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 北門を出たところで、今日は罪人が首枷台にかけられているのが見えた。


ウヒョウ「今日も老人だな」

ビルト「若ければ売れるからな」


 この世界の刑罰もいろいろあるが、基本は金をかけない。あるいは採算がとれるものである。

 微罪なら杖や鞭で打たれ、あるいは城内での首枷、重罪なら奴隷となり競売、売れないときに城外での首枷となる。

 首枷は必ずしも死刑ではなく、期間のある刑罰だが、恨まれているとリンチの対象になる。特に城外での首枷は、法の保護から外される。

 飲食も与えられないが、私的に与えるのは許されている。

 味方がいたり冤罪と思われているなら、生き延びることはある。


 逃亡しないよう門番や衛兵が監視しているが、余分な仕事だし、厄介そうなら最初に手足の筋を切られることになる。嫌われないようにしよう。


ウヒョウ「昨日はあの丘のミニダンジョンに行ったのだが」

ビルト「うん」

ウヒョウ「生前の力を残したゾンビが出てきて参ったよ。溢れる前にこのことも、ここの親分に伝えないとな」


 首枷台を横に、街道を城外民集落へのわき道にそれながら、そんなことを言っている。

 あの糞爺がここで死んだという話を思い出したのだろう。


ズロイ「溢れそう? 年末ごろに、常勤で魔物狩りに来てた連中が逃げ出したというからなあ。儲からん仕事だからしょーがないけど」


 そうなんだよなあ。毎回押し付けられるのは懲罰だよな。俺たち、親分の息子ベベスが死んだ時の生き残りだったし。

 あいつら見かけないけど、どこに行っただろう? よその都市か南門か? 城内民1万人ってところだから、遭わないのも不思議ないが。


ズロイ「どうかしたかい?」

俺「いや。大したことじゃない」


 俺たちは街道から集落への道に入った。


俺「それよりテルミナたちの家ってどこだ?」

ビルト「あの辺だ」

ウヒョウ「やはり近いな。吸われたか」

ビルト「近い? とは?」

ウヒョウ「昨日あの迷宮で、子供のゾンビが大量に出た」

俺「テルミナの前では言いにくくてさ」

ズロイ「やっぱりなあ。行かんで良かった」


 各人丘の上の廃屋を見上げる。


ズロイ「弱い連中が割の悪い場所に住むことになるんだよね」

ビルト「まだいるようなら、あとで冥土に送るか」

俺「罪人の爺の亡霊が強いんだわ。止めた方がいい」


ウヒョウ「遺髪を弔ったのはいつだ?」

ビルト「午後一だな」

ウヒョウ「なら成仏したかもしれん。俺たちが戦ったのは午前だけだったはず」

ズロイ「そりゃあ、弔いが先ならよかったのにな。戦わず済んだ」

ウヒョウ「うむ…」

ビルト「その時は誰の霊か分からなかったろ。しかたないさ」


 知り合いによる弔いの方が、成仏させるのに効果あるとされている。この場合はテルミナ。

 恨みが濃いと地にとどまる。

 また、日がたって魔物化してしまうと間に合わなくなる。


 会話を交わしているうちに、掘っ立て小屋の並ぶ城外民集落に入った。


 いや厳密にいうと「掘っ立て」ではないな。

 岩盤の上にくぼみを探して柱を立て、土で押さえて土台としている。掘ってはいない。

 あとは藁で覆って屋根とし壁とする、いかにも難民キャンプである。


 これは建前上、あくまで城外・堀の外に一時の仮住まいを許されてるだけ、という体裁なので、一日で片せる規模の住居しか許されず、また籠城など必要あるときには、建材を資材として没収されることになっているからだ。


 まあ実際に戦時にこれをやると城外民が敵方につくので、文字通り実行するのは難しいのだが。


 この辺の岩盤は、堀や防壁と同時に儀式魔術で形作られたもので、防壁上からの攻撃から障害にならないよう、草木が生えず塹壕が掘れなくなっている。

 攻囲軍が来ても、そいつらが儀式魔術でさらなる変形を加えるのは、城内民がいる間は妨害されるので不可能である。


 なおこの岩盤は、世界の外殻であり、薄皮一枚向こうは宇宙だ。

 中心に太陽を置くこの世界は、卵の殻の内側に大地や海が張り付いているような形をしている。

 その外殻が露呈してるのがここである。

 一見自然石だが、その姿は偽りだ、実際にはこの世界の住人の技術や魔術では絶対に破壊できない代物だ。儀式魔術で変形は可能だが、穴が開くことはない。


ズロイ「お、ごくろうさん」


 手近の家から胡乱げにこちらを覗く女に挨拶している。

 門番である。


 あまり自衛力があるように見られては領主府と摩擦が起きるので、たまたま暇な人間がいたかのように装っているのである。

 ことあれば傍の紐を引き、人が集まる。

 これ以外にも見張り台があり、【遠見】の特技持ちが周囲を警戒しているはずだ。


ズロイ「こっちだよ、若様」

ビルト「来たことはなかったが、案外奇麗なんだな」


 左右の藁壁・藁屋根に挟まれた路地を通りながら、感心している。

 清潔なのはここがスラムのメインストリートだからで、顔役や商人が往来するからだ。どこも岩盤なので、汚れを吸収しないから、汚いところはいつも汚い。

 ひび割れ、に見える岩盤の皺を伝って、全域に汚水が広がるようになっていて、悪臭と湿り気が常にある。


 ビルト以外は道を知っているので、さっさと行く。


 やがて巨大なテントが現れる。ぱっと見の形はサーカスのあれ。色は地味だが。サイズはちょっとした豪邸くらいある。

 屋根は赤茶、壁は焦げ茶。柱や綱の留め具は樹脂で岩盤に張りつけられ、容易には剝がれない。ぱっと見は地味だが何層もの布地で外気と隔てられ、中は魔道具で適温適湿となり快適である。


 脇にある見張り台から降りてきた男が、こちらに寄ってきた。



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