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 翌朝約束の神殿前で待つ。


 その間に俺はそばの小間物露店で竹皮を数枚購入した。代金は唐揚げで払う。いよいよ物々交換である。


 おっさんは来ない。


テルミナ「もー、おっちゃんの嘘つき!」


 テルミナが地団駄踏んでる。


俺「仕方ないなー。時間が惜しいし、彼は諦めるか」


 俺は【指先通話】でズロイのうなじを読んで観察しながら提案した。

 状態異常『泥酔』とある。


チリリ「テルミナのおうち行ってあの二人がいるか確かめる?」

ウヒョウ「決着は早めの方がいいとは思うが… 何か相手が特技を使ってきたらどうしよう?」

ビルト「殺すに決まってる」

チリリ「あ!」


 彼女がしまった、言うべきではなかった、という顔をする。


ウヒョウ「そうか… そうだな」

テルミナ「ウヒョウさんたちは二人を助けてくれるんじゃないの?」

ウヒョウ「いや… うん、そうしたいとは思っている…」


 子供を救おうと命を懸けた昨日の彼の行動からすれば、驚くところがあったようである。

 衝撃顔の少女に詰め寄られて、ウヒョウがたじたじとなった。


ビルト「敵対するなら殺すしかないぞ。ためらってはこちらの誰かが死ぬ。お嬢さん、そこも考えてくれ」

ウヒョウ「もちろんできれば助けたい。だから取り押さえるのを最優先にするが」

エスタ「なにか技を使ったら、なあ」


ジーネ「衛兵さんならこういうの得意じゃない?」

チリリ「捕物慣れはしてるでしょうけど…」

俺「こっちは正規市民じゃないうえ探索者がそろってるからな。自力でやれと言われるだろう」


 監視にはついてくるだろうけど、かえってやりにくくなるだけだ。


ウヒョウ「まず語りかけてみる。俺が先に立つよ」

俺「情報不足の状態で会うというなら、最悪を想定すべきだ。敵対行動をとられたら技を使う前だろうが全力で行くぞ」

テルミナ「やだよ! だったら連れてかない!」


ウヒョウ「一体どうしたら… 

 ここの神殿で訊いてみるか」


 そしてすぐ入って行った。腰の軽いことだ。


 迷ったら神殿に訊きに行くというのは信心深ければ普通である。

 ただし神殿ごとに教義や戒律が違うので、答えもバラバラだが。



エスタ「悪霊剥ぎ取れるのか知るにはおっちゃんの案内で売った店に行かないとダメなんだろ。ズロイのやろー」

チリリ「今会ったら決断するしかなくなる。ならむしろまだ会わない方がいいよね?

 まず悪霊払いの術者を探すのが優先かしら?」

ジーネ「なにかコネない? ビルト?」

ビルト「僕も子供は助けたい。しかしこれは言うだけなら簡単というたぐいだ。

 戦時に捕虜や人質を取られた時と一緒と考えるべきだ。その場合死んだものとみなすのが原則だ」

テルミナ「やだよー!」


 武家の価値観としては間違いないんだけどな。

 探索者だって仲間が狂乱したら殺すのも一つの対応である。


俺「というわけだからテルミナ、お前さんも情報集まるまで家に戻らない方がいい。あの宿にしばらく泊ってろ。飯は食わせてやるから」


 今帰られて悪霊どもにこっちの情報筒抜けになるのも面倒である。


テルミナ「やだ。きっとあの二人も帰ってると思う。ともかく話してみるよ。それでほんとに憑りつかれてるなら、体を返してって頼む」

ジーネ「うん…」

チリリ「あちらは中々うなずいてくれないと思うけど… でもどうしようか…」


 むぅ。どうもテルミナは、憑依について半信半疑っぽいんだよなあ。


ビルト「それを指摘すれば相手が行動起こすかもしれない。僕らもついていくか」

テルミナ「ダメ!」

俺「まあ、俺たちが付いていっても、悪霊二人は口が達者だ。子供のフリされたら対応に困るのはこっちだよ。下手したらテルミナの兄弟分たちや、周囲の住人も敵に回る」


チリリ「それはそうだけど」

エスタ「テルミナだけ戻すの? 危険はない?」

ジーネ「それだよねー…」

チリリ「テルミナだけじゃなく、私たちみんなが悪霊憑きと思ってることを伝えれば、テルミナに何かする危険は減る?」

俺「まあね」


 テルミナからいろいろ聞き出す間は、殺さないだろうな。


ジーネ「白黒棒は大事なものなの? それを返してあげるから、という形で、なにか妥協できないかな?」


俺「うむ。連中にとって大切であるのは間違いない。もう少し性能がはっきりすれば売り先を探そうかと思っているが。

 しかしあいつらがはっきり悪霊らしい行動をとりだしたら、おかみに差し出して連中捕縛に動いてもらおう」


 ということを、テルミナの目を見ながら言ってみた。

 これが伝われば、目立った行動は控えるかもしれない。買取のため接触してくるかも。


ジーネ「そうじゃなくて、妥協…」

俺「妥協、妥協ね。いやぁ、これ返すから幼児二人返してくれと言っても、憑依先を替えられないかぎり無理じゃない?」


 ジーネに対する返事ではなく、テルミナを介しての向こう側への宣告を考えてしまったので、追及を受ける。


ビルト「僕らとともに行動してたのはまずく取られる可能性があるかもしれない」

俺「俺たちについては、ユベルとジメを探すのを手伝ってもらったといえばいいさ。

 あと絵の巧いのがいて二人の似顔絵をあちこちに渡してたというといい。そうだな、描いたのは俺だと言っておいてくれ」


 そういって俺はズロイのおっさんからもらったモンタージュの一枚を渡す。


 テルミナが害されるとしたら、俺たちの知り合いでかつ二人の顔を見分けられるというのが大きな要因となるだろう。

 しかし似顔絵があれば、こちらのメンバーにはっきり顔を憶えきったものがいると伝わる。殺す理由がなくなる。


チリリ「しばらくは私たちと行動ともにした方がいいと思うんだけど」

テルミナ「ううん。一度帰りたい。みんなにも説明しないと。じゃ、いくね。ご飯美味しかった。ありがとう」



ジーネ「行っちゃった…」


 うーん、土産に唐揚げ渡そうと竹皮を買ったのだが。


 そこにウヒョウが戻ってきた。


ウヒョウ「おやテルミナは?」

ジーネ「帰っちゃった」

ウヒョウ「引き留めないのか」

俺「拘束はできない。敵に回るだけだからな」

ウヒョウ「それもそうだが…

 それで神官に尋ねたのだが『可能な限り捕まえて悪霊払いに連れてこい』ということだった。悪霊払いの技能持ちも探してくれるって」


 無駄に善良な神官もいたものだ。

 初手切り捨てが一番楽なのだが。

 …市場で麻痺薬が売ってたら、また買い求めておくか。


ウヒョウ「ということで確保優先でいきたい」


俺「まあ迷いが消えたならそれでいいさ。

 それで今日はどうする?」


 俺は皆を見回して言った。


ビルト「敵を倒すまではそれに専念すべきだな」

エスタ「一理ある。けど貯えが尽きるぞ」

俺「街中で幼児が特技を使えば、悪霊憑きと認定されるだろうから、それは避けると思うんだよな。

 少なくとも昼間襲撃はないんじゃないか」


チリリ「…なら買い物に行きたいの。服が傷んでしまって」

ジーネ「いいねー」

俺「よかない。お前さんは職業追加マラソンだ。俺もお参りマラソンだ」

エスタ「あれ? あたしもその手伝いか?」

チリリ「そう約束したわよね」

ウヒョウ「どこに行くんだ?」

俺「すぐそばのミニダンジョンに。練習戦闘みたいなものだ」

ウヒョウ「なら俺も、連携を憶えるために行っていいか?」


 む。拒否するのも変な話だな。しかし職業追加について説明するのが…


ジーネ「いいよー。人数多い方が楽ちん」


 先に回答されてしまった。


ビルト「僕はどうするかな?」

俺「チリリ一人のがまずい。万一はある」

ウヒョウ「では4:2に分かれよう」


 それから「何かあったら【指先通話】する」とチリリに伝え、「背中限定ね」と返事をもらい、俺たちは今言った形で二手に分かれた。


   ◇ ◇ ◇



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