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ウヒョウ「ミニダンジョンのはずが、並のダンジョンよりきついな!」
俺が床に座り込んで【賭け治癒】で負傷を治していると、ウヒョウが感心半分に慨嘆している。
俺「そりゃそうだ。普通は俺ら自分より弱い連中狩りにいってるのに、あの爺さんは同格以上だ」
探索者たるもの、弱い者いじめで稼ぐのが基本である。
せめて何かしら落とすならともかく、ここだと何もないし。
エスタ「ビルトソークと同じくらい腕前あるんじゃない? ここはなんの拾い物も出ないんだし、今日はこの辺にする?」
ジーネ「ほかに出てくるのは子供たちが殆どだから、負けはないと思うけどねー。途中でお爺さんに怒鳴られた時には、金縛りになってまずいかなと思ったけど、すぐ解けたし」
エスタ「だな。仲間がそろってる時なら強いんだろうけど。
あの爺さん強盗団率いてたそうだから、そのときは使えたんだろう」
エスタは老人が首枷台に付けられていたのを見たというから、その時誰かに罪状を聞いたのだろう。
ウヒョウ「しかし相変わらず数多くゾンビが出るということは、迷宮が溢れる寸前なのではないのか? あの老人が外に出れば、近くの住人に被害が出るが」
俺「それでも俺たちが無償でやる筋合いはないだろう。思いの薄い霊たちなら、数回も倒せば見えなくなるが、強盗団やるような爺は結構粘るぞきっと」
エスタ「ほっといて魔物になると、強くなりそうだな」
俺「それはない。ミニダンジョンに呼ばれたんなら、なれるのは痩せた悲しいオークくらいだよ。外に逃げ出せば分からんけど」
ジーネ「近くに住む人に警告しておけば? 縄張りにしてる親分さんいるんでしょ? 伝えてもらって」
ウヒョウ「そうだな。だれか探してみよう」
エスタ「それにしてもマショルカ狙われてたよな。なんか恨み買ってたか?」
俺「いやー、そんな憶えは」
ジーネ「頭突きアタックもされてたね」
俺「あのガキには狙われてるわ」
前回からホーミングミサイルのように粘着してくる子供がいるのである。
今回の戦闘で子供からダメージ受けたのは俺だけだ。
というか爺さんから受けたのも俺だけだ。
ゲームではNPCの目標の選び方は事前に個体ごと決まっていて、『完全ランダム』『ランダム、一度決めたら倒すまで固定』『HPの多いもの』『HPの少ないもの』『敵リーダー』『魔術師』『後衛』『最後に自分を攻撃したもの』『味方を倒したもの』『イベントアイテムの所持者』など。
これらから2~3個、優先順位を決めて付けてある。
この世界の住人もそれを再現して、心がけとしてそれを持ち、あるいは意識せず従っている。
その中に『PC優先』も、あったような。それか?
しかし途中で俺以外も攻撃してるのだから、たぶん違うんじゃないかなー。
偶然と信じたい。
その手の奴がそこそこいるようなら、命がヤバい。
ウヒョウ「では宿に戻るか。ズロイも戻っているかもしれん」
俺の怪我が治ったとみてウヒョウが言う。
ジーネ「あのお爺さんも早く輪廻に戻ればいいのにね」
ウヒョウ「魂があり天界に戻るとしても、先は長そうだな」
エスタ「じゃあ帰る前に魔術の組み換えよろしく」
俺「えー、歩くのに邪魔になるだろ」
エスタ「そこは寄り掛かっていく」
俺「俺の邪魔になるだろ」
エスタ「耐えるから。耐えるの好きだから」
俺「ともかくダメ。宿に戻ったら考える」
エスタ「もー」
そして俺を先頭に次の間に入った。
今度は子供ゾンビばかりだったが、向かってきたのは片づけたものの、ひとり小さいのが、隅に張り付いて怯えて泣いているのは参った。
俺が近寄って突き殺したが。
ウヒョウ「…すまん。手が出なかった」
エスタ「あたしもやろうとしたけど、ちょっと躊躇っちゃったな…」
二人とも罪悪感のようなものを浮かべて、暗い表情になっている。
勝手に戦闘終了してしまったのだ。
俺「たまにいるんだよ、迷宮に捕らわれると敵意を植え付けられるはずが、性根が善良すぎるか臆病なんだろうな」
ジーネ「ほっとくわけにはいかないの?」
俺「残したのが外に出ると何かに憑りつくだろ。ダメだ」
こうして最後はなんかビターな気分になりながら、コアに触って俺たちは廃屋をあとにしたのである。
ウヒョウ「まだ職業追加するのか?」
ジーネ「えへへ」
なんだか呆れた顔を残して、ウヒョウは住人を探しに行った。
廃屋が溢れそうだという警告を伝えに。
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