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白黒棒については曖昧に誤魔化し、しばらく飲み食い続けていると、たぶん日頃は腹いっぱいまで食ったことのないテルミナが、うとうとしていた。
チリリ「だめじゃない、この子果実酒飲んでるわ」
ウヒョウ「先ほどマショルカが頼んだものじゃないか。置き場所が悪い」
エスタ「しゃーねぇ、あたしが飲んどく」きゅー
俺「あ、すまん。というかなぜ飲む。忘れてただけだぞ」
ジーネ「ウヒョウは飲んでないね」
ウヒョウ「戒律だ」
白湯飲んでるのは戒律か。敵襲警戒してかと思った。
ビルト「それより二人の子供は元に戻るのか?」
俺「そんなのわからん。気にすべきは、彼らの能力が今どの程度かだけだ」
エスタ「それ、どの程度なんだ?」
ビルト「僕らを見て逃げたということは、見た目通りかな?」
俺「我々と戦って負けた後だ。完全に元の力だったとしても逃げそうだが」
特技が使えるかは、憑依のタイプに寄るわけだが。
① 記憶だけで幼児の能力しかないのか。
② 幼児の体に、記憶と特技を継承しているのか。
③ 外見だけは幼児で、身体能力まで書き換わっているのか。
この程度の分類と思う。さてどれか。
ジーネ「ペリヨン君のところから追い出されても、無理強いしたり技を見せたりしなかったんでしょ。恩寵はもっていけなかったのかも。
あとこの豚の塩辛? ちょっと金気くさくて、微妙」
店の親父「ヘンゲしたイノシシの肉だが、硬くなってたのを麹と塩に漬け込んどいたんだ。その分安くしとくから諦めろ」
ジーネ「はーい」
迷宮慣れしたチームがたまたま遭遇した屋外の害獣を倒した時など、血抜き不十分は割とある。
生身の奴は魔石や宝物になってくれないし、返り血はそのまま。戸惑うのだ。
見知らぬ爺さん「だからワシの肉を買えといっとるだろうが。まともな料理を出したいんだろ」
店の親父「プロの捕ったのは高いだろが。素人の獲物でもできるだけ買い取ってやり、手間暇かけて安く売るのがうちのやり方なんだよっ」
ジーネ「おじさん狩人さんなの?」
見知らぬ爺さん「おうよ。今度本物の肉を食わせてやろうか?」
ジーネ「うれしー。約束ね」
店の親父「口が気になるなら、菜の花の和え物食うか?」
ジーネ「欲しー」
俺「俺にもくれ。
…たまには生の野菜も喰いてーな」
ジーネ「毒じゃないの?」
店の親父「生は作る農家もあるが、高いぞ」
俺「だよなー」
茹でたのにすりごま・なんかの果汁・味噌をあえた感じのが出てきた。
ジーネ「おじさんもどうぞ」
自称狩人の爺さん「おう。こりゃうめえな、俺ももらうわ」
うーむ。やっぱり味噌がよくない。
とはいえ迷宮出の味噌なんかこの店で使えるわけもないが。
なお迷宮産の調味料は、殺菌が済んでいるか模造品という設定があるため、前世の麹菌を回収することはできない。
俺らが無駄話に流れてると、チリリが会話を戻した。
チリリ「そういえば、あの二人にはほかに仲間はいるの?」
ズロイ「銭があれば動くものはおるがな」
なにやらテラの葉に描きつつ、酒をグイと煽っておっさんが答えた。
俺「銭だけじゃ無理だろう。コネが切れてる」
ビルト「子供になったからな」
俺「死後憑依について、仲間に伝えてあれば別なんだけどな。
ペリヨンの対応見る限り、それはないように思う」
ズロイ「ペリヨンに会ったのかい」
ウヒョウ「二人を追い返していた。憑りついてるとは思っていない。
ただ、あの幼児たちを預かる話はあったようだった」
俺「たぶんクルベルトワらにまだ死ぬ気はなかったろうし。
子供を預けて養育費を払っておいて、いざという時の準備だけするつもりだったとかじゃないかな」
ウヒョウ「いろいろ手抜かりあるのは、こっちとしては助かるが」
俺「きっと、憑依するための魔道具の用意ができたのが、最近なんだろう」
ビルト「最近装備が悪くなったという、あれか」
ズロイ「今月に入ってからだね。装備が減って、鎧の質が落ちたよ」
代金捻出のため、売っぱらったのだろう。
ウヒョウ「そこで装備を落としていなければ、勝てなかったかもしれんな」
俺「まあ、欲しい魔道具は買えるときに買うしかないからさ…」
チリリ「売ってすぐなら売った側も、ちゃんと機能を覚えていそうね」
ジーネ「子供たちの魂は、残っているのか聞けるね」
皆が沈黙した。店内の喧騒が隙間を埋める。
ズロイ「あの二人、元に戻してやりたいぞ」
チリリ「そのためにも、おじさんの案内は重要よ」
ズロイ「ん? うん?」
俺「あとふたりの似顔絵数枚描いてくれ。懸賞金かけても見つけた方がいい」
ズロイ「そのくらいなら」
正直あまり幼児二人の生存には重きを置いていない。
力量不明である現状、見つけたら殺害優先だ。
意見を異にするメンバーもいそうだが。
それでも相手の居場所を知ることに関しては、全員合意できるだろう。
そのあとはあまり役に立つ話もなく、酒は控えめにしたので腹もいっぱいになると、店にとどまる理由もなくなった。




