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 さてイルドムの先導で、神殿に戦死者の弔いに行くことになった。


 他のメンバーは俺、ビルトソーク、ウヒョウ、禿のラッソウ、八又のジノ。

 ズロイとヨッソフは怪我の治療、とか薬物漬けとかで残してきた。


 なお薬物への規制は前世より緩いので、ヒロイン中毒は違法というわけではない。せいぜい酔っぱらって葬式に来るのは不謹慎、程度である。

 基本通貨であるギルの実よりも少額貨幣として、『酒の種』というのがあるが、これも軽い酩酊状態をもたらす麻薬だし。

 気に入ってる奴らは結構人の手垢で変色してるのでも、平気でバリバリ食ってる。


 城外民集落をでて街道に出る土道を行く間、イルドムの機嫌は良かった。


イルドム「今日は思ったより結果が良かった! あの魔物が前日同様集落内にとどまっていると聞いたときにはうんざりしたが、倒せたとなれば大きな勲しだ!」

ジノ「若頭の采配が当たりましたね! 世間が黙ってませんよーっ」


 采配ってほどしてたっけ? こっちは言いたいことがあるぞ。


俺「それはそうですが、相手が魔術を使うのは教えて欲しかったですね… 対処の仕方もあったでしょう」

イルドム「何言ってやがる。ちゃんとしてたろうが。お前ら第1陣が突っ込む。奴が眠りの魔術を使う。そこで第2陣を送り込む。

 計画とは違ったがな」

俺「え? 俺たち囮?」

イルドム「囮ってわけじゃねぇ。被害の限定だ。

 昨日やりあった時には、皆一斉にかかって、大半が眠りこけて大被害につながった。だが一度しかあの魔術を使わない様子だってのもわかった。なら2陣に分けて最初の奴らが眠らされても、第2陣が攻撃できる、って塩梅よ」


 なるほど一応は戦闘計画あったのか。『誰か倒れたら第2陣を出す』ってのも、死んだらではなく『眠ったら』の意か。


ウヒョウ「家を潰したのはどうなんだ? 走り回るのに邪魔になったんだが」

ジノ「ああしないとアイツ屋根の上や裏に跳ぶんだよ。そこから落ちてくると気づかないんだ。家を崩せって若頭が命じたのは正解さ」


 若頭とはイルドムである。


俺「そういわれると、妥当ではあったんすね… 結局は全体に眠り掛けられましたが」

イルドム「おめぇが初撃で核を潰しちまったからな。ここがチャンスと号令かけちまった」

俺「そりゃすいません」

イルドム「なにも悪くはねぇよ。よくやった。まさかアイツの核が再生できるとは思わなかっただけよ」

ジノ「それにたちまちみんなを起こしたのはアンタでしょ。あれは殊勲と思ったよっ」

イルドム「そういやお前だったな! 俺を踏んづけたのはっ」


 弟のベベスほどじゃないがこの人もカッとしやすいな。


俺「それはあの時起こさないと、一方的に殺されますしっ」

イルドム「怒っちゃいねぇよ。よくああいうのに備えた心構えができてたと感心したんだよ。親父の言うように、柔軟な考え方ができるんだなお前」


 いや怒ってるよね顔怖いんだけど。


ウヒョウ「前日のが荒れたんだな。それで死者が出なかったというんだから大したものだ」

ラッソウ「いや…」

イルドム「死人は出たぞ」

ウヒョウ「でも最初の話」

イルドム「聞いても意味ないだろ。まあ二人程度なんだが、スライムの一撃で砕けちっちまった。それより寝てる間に顔食われたりで、生きてるけど使い道の分からねぇのが出たのが問題だ。

 そういうの聞かされたって、お前らも困るだろ。やることは変わらんのに」

俺「いやー、先に聞かされたなら心構えにも」

イルドム「とりわけてお前はダメだ、こそつきの。多少の怪我で腰砕けになるってのは聞いているからな。逃げを第一にした腹積もりになられちゃ困る。まず突っ込んでもらうのが大事だったんだよ」


 俺は痛みに弱いからね。


ビルト「でもそうしたことを僕らに話していいのかい? 聞けば腹を立てるものだっているだろう」

イルドム「ここにいる者たちに限れば平気ですな。そもそも組が揉め事抑えるやりよう、ちょいとばかり乱暴なのは誰でも知っている。肝心なのは手早く済ませること。それができれば、誰かが陰口叩こうと、野暮なことを言うなと言われるだけでしょう。若の連れてきた3人、どれも集落で顔が利きませんしな」

ビルト「もし僕が文句を言ったら?」

イルドム「ほう。

 もしそんなことになったら? いや別に大したことにはなりません。若がどなたか、ほとんどのものは知りませんし、知ってるものは勘当されてることも知っている。ただこちらとしてはメンツを潰されたわけですから、以後の手助けはお断りしましょう」

俺「まあまあ。集落の流儀は知っていますからね。見返りくれるなら文句はないですよ」


 ビルトソークは俺らのために腹を立てたようだ。ムッとしている。

 だけどイルドムを怒らせてもいいことはない。彼も親父のガドムも、思惑なんだか恩義があるのか、ビルトソークに礼儀を保っているが、看板にケチつければ決裂する。


イルドム「どうだ、いっぺんこっちに戻ってこないか? 噂で聞いてたよりはお前使えそうだ。人数減った分、補充に入れるぞ」

俺「いやぁ、城内で暮らせてますからね」

イルドム「宿暮らしなんて高くつくだろう。押し付ける気はないが、早く戻ればそのぶん上に立てるぞ。

 ウヒョウも、今はお前に仲間殺しの評判がついてる。集落で暮らすなら、うちに属したほうが息がしやすいぞ」

ウヒョウ「俺は戒律を守らなければならない。その範囲なら手伝えるが」

イルドム「うーん、それはなあ」

ジノ「神様との約束は大事よね」


 組に属せば『黒も白』な行動が要求されるが、表立って戒律を破れ、といえないのはスラム自警団でも同じである。

 その戒律が神殿ごと異なるので、信仰心の強いものを組に入れるのは難しい。


 そんなこんなで街道に上がり、北門を入って、神殿で遺髪を弔った。


   ◇ ◇ ◇


 祝勝会をやるぞ、というイルドムの誘いは断った。先に魔道具屋でクルベルトワらの使った道具について知りたかったからである。


イルドム「そうだ、もし行った先で呪い関連の品があったらあとで伝えてくれ。なんなら買っておいてもいい。それなりの金額で引き取るぞ」

俺「気にはしておきましょう。ただ手持ち資金がないので買い置きは無理ですが」


 気に入らない品なら「返してこい」と言われかねないので、やる気はない。


 こうして別れて、市場に向かう中、ビルトソークがこちらを見てイルドムを評した。


ビルト「なかなか癇の強い人だね。付き合うのが難しそうだ」

俺「いやぁ、弟のベベスよりよほどまし。あっちは本物のクズだった」

ウヒョウ「弟はやりたい放題したそうだが、勇敢でもあったんだろ? 手下からも慕われてたと聞いた覚えがある」

俺「慕われてたというか、遊び仲間でおこぼれがあったから。集落防衛やよそとの出入り、たまのダンジョンじゃあ、死人が毎回出るようなチームだった」

ビルト「無理強いがあったのかい?」

俺「いや、まあ俺なんかは使い捨て扱いで酷かったけど、死んでった奴は自ら強敵に立ち向かって散ってったのが多いな」

ウヒョウ「小部隊率いるリーダーとしては才能あったんだな」

ビルト「暴力的で略奪を認める小隊長の下では、兵は強いというが。うーん…」


 なんか考えてるが、実際には俺がプレイヤー能力で、彼らの攻撃目標を変更してたのが理由である。

 あっちも俺を死んでも構わんという扱いをしてきたので、こっちも必死に連中をにらみ、一番強い敵に突撃させていったら、いつの間にかベベスのチームは優秀だ、となったに過ぎない。

 損耗率が凄くて、逆に虚像に憧れた新人が志願してきたり、終わりごろには真のクズ集団からちょっとましなクズになってた気がする。


 まあそんなことは口にしないが。

 それにベベスたちも組の英雄扱いで弔われたので、満足したのか悪霊になることもなかった。誰も不満はない。


   ◇ ◇ ◇



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