表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/73

72

 城塞都市の西には大河が接している。だだっ広くクソ浅いそれは、主要な水源であるとともに水運を担っている。

 当然そちらに面して港があり、その近傍に都市最大の市場があった。


 マップを作るときダイス目が悪かったのか、微妙に港から離れてるが。

 近くの数マスかから、こうした必須拠点は選ばれるのだけど。


 まあその点は世界観的には、住人の利権関係で決まったという説明がされる。


 ともあれ俺たちは、華やかに商店の並んだ間を人込みを避けつつ通りすぎ、串焼きや甘酒を買い食いしながら道を尋ねた。

 何か買わないと教えてくれない。一見さんには冷たいのである。過去も多少はこの辺で買い物した覚えあるのだが、道を聞くようではまだまだなのだ。常連の道は遠い。


 やがてソーギンド商会に至った。ズロイが名前を出した店である。

 幅広の店頭には樽の形の搭乗型ゴーレムが並べられ、頭上のタープで柔められた日差しに暖められていた。


ウヒョウ「こんなところに置いて盗まれないのか? 目立つから無理とは思うが」

ビルト「表に置かれるようなのは結縁が一人しかできないタイプだろう。店主や店員がしていれば問題ない」


俺「これ扱ってるなら義肢もあるかな?」


 禿のラッソウがヤッドに会ったら四肢を切り落としかねない。


店員「アルキタルをお求めですか? お望みであれば四肢のカットも致しますが」


 さっそく店員が売り込みに来た。


俺「いや、店長さんに用事があってきたんだ」

ビルト「ここにガドムからの紹介状がある。いま時間を取れるだろうか?」

店員「ほほう、会長に? ではその葉挟みをお預かりしましょう。確認してまいります」

ビルト「頼む」


 店員の言った葉挟みとは板2枚をつなげたもので、挟むことで大事な書類を傷めず運ぶバインダーである。主にテラの葉を挟むことになるのでこの名がある。


店員「お会いになるそうです」


 戻ってきた店員に連れられて奥へと導かれる。質素な応接間に送り込まれ、椅子に座るか座らないうちに、速足で異相の人物が現れた。


異相の人「これはどうも! ガドム親分のお知り合いということで、私めがこの店をやっておりますソーギンド、と申します。して皆様方のお名前と御用の向きをお聞きしたいっ」


ビルト「… あ! 僕はビルトソークです。こちらはわが友マショルカとウヒョウ。今日出向いたのは、ある人物にこちらが売ったとされる品物について、お聞きしたいがためです」


 さすがのビルトソークも、ソーギンドなる人物の顔に数瞬固まっていた。恵比須様の笑顔をデフォルメしたような風貌なのである。

 とはいえ愛嬌もまたあるので、そこまで不快とか顔をそむけたくなるというわけでもないのだが。


ソーギンド「といいますとヨルバイン御一門の。ははぁ。お家とは仲良くしたいものとは思いますし、ほかならぬガドム親分さんの言葉もありますから、無碍にはしたくないのですが、ほかのお客様との取引内容を答えるというのは難しいですな。信用にかかわります」


ウヒョウ「人死にが出ているんだ。もう何十人も死んでいる。しかも子供たちだ。これ以上被害を広げないためにも、手掛かりが欲しいんだ」

ソーギンド「うちの売り物に、そうした大量殺人に使えるものはないと考えますが?」

俺「少なくとも、その発動が殺人の動機につながったんじゃないかと思ってる」


ビルト「クルベルトワという人物を知っているかと思います。その死の直後から、彼と顔見知りの幼児が奇妙な動きをしだし、近辺に死が溢れている。それを引き起こしたアイテムについて知りたいのですよ」

ソーギンド「繰り返しますが、顧客情報を伝えるわけには」

俺「まだ商売の相手だからですか?」


ソーギンド「… あくまで一般論ですが、お客の情報をみだりに広げては、うちのとの付き合いを考えなおされるお客様が出てしまうということですよ」

ウヒョウ「子供が殺されてもか?」

ソーギンド「城外民でしょう?」

ビルト「城内でも殺してます」

俺「あちらは、自分の過去を知るものを殺していっているらしい」


 ほんの一瞬、商人の顔が固まった。


ソーギンド「…なぜ?」

俺「さあ? その動機の手掛かりが欲しいのですよ。手伝ってくれません?」


ソーギンド「その奇妙な行動を始めたという子供たちについて、どのような風貌なのか教えてもらえますか?」

俺「使われた魔道具の情報がもらえるなら、すぐにでも」


 ソーギンドはしばし天窓を見上げて考え込んだ。しかしすぐ何かを決断した。


ソーギンド「お客様についての質問に答えるつもりはありませんが、皆様方が欲するような品に関しては、お見せすることはできます。そこまでは協力させていただきましょう」

ビルト「品物?」

ソーギンド「護符です。どういう機能があるかについては、有料でお答えいたします」


 そして素早く立ち上がって足早に出て行った。

 風貌から何歳なのかまるでわからないのだが、体の動きからすると若いのかもしれない。


 そして戻ってきた、

 と思ったら大人数である。

 扉が開くといかにも用心棒といったガタイのいいのが入ってきたので、こちらの3人も腰を浮かせた。


ソーギンド「あー、待った待った。違います。貴重品なのでね。こうした備えがいるのですよ。本来であれば見ていただくにも、それなりのお金をいただくか、保証金を預かりたいところです。何か持っておいでですか?」

ビルト「この魔剣でいいかな?」

ソーギンド「魔剣… ふむ。これは…。よいでしょう。

 君、そちらで預かっていて」


 商人がビルトソークから受け取った剣をにらんでいたので、こちらもその隙に彼をにらむ。【鑑定:魔道具(強度2】を持っているな。

 彼は護衛の一人に、ビルトソークの剣を渡した。


ソーギンド「ではこちらの護符です。おさわりにならないように。質問一つにつき、相応の額でお答えしますが、最低でも100ギルとお考え下さい」

俺「この護符のマークを憶えて、よそで聞いても構わない?」

ソーキンド「……構いませんよ。私めを信用できない場合もありましょうからな」


 あからさまな失望の色を浮かべられた。

 『貴様に何が分かるんだ?』という表情だが、許可はをもらったので入念ににらむ。


記憶転送の護符の4:

 送る側と送られる側、両方が自発意志でこれに結縁する必要がある。

 送る側が死亡した時に発動判定が行われ、成功したならその記憶が送られる側に加えられる。成否にかかわらず護符は破壊される。

 霊体や魂が送られるわけではなく、特技その他の個性もうつらない。あくまで記憶がコピーされるだけ。

 一度結縁するとリセットはできない。破棄は可能。発動するには送る側が装備してる必要がある。


 ふーん。

 ソーキンドは。【鑑定:魔道具(強度2】を持つから、恐らく2行目前半まで読み取っている(あの鑑定特技の説明を読むには時間足りないので確実ではないが)。

 するとクルベルトワらも、特技が移らないことは知らなかったのかも。


ビルト「これは彼らの使ったのと同じなの?」

ソーギンド「手に入れたのは3つで、2つは既に売れましたな」

ビルト「なぜ余計な数を買ったんです?」

ソーギンド「私自身も多少興味がありましてな。機能を説明すれば、欲するお客様は必ずいると思いますよ」

ウヒョウ「彼らで実験を?」

ソーギンド「まさか。しかし見慣れぬ魔道具を使う時には、そうした面があるのは否定しませんな。私とていずれはそうした形で世に尽くしたく思います」


俺「ビルトソーク、ズロイの描いた似顔絵を見せてあげて。背丈服装と口調の説明も頼む」

ビルト「わかった」


俺「… 憶えました。ありがとうございました」

ソーギンド「本当によろしいので? よその鑑定士に聞いても、分かるとは思えませんが」

俺「何とかはなります。

 それより最近6歳ほどの子供が購入した魔道具についてお聞きしても?」

ソーギンド「あいにくとそれは無理ですな。ほかには?」

俺「いえ、お時間とらせました。これでお暇したく思います」


 ソーギンドはうなずいて護符を大事そうにしまった。


ソーギンド「大量殺人の犯人が捕まればよいですな。ではこれを片してまいります。

 お前、私が行ったらこの方々を表にご案内して、それから魔剣をお返しするように」


 そうしてさっさと、護衛とともに去ってしまった。

 俺たちは残ったものに案内されて、店の外へと出た。


   ◇ ◇ ◇



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本人とかではなくて、単にコピーされた記憶を持っているだけか ……スワンプマン問題、一番扱いが難しい奴ですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ