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ウヒョウ「いてぇ!」
俺「あ、いかん」
翌早朝、ウヒョウの抑えた叫びで目が覚める。
室内はほぼ真っ暗だ。
ズロイ「ん? どうした?」
そして無言で寝床の脇の魔剣を掴むビルトソーク。
ウヒョウ「なんだ? まきびし? 陶器の破片か?」
俺「すまん。新しい呪いが発動したのを、いうの忘れてた」
ズロイ「呪い?」
ビルト「彼は呪いを引き寄せる体質だそうだ。
ウヒョウ、大丈夫か?」
ウヒョウ「皮はやぶれてないな。しかしなんだこれは? 毒は?」
俺「毒はない。ある種の玩具の一片だ。それが寝てると部屋にばらまかれるんだ」
ビルト「ほう。まずは窓を開けるか。暗くて見えん」
ウヒョウ「これが撒かれてるとなると、なかなか動きたくないな」
俺「いや俺が行くよ。スリ足ならイテッ」
窓まで近寄り閂を外して押し上げると、まだ弱い赤みを帯びた光が室内にも入ってくる。
ビルト「ほう、これが玩具か? 色鮮やかで造作がしっかりしてるな」
ウヒョウから受け取って、手のひらで転がしながら感心している。
ウヒョウ「子供のいる家庭に置くものじゃないだろ。怪我の原因になるぞ」
俺「普通はこれ組みあった状態にしてるだろうから、問題は置きにくいんだが」
言いながら床に落ちてたのを拾い、パチンと組み合わせる。
みたところ全部で十数個。嫌がらせとしては十分な数である。
ウヒョウ「こちらに影響のある呪いについては、きちんと説明しておいてくれ」
ビルト「それはそうだな。命にかかわることもある」
俺「ほんとすまない。今回は完全に俺の失態だ。朝飯は奢るんで勘弁してくれ」
ズロイ「おほ、これは儲けたのー」
俺「お前さんには迷惑かけてないだろ」
ズロイ「お、そこにも一つ、赤いのが残っておるぞ」
俺「あ」
ズロイ「朝日で見分けにくいわな。また誰か踏まんでよかったのう」
俺「ぐぬぬ」
結局三人に奢ることになった。
斥候勝負にも負けて悔しい。
ビルト「僕のように寝るときには新しい草鞋を履いておくといいぞ」
ウヒョウ「そんなことをしているのか」
ビルト「常在戦場。武門のたしなみだ」
ブロックは組み合わせて窓際に飾っとく。
ビルト「ほうこんなふうになる」
ズロイ「こりゃなんの形だい?」
俺「知らん。あるものくっつけただけだ。たくさんあれば馬とか城とかを形作れるが」
ウヒョウ「なるほどこれなら… いやこのまま踏みつけても痛いぞ」
相当痛かったらしい。
そのあと連れ立って井戸に顔を洗いに行く。
桶に水を汲み顔を洗う。時に思い出したが【指先通話】が昨日の配置のままだわ。ワシャワシャ顔をこすっても実際には顔と手のひらが当たってない。
女子部屋でエスタが短い声上げてるし。
まあ手ぬぐいで拭く時に汚れも落ちるだろ。
ここでは歯は磨かない。
この井戸は都市と隣接する川の水を引いてるだけなので、あまり衛生的ではない。一応上流の水ではあるけど、洗顔・洗濯はともかく、口に入れるのは沸かした方が良い。
この街で得られる最上の水は、魔術的に召喚したものを除けば雨水である。
この宿でも雨どいをきれいにして壺に流し込み、売っている。
うちのオナゴ衆4人も、起きてきた。
チリリ「おはよう」ジーネ「ねむいー」エスタ「うすー」
俺ら「おはよう。テルミナもおはよう」
テルミナ「おはようございます」
言いながら少女はチリリに寄り添った。チリリもフフッと笑って手を添える。
やっぱりテルミナ、ちょっといい家の生まれかもしれない。
そのあと男子部屋で今日の支度をしているところに女子が来たので、竹皮幾つかに唐揚げを包んで渡す。
ジーネ「わぁいっぱい」
俺「特にテルミナはもっと食えよ。痩せすぎだ。こればっかりだと偏るから、野菜とかもな」
テルミナ「ありがとう…」
11歳なのに8歳に見える体格。足らな過ぎである。
俺「昨日よりやけに大人しくなってないか?」
テルミナ「ユペルとジメのことがあったから… ごめんなさい」
チリリ「さあ食べて元気をつけよう? 今日は縫物と縄の編み方を憶えてもらうからね」
悲しみはやるべきことがあれば忘れていく。底辺や探索者は、日々知り合いが消えるものである。慣れるほかない。
エスタ「昨日は結構ハードだったから、休めてないわ。今日はゴロゴロしよ」
俺「飲んでなかったっけ?」
ジーネ「仲良くしてなかったっけ?」
エスタ「細かいことはさておき」
ジーネのいう「仲良く」は、(男の子と)の意である。
ビルト「では出るとしよう。女性陣も朝飯を買うところまでは一緒に行くか?」
ジーネ「唐揚げ残していくと誰かに入られちゃうから、あたいは残るね」
チリリ「あなたを残すと戻ってきたら満腹になってるでしょ。来なさい。エスタとテルミナが残って」
ジーネ「やーん」
そして朝市で朝食を買い、男性陣はガドム親方のところに向かった。
◇ ◇ ◇




