植された記憶がゼロになるわけではない。残り続ける」
ウヒョウ「説得はできるんだな」
俺「敵としての側面は残り続けるといってるんだ。いずれ成長すれば、クルベルトワとサビョンデイルの再来になるぞ」
ビルト「なんとかならないのかい? その記憶」
俺「完全に記憶喪失にする魔道具ならあるんじゃないか? テルミナのことも忘れるけど」
ビルト「探してみよう」
俺「まあまて。それ使っても元の子供助けたとは言えないだろう」
ビルト「しかし記憶を削らない限り、保護しても敵を育てるようなものだよ」
俺「うん。結論に関しては俺たち二人は同じだろうね」
ウヒョウ「俺は違うぞ」
全員合意には至らんだろうなあ。
いったん空気をリセットするためにも、俺も煎餅を齧った。
俺「それはそれとして、当座の問題について話し合いたい」
書きだめ入ります




