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ヤッド「だって俺の槍を盗もうとするからさあ!」

俺「勘違いやパニックで刺されないように外そうとしただけだ」

ヤッド「そんなの証拠あるのか!」

俺「とるなら、槍の前にお前の命を取ってる」

ヤッド「これは兄貴から受け取った大事な槍だ!」

俺「俺には安物だよ」


ジーネ「もうやめなよー」

クワン「助けてもらってその態度はないかなー」

エスタ「まあ傷を冷やせよ」


 廃屋脇のベンチ石に新人二人を座らせた。

 エスタが手ぬぐいに竹水筒から水をこぼして渡している。


俺「新米は敵味方を取り違えて攻撃してくることがままあるからな。武器を取り上げるのが悪かったとは思えん」


ジーネ「それはそうだけど、もう終わりでいいじゃない。それより随分ぼこぼこにされたね」

クワン「あの子供たち、素手で殴る蹴るしてくるんですけど、本気なんですよ。小さくてもやっぱり痛くて。噛みついてもきたし」

ヤッド「やめろって何度も叫んだんだ」

エスタ「そりゃゾンビだしな」

ジーネ「それより、最後まで、戦闘する決心付かなかったの?」


 この世界はゲームの再現ではあるが、戦場で戦闘状態にはいるかどうかの選択権は住人にある。


ヤッド「いやだって子供相手だぞ!」

クワン「僕も、あの子供たちは普通と違う、とは思ったんですけど、じゃあ槍を振るえるかっていうと、躊躇しちゃって」

ウヒョウ「スケルトンやオークなら戦えたというわけか」

ヤッド「そうだよ!」


 未成年や非戦闘職だと、『逃げる』『隠れる』といった選択肢だけを普通は準備してるので、かえって戦闘状態に入る決心は楽だ。

 しかし戦士の新人などでは、『これで戦闘状態になると、相手が死ぬまで止められない』という発想から、かえって戦闘状態に入れないものが出る。

 戦闘状態に入れないままだと無防備のままとなり、こいつらやさっきのウヒョウのように、子供のゾンビの攻撃も受けるばかりとなる。

 もうちょい扉を開けるのが遅かったら死んでいたろう。


 その、最初の殺しに慣れるために、ここのようなミニダンジョンがあり、うらなりオークでも倒して殺害童貞卒業とするのだが。


 こいつら最初に子供ゾンビに出会ったのはまずかったな。

 エスタやジーネのような殺しなれてるものでも、ちょっと嫌な気分になるのだ。


エスタ「顔も腫れちゃってひどいな」

ジーネ「【治癒】かけようとしてるんだけど…」


 うむ。手伝う気はないぞ。

 たまには本来の成功率を思い出した方が良い。


ジーネ「君たち、薬は?」

クワン「ないです」

ヤッド「銭がないんだ」


エスタ「なー、【賭け治癒】かけてやれよ」

俺「えー?」

エスタ「なんで拗ねてんだよ。新人ときはこんなもんだろ」

俺「いやうっかりすると死ぬぞ。結構ダメージ入ってるもの」

エスタ「そうか? そうだな…」

ジーネ「つけで売ってもいいよ。お薬。通常価格」


 探索者なんてすぐ死んだり消えたりするから、普通の取引は現金払いである。

 ジーネのこれはかなりの好意だ。


クワン「ありがたいですが、返せるのいつになるかわからないから。

 その前に【賭け治癒】ってなんでしょう?」


 二人娘がこちらを見たので、説明はしてやる。


俺「見習い用の半端な治癒魔術だ。しくじるとダメージ受ける」

エスタ「でもかなり有用な結果出してるぞ」

ジーネ「うちでは頼りにしてるの」


クワン「 …おいくらでしょう?」

俺「やる気あるならタダでいいぞ。死んだ時は諦めるなら」

クワン「お願いしますっ。何日も治している時間ないんでっ」


 新米の財布が切迫してるのは、アルアルである。


 《1:2》


クワン「いたっ」

ヤッド「おい!」

俺「どうする?」

ジーネ「薬売るよ。街の値段だよ」

クワン「いや、ちょっとぶつかった程度です。もう一度お願いします」


《6:1》


 クワンの腫れがストンと引いていった。噛まれ傷も痕を残して消える。


クワン「あ、治った」

ヤッド「すげ! ほんとに魔術師!?」


 ヤッドの方が驚愕していた。何でも激しく正直に表に出すタイプらしい。


ヤッド「…」

クワン「あの、ヤッドもお願いします」

俺「…」

エスタ「 …おいっ、してやれよ。大人げないぞ」

俺「いや、こいつの方が傷深くない? 薬使った方がいいぞ」

クワン「僕をかばったから」

ヤッド「すいません! お願いします!」

俺「いや、本気で薬、…まあいいか」


 なんとなく俺がケチってる空気になっていたので、仕方なく魔術する。


《4:5》


 あぶねぇ。殺すところだった。


ヤッド「すげぇ! 大体治った!」

ジーネ「あともうチョイくらい?」


 だから危なかったって。

 恩寵なしキャラのHPは10だぞ。

 5点で全快してないなら、さっき4以下だったやん。

 俺のこと信じすぎだろ。


 まあいいけど。


《6:6》


 無駄にオーバーフローで快癒させる。


 まあ仮にしくじりで瀕死になっても蘇生薬あるから何とかなってたろうけどさ。


エスタ「よし、あとは血をぬぐって。あ!」

ジーネ「うわぁ、凄い美人!」


 未だ血に汚れてはいるが、腫れが引くとヤッドはとんでもなく美少女だった。

 ボーイッシュでクールに気の強そうな。


俺「おまえ、女だったのか」

ヤッド「男だよ! さっき踏んだろが!」


 そういやそうだった。

 しかしこれほどの美少女なら、ついていても瑕疵とはいえない。


クワン「村にいたときも、こちらの兄さんみたく見る人多くて、それでヤッドは尖がってるんです」


 そういうクワンは相方とは対照的に平均以下の容貌で、イモ兄ちゃんといったところである。


エスタ「うむ。あたしもマショルカとヤッドの絡みは見たくないな」

ジーネ「バランス的にはクワン君とだよね」


 ほっとけ腐女子ども。


俺「まあその分女性陣からもてたろ。うらやましいわ」

ヤッド「向こうの親が許さないって」

クワン「僕らの家は貧しかったから。食べられなくて二人して出てきたんです」


俺「探索者になるんなら、さっきの子供ゾンビくらいは片づけてくれ。飛び出してきたときは驚いたが、戦えば雑魚だったぞ」

ヤッド「殺せないって! 子供だぞ。しかも知った顔だ。切り替えたら槍で突いたり殴ることになるんだ」

クワン「僕も無理でした。喧嘩まではともかく。怒って殴りかかってくるけど、本気で反撃するわけには」

俺「ただのゾンビだって。よく見りゃ肌の色も眼の光も違う。もう一遍入ってこいよ。いつかは戦うんだし、今のうちに慣れておけ」


ウヒョウ「待ってくれ。君らまず戦士か?」


 傷を水で洗っていたウヒョウが口をはさんだ。

 そういやさっき俺もそんなこと思ったな。腕が素人と。

 こいつらの人生どうでもいいから忘れていた。


「「あー…」」


 二人が顔を見合わせ、互いに返事を譲りあった。


ジーネ「どうしたの? 別の職?」

エスタ「恩寵得るためコア触りに来たのか。護衛なしは無理だぞ」


クワン「いえ… 僕らまだ職を得てなくて」

ジーネ「え! もしかして未成年!?」

エスタ「マジか! 助けた代わりのエッチはお預け?」


 エスタそんなこと考えてたんか。予想の範囲だわ。

 つか未成年だと手を出さんのか。


ヤッド「もう14だよ! 来年には職に就ける!」

ウヒョウ「まだ就いてないじゃないか。死ぬところだったんだぞ」

エスタ「食えないの? 養ってやろうか?」

俺「エスタ、自分の財布見直せ。

 そもそもなんで子供がこの迷宮に来るんだ。魔石も落ちないし、コアに触っても無職じゃ恩寵貰えないだろう」


 また二人して顔を見合わせる。


ヤッド「先輩に、来年に備えて戦闘を経験しておくか? って言われたんだ」

エスタ「どこの先輩だよ。実戦経験は職を得てからで十分だ」

ウヒョウ「ここに一緒に来たのか? さっきの二人か」

俺「だろうな」


 俺たちは先ほど癒してやった二人連れを思い出した。


ヤッド「オークやスケルトンならどうにかなるかと思ったんだが」

エスタ「ならねーよ。戦士以外が前に出るな」

クワン「ですよね…」


ウヒョウ「つまり子供を囮に戦士と依頼人だけ先に抜けていったということだな。ほかに連れてこられた子供はいるのか? ここは3部屋だったな」


 ウヒョウが立ち上がった。まだ被害者がいるのではと思い至ったようだ。


クワン「いえ、僕らだけです。四人で来ました」

ウヒョウ「なら、いいが…」

俺「二部屋目でまた遭遇戦になって、依頼人が怪我したんだろうな。三部屋目はコアがあるから、普通は遭遇はない」


ジーネ「これ誰かに言った方がいいの?」

俺「うーん、ビルトソークなら『子供を迷宮に連れて行くのは、領主の法に反してる』というだろうけど、お前ら正規市民か?」

ヤッド「そこの集落のもんだよ!」

クワン「元は村の出です。食えなくて出てきて」

俺「城外民なら親分さんに訴えるのが筋、ってなるわな。でもぶっちゃけ子供の一人二人死んでもよくあることだしなあ。いっぺんに二桁も死んだならメンツの問題になるけど」


ヤッド「『もしかしたら死ぬかもしれない。その覚悟があるなら』とは、先輩からいわれてるからなあ」

クワン「いづれ戦士になりたいとは、ヤッド言ってたものねぇ。依頼料は三等分といってたけど、そっちをもらえるなら…」

ウヒョウ「殿を押し付ける気だったのは明らかなのではないか?」

俺「一応は覚悟を尋ねてるとなると、親分さんは取り上げないだろうな。金だけもらって諦めろ。来年戦士になるまでもうやるな。

 というかヤッドは男娼になれよ。売れるぞ」


エスタ「もしなるなら買いに行くぞ!」

ヤッド「やだよ!」

クワン「おい!

 今のは姐さんが嫌だって意味じゃないんです。よくあちこちからそうしろと言われていて、少しうんざりしてるというか」

ジーネ「あー、エスタが凹んでる」


ヤッド「娼婦のネエチャンたちとは付き合いあるけど、客に媚びるのは嫌だ」

ウヒョウ「客商売に向いてない性格ではあるとは思う」

エスタ「断わりゃいいじゃん、嫌な客。それで粘るやつは野暮だ」

ジーネ「エスタは断られても喜ぶよね」

エスタ「さっき見たろ! ガチの拒絶はさすがに来るんだよ! でも我慢はする」

俺「戦士の副業なら相手も退くけど、専業男娼だと腕っぷしでは勝てないのがな」

ヤッド「言葉のやり取りは向かないんだよ。腕っぷしで勝負したい」


 娼業につくと、エッチが上手くなり不妊になる。

 しかしコミュ力が上がったり美貌になったりするわけではないので、人気になれば凄いが、喰いっぱぐれも多い仕事ではある。

 同業だけがライバルではない。素人を選ぶ、という客も多いし。


俺「しかしもったいない。【性転換】とってくれ」

エスタ「ぶーぶー」

ヤッド「断じて断る。仮になってもお前は断る」

俺「エスタが嫌がるから【ふたなり】でもいいわ」

エスタ「あとは【バイブ】と【●毛触手】と」

ヤッド「だから」

ジーネ「本人の意思尊重しようよ」


 さてクワンが不安そうにヤッドの服を引っ張った。


クワン「僕ら命救ってもらったんだから、あんまりな態度はやめようよ」

ヤッド「ぐっ、でも俺は戦士になるんだからな。来年はお前が困ったときに、一回だけ助けてやるよ」

俺「今一発回収する方がいいか…?」

ウヒョウ「助けたからと言って謝礼を強要してはだめだろう」

俺「……言われて見ればそうだな。こいつにはどういう態度とってもいい気がしてた」

ジーネ「よかった。少し理性が戻ったみたい」


ヤッド「そちらの兄さんと姐さん方も、困ったことがあったら何でも言ってくれ。できることなら何でもする」

エスタ「むふー」

ジーネ「出会ったら笑顔で手を振って。それだけで幸せ」

エスタ「なんだよそれだけかよ」

ジーネ「だって婚約者いるもの。イケメン見るのは眼福だけど」


ウヒョウ「別に忘れてくれていい。気にするな」

クワン「あ! 待ってその傷は?! ヤッドが刺したんじゃないの?」

ヤッド「そうだが?」

クワン「そうだがじゃないよ! まだ一度も謝ってないでしょ!」

ウヒョウ「いや、まあ大したものでは」


俺「というよりこっちの俺の刺した傷だよな。深いのは」

ウヒョウ「そうだな」

ヤッド「じゃあ謝るのはお前じゃん」


俺「俺がヤッドを刺そうとして、ウヒョウが庇ったからだな」


クワン「やっぱり君が関わってるじゃないか! ちゃんと謝って、感謝もしなさい!」

ヤッド「でもこいつが刺したって」

俺「先に向かってきたのはそっち。迎え撃つのは当然。間に挟まったウヒョウが間違ってた」

ヤッド「ならウヒョウ…さんは悪くないな。すると誰だ?」

クワン「敵味方を間違えた僕らの失態です! 申し訳ありませんでした!」


ウヒョウ「だから忘れていい。怪我が俺だけでよかった」

ヤッド「それよりなんでお前は治してやらないんだよ。俺らのことは癒したのに」

ジーネ「そうね。なんで?」


 二人してこっちを見てる。

 最近ちょっとトラウマになりかけた一件があったんだよ。


俺「お前らと違って死にかけたわけじゃないし、急ぐことは」

ウヒョウ「洗ったから大丈夫だ。これくらいはよくあることだ」

ジーネ「ダメでしょ。ちゃんと治さないと」

エスタ「あ、そうだ!」


 ジーネが心配してる中、エスタが急に大声を上げた。美少年ヤッドを見てる。


エスタ「あたしも撃たれてたんだ。これは洗わないと!」


 言いながら一歩前に出て膝をつく。腕を出す。かすり傷ならある。


ヤッド「えっと、きれいな水?」

クワン「すいません、僕ら水筒も持ってきてなくて」

エスタ「こうした時に使える先輩の知恵を教えてやるぜ。おしっこを使うんだ。おしっこはきれいなんだ」

ヤッド・クワン「「え?」」


 それ以外もちょっと固まった。


ウヒョウ「嘘ではない。嘘ではないが」

ジーネ「目の病気には子供のおしっこで洗えとはいうけど」


 エスタの意図はそれじゃないよね。


俺「きれいじゃない場合もある。ヤッド、お前娼婦の皆さんのお相手していないか?」

ヤッド「え? あー、してない」

クワン「紹介してもらったおばさんの相手はしてます」

俺「そっちか」


 職なし根無し草の割に二人とも栄養状態がいいので、何らかの収入はあると思った。

 それで娼婦の姐さんらのペット扱いにでもされてるのかと思ったのだが、小金持ちの御夫人との間を取り持つ人がいるようだ。


俺「何人も相手にしてるわけじゃないなら、病気貰ってる可能性は少ないか…?」

クワン「一人だけです」

エスタ「なら平気平気。かけてかけて。医療行為だからな。気にするな」


俺「まあいいか。ヤッドが嫌じゃなければかけてやれよ」

ヤッド「お、おう…」


 わりと性病の蔓延している世界なので、不特定多数を相手にしていると、こうした医療行為(風プレイ)には向かないことがある。

 だが相手が一人だけなら、可能性は低いだろう。

 いやまて、その相手が性豪どんの場合もあるか。


俺「そのおばさんって、旦那さん公認とかか?」

クワン「どうでしょう? 僕たちには特に言っていませんけど」

俺「相手するのはヤッドひとり?」

クワン「いえ、僕もです」

俺「じゃあ大丈夫か」


 ほかに男性交際相手がいるなら、いまいちパッとしないクワンは省かれる気がする。

 未成年好きのおばさんの可能性もまだあるけど。


   ◇ ◇ ◇


 この世界の人類は、外見だけならほぼ日本人である。

 たまに黒人・白人・中東人で通用する見た目のもいるが、文化的には一緒なので、人種を分ける考え方はしない。

 (これは獣人が存在し、エルフが残存し、北方にオークの支配する大陸があり、また伝承の中に、あるいは迷宮のアヤカシとして人型の怪物と戦っているからというのもあるだろう。

 地球での人種差など、大した違いではなくなってしまう)。


 さて外見はともかく、内部に関しては前世の人類そのものではない。

 盲腸や親知らずがなくなったり、眼球の視神経を再配置して感度を上げたりしてあるのだが、中でも大きいのは排卵の仕組みである。


 周期的には起きない。単独の異性との継続的な子作り行動の結果、起きる。


 これにより女性は月ごとの体調変化がないので、男性同様探索稼業で暮らすこともできるし、子宮内膜症のような病気はなくなっている。


 また複数の男性と同時交際することで、避妊が可能になる。

『一発で妊娠することは絶対にない』というわけではないので、避妊薬を使う方が確実だが、旦那公認で奥さんがほかの男性と付き合うことがある。

 揉めにくいよう、親族や未成年から探したり、期間を限定したりすることが多い。


 ヤッドとクワンの場合は、一人の婦人の相手を二人でしているので、3人で関係が完結してるのではないかと思う。

 ほかに男がいるなら、ヤッドだけ相手すればいいだろう。


 なお、たまに誤射があって一発妊娠もありえることになっているのは、それでドラマが作れるからである。意図した欠陥だ。

 ほんとクソゲー。


   ◇ ◇ ◇


ジーネ「ほんとに男の子なんだね」


 俺とクワンが話してる間に決心がついたらしく、ヤッドが前を開いて棒を出し、エスタの傷の洗浄を始めていた。


 ヤッドらの身に着けているのは浴衣のような単衣だ。膝上丈で、下には腰巻という一般的な常服。

 締めた帯に物入らしき小さな袋と、日常用のナイフをぶら下げていた。


エスタ「ストップ!」

ヤッド「ん」

エスタ「残りはここに入れて!」


 言いながら竹の水筒の中身をじゃばじゃば捨ててる。

 それで洗えたよな。


ジーネ「おー」


 さすがにウヒョウは引いてるぞ。


 ヤッドはがんばって入れている。

 こぼれたのを手に受けて、エスタが髪に塗っている。


エスタ「よし!」


 エスタが立ち上がった。しぶきが飛ぶわ。


エスタ「あと抱きしめて!」

ヤッド「え!?」

俺「今から?!」

エスタ「今から! だって生きてる限り遅すぎるはないんだよ!」


 いや順番考えろよ。


 ヤッドも勢いに飲まれて抱きしめてるし。


エスタ「いいよ… これであたしとアンタらは貸し借りなしだ」

ヤッド「いや足りないって!」

エスタ「足りないの?」

ヤッド「命一回分だ! 命一回で返す!」

エスタ「なら…」


 エスタはクワンの方も見る。


エスタ「これからこの廃屋で子供らを見送ってくるからさ。出てきたら手足揉んでくれる?」

クワン「それならできます。いつものおばさんで慣れてるんで」


 この場にいないとはいえ客なんだから、おばさん呼ばわりはやめて差し上げろ。


クワン「皆さんもどうですか」

ジーネ「えー。あたいはちょっと」

俺「その前に俺らは街に行くからな。ウヒョウはどうする?」

ウヒョウ「必要ない。もし感謝してくれるなら、その分誰かに親切にしてやってくれ」

ジーネ「なんという優等生」

エスタ「なら二人はあのベンチで待っていてくれ。あんまり掛かるようなら帰っちゃっても文句はないからな」

俺「子供ゾンビだけならすぐとは思うけどな」


 指図に従い少年二人がその場を離れた。



俺「じゃあまずはウヒョウの怪我を治すか」


 俺が彼の方を見ると、


ウヒョウ「そうしてもらえるのは助かるが…」

ジーネ「何か怒ってるの?」そんな顔に見えるか?

エスタ「そういやなんでさっきの二人と一緒に治さなかったんだ?」


 各人三様の反応が返ってきた。


俺「むしろあの二人を治す気がなかったんだよ。五体満足なんだからほっとけばいい」


ジーネ「ヤッド君の顔は気に入ったみたいだけど?」

エスタ「あいつらが悪いわけじゃなかったろ」


俺「腫れが引いたら美少女顔だったというだけで、一度は敵だった以上、彼が死んでも惜しいとは思わなかったな」


ウヒョウ「でも話してみると、誤解だったと分かったじゃないか。殺さずにすんでよかった」

俺「結果論だろ。かかってきた以上躊躇いなく倒すべきだ。君が参加しなかった分、俺たちの手数が減り、君が庇った分、敵を減らすのが遅くなった」

ウヒョウ「悪かったとは思っている。が」


エスタ「考え方の違いってのはあるけどさ、だからその仕事の流儀のすり合わせのためにも今日ここに来たんだろ。知れてよかったじゃないか」

俺「まず敵を無力化しろ。生き残っていたら訊けばいい。躊躇ったら味方が死ぬんだ」

ウヒョウ「それが普通だとは思う。でも俺はあの時庇ったことを、間違っていたとは思わない。同じように行動してくれとは言わないが」


ジーネ「だからウヒョウの怪我を治さなかったのね。でもやめようよ、友達なんだから話し合えばいいと思う」


 別に痛みで教訓与えようとかしたわけじゃないんだけど。


エスタ「人はそれぞれ違う人生歩いてきてるんだ。意見も異なってくるよ。妥協しあおうぜ」

ジーネ「マショルカもいろいろ経験してそうだよね。なんなら話聞くよ。聞くくらいしかできないけど」

俺「いや、単にさんざっぱら俺が言われてきたことを口にしてるだけだ。『さっさと殺せ。さもないと味方を殺す』ってね。

 …すまん。

 ウヒョウ、けがを治させてくれ」


 そのあと治療はあっさりすんだ。

 しくじっても彼の限界までは余裕があるので、心配はない。


   ◇ ◇ ◇



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[気になる点] 賭け治癒の1:1はファンブルで消耗では無いのでしょうか?
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