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 最後の部屋、コアを取り巻く壁画を見て、ああ、ここかと思う。

 ザクロは鬼子母神の象徴である。


俺「まず最初に」みなを見回して言う。「さっきの話は言いふらさないでくれ」

エスタ「なんで? あ、そうか」

ジーネ「真似してやってみようという人が出るものね」


チリリ「でもそうすると、あのチームが子供殺ししているなら、それを止めるにはどうしたらいいの?」

俺「当局に通報して…」

チリリ「ビルトソークの前でこういってはなんだけど、お役人がそれを知って、子供を使った狩りを始めないと言えるかしら?」


 俺たちはビルトソークを見た。


ビルト「するわけない! とは断言できるところではないな…

 まああくまで罪人の親族を活用する程度と思うが…」

ジーネ「それでも嫌だなあ」

エスタ「冤罪多いだろ」


チリリ「となると、私たちだけで止めることはできるのかしら?」

俺「実力行使は勘弁な。たとえ同格の実力だったとしても、死傷者が出るぞ」


 子供の命が助かるとしても、仲間の命を賭けるほどではないと思う。


 また当初は、同じ迷宮に稼ぎに来ているのだから戦力も同程度、かと思ったが、もしここに来る目的がカリテイモ狩り、なると前提が崩れる。

 実力はもっと上の可能性がある。


エスタ「実力については、ウヒョウに訊けるじゃん」


 なるほど。

 さきほどテルミナから聞き出そうとしたが、中途半端に終わったんだよな。

 ここで同じパーティだった人物から聞く方が確実だろう。


ウヒョウ「あー、そうだな。三人の女が【薙ぎ払い】【豪打+8】【足払い】をそれぞれメインで持っている。

 魔術師は【眠りの雲】3級を一番使いこなすが、それ以外も十数種の魔術を持っているらしい」

俺「十数種!?」


 まあ原則このゲーム、NPCは戦闘時には基本6種の行動しかとれないので、何十種類も特技があっても、すべてをそうそう活用できないが。

 条件付けも限度ある。


 しかしそれでも、数あればそれだけ有力な魔術を引き当てた可能性も増えるので、やはり恐るべきである。


 まさか追加行動表まで得てはいないだろうな?


ウヒョウ「彼の技量は優れていて、【眠りの雲】の効果範囲も広い。初手であれを使って、そのあとは【閃光】や【魔法の矢】を使っているのが多いな。まれに【熱球】とか。

 さらに受動系として【魔術妨害】【打撃反射】」


ジーネ「いいなぁ。あたいの上級版だよ」

俺「ジーネの【眠りの雲】も範囲は広いよ」

ジーネ「 …それあっちが格上なのは否定してないよっ」


俺「まあそうなんだが。

 3級を売りにするということは、2級はないのかな? 

 【魔術妨害】【打撃反射】のどちらか一方が2級の可能性あるか」

チリリ「仮に両方2級でも、後衛なら【魔術妨害】を優先していそうね」


俺「そうだね…

 ん? 【眠りの雲】を初手で使ってあとは使わないというのが引っかかる。

 ひょっとしたら、一戦闘に一回しか使えない制限があるのかもしれない。

 その分発動率の高い呪文を得た可能性がある」


ビルト「ああ、そういうケースがあるな」

ウヒョウ「そうか。【眠りの雲】の前に【閃光】を撃つことがなかったな。あれは『前者が使えないとき後者を使う』と決めてるせいか」


チリリ「なら対応法は?」

エスタ「少人数で最初にぶつかって、【眠りの雲】を使わせる、とか? これもリスクは高いな。嫌な相手だ」


 だからやり合いたくないんだって。


ウヒョウ「そのうえ腰籠には治癒薬を入れている。魔術が出ない時に、負傷者がいたら直ちに使う」


 お大尽戦術じゃのう。


ウヒョウ「でも俺には使ってくれなかったな。樽の中だと当てにくいと言われたが。たまにサブが使う【治癒】の対象にはなった」


ジーネ「薬使いまくりって、そんなに収益あったの?」

ウヒョウ「いや全然。斥候がいないもの。絶対赤字だ。

 道楽でしているのかと、不思議には思った」


ビルト「カリテイモがそれだけ儲かるのだろうな」

チリリ「きっと、子供を使った狩りをごまかす、偽装探索をしてるのね」

ジーネ「毎回子供を連れて行って、そのたび子供が帰ってこないと、凄く目立つものね」


ウヒョウ「リーダーが指輪をはめているんだが、これが宝箱開けを得意にする魔道具なんだそうだ。大物を退治た時に出る宝を、それで開けるだけで十分なんだとか。

 小物相手に使っていると壊れてしまうから、と、俺がいた時に使う様子はなかったが」

エスタ「それもカリテイモ用だろうな」


 まあ、あの指輪が危険じゃないというのが肝心だ。


チリリ「ほかに魔道具は?」

ウヒョウ「詳しくは知らない。リーダーとサブが肌身離さず付けてるものがある様子で、時々腰を確かめてたけど、見せてもらっていない。これは当然だけどね。昨日知り合ったばかりだ。

 先日手に入れたばかりだそうで、『とんでもなく優れたものだぞ』ってサブが自慢げに話していたよ。

 あとは下げてる剣が、当たりを良くする魔剣らしいが、『これを使ってようやく一人前なんですよ』と言っていた。

 事実か謙遜かは知らないが」


ジーネ「リーダーの特技は?」

ウヒョウ「【憤怒の剣】という、怪我をすると使えるようになる技があるんだとか。

 これが発動すると、クレイゴーレムを一撃、とまではいかないけど、大体壊せるほどだった」

エスタ「あたしの一発と同じくらいだな、その威力」


ウヒョウ「なんかさらに制限があるようで、『初級治癒薬で治る程度の怪我では使わないでください』とサブが注意されていたな」

俺「たぶん全快すると使えなくなるのだろう。

 使い手のその時の体力相応のダメージを、敵に与える武術だ。

 タフな戦士ほど、使って効果がある」

ウヒョウ「あのサブはリーダーの安全最優先で動くからな。つい掠り傷でも治そうとするんだろう」


ビルト「リーダー以外は魔道具は持っていないのか?」

ウヒョウ「サブは良い鎧はしているけど、それ以外は…  いや、護符をいくつか付けていた。

女戦士たちは、魔道具持つ前に鎧を良くすべきだな」


俺「あのリーダー、慇懃じゃあるけど、周りを信用しているわけじゃないのかもしれない。していたら、メンバーの装備も良くするはずだ」

エスタ「ハーレムが本当なら、女の鎧をもっとよくするもんだよな。

 あの親父ズロイが嫉妬してただけか、あるいはドケチか。

 サブは実力あるから、どうしたって配慮が必要だけど」


ウヒョウ「ハーレムは本当だよ。彼らと宿を同じにしたら、隣室で始まって、酒場に避難したから。宿客に言わせると、実に絶倫らしい。ただ」

エスタ「なんだよ、ただのドケチじゃん!」

チリリ「ならリーダーとサブの間に隙間があるかしら? ひとりそうした関係から弾かれてるなら」

ジーネ「ずっと不満そうで尖がってたものね」

ウヒョウ「ただ」

俺「サブの付けてた護符の性能は分かるかい?」

ウヒョウ「いや、そこまでは無理だな…」


エスタ「初手で全滅しないようにまず少数で対応する。しかし魔術師は倒す。難しいな」

俺「だから戦う前提はダメなんだ。

 きいてますます思ったけど、強いわ、相手。

 …あ! ウヒョウは俺たちの戦いぶりについて、あっちに話したか?」


ウヒョウ「それなんだが、実は訊かれて話している」

エスタ「なんで?!」

ウヒョウ「なんでと言われても、『今度一緒に働いてみようかと思うのですが、どのような特技をお持ちなのでしょう?』と言われたら、話さないわけにもいかないだろう」


 その時点では敵対していないものなあ。


ジーネ「なんて答えたの?」

ウヒョウ「女魔術師、つまり君なんだが、それが【眠りの雲】や【雷撃】の使い手で、戦いの軸になるって。

 あとのメンバーはその護衛のようなもので、特技も使うのを見なかったし、そんな撃たれ強い様子はないって程度かな」


ビルト「そんなことまで言ってしまったか。

 でもなぜ撃たれ弱いとわかった?」

ウヒョウ「これも、『あまり撃たれ弱いようなら、強めの迷宮は無理ですけど』と言われたら、答えるほか…

 なぜかっていうのは、前の一件の時、俺だけ後半は泉で回復しろと言われたからだな。

 十分に体力あるなら、全快するまで薬を使えとはならない。残しておけば後日使えるのに。

 つまり泉で死ぬ程度のタフさしかないということだ」


 なるほど。それなり頭の廻る人だ。


 にしても、あちらに戦力を知られたのは痛いな。

 拗れたら圧倒できると見做されそうだ。


 俺は片手を上げて提案する。

「この件手を引こう。今の俺たちの実力じゃ無理だ」


 みな一瞬強張った顔をしたが、まずウヒョウがうなずいた。

「そうだな。君らは手を引いてくれ」


俺「いやお前もやめろよ」

ウヒョウ「かなわぬまでも、食い止める努力はしないと。子供の犠牲は出してはいけない」

俺「かなわないし食い止められない。君の犠牲に意味はない」


「そんな言い方…」

 チリリが恨みがまし気な色を浮かべてこちらを見る。


俺「でも事実だ。世間に公表すれば真似する奴らが出るだけだ。俺たちだけで妨害するなら殺されるだけだ。相手の方が実力が高く、財力がある。しかも相手はこっちを警戒して能力を把握してる。お手上げです」

エスタ「うーん…」


 別にここでチリリに嫌われてもいいわ。

 戦友の命は見知らぬ子どものそれと比べ物にならない。

 俺の命はなおさらだ。

 チリリとエスタの成長は止まった。ジーネとビルトはまだスカスカだ。勝算なき喧嘩をしてる場合じゃないんだよ。


「必要なのはコネだよねー。相手を押さえつけられる。何かない?」

 ジーネがビルトソークに目線を向ける。


「そうだなぁ、」とビルトは考え込み「ウヒョウはこの件、命かけても何とかしたいかい?」

ウヒョウ「かけてどうにかできるなら、するぞ…」

ビルト「叔父上に頼んでみるか…」


「君、勘当されてる身じゃないのか?」

 俺は呆れてしまった。


 ビルトソークはしゃあしゃあとして、

「勘当したのは僕の父上だ。叔父上がしたわけじゃないから、土下座すれば話を聞いてもらえるかもしれない」


ジーネ「でもその時カリテイモのことを話したら、真似されちゃうかもしれないんでしょ?」

ビルト「話さない」

チリリ・エスタ・俺「「「話さない?!」」」


ビルト「子供を殺して利を得てるものがいる、までは話す。でもどうやっての部分は『聞かないでくれ』という」

俺「んな無茶な」

ビルト「そのかわり、ウヒョウは死んでもらう。叔父上の家臣団の、人斬り練習の相手になってくれ。擦り切れるまで戦って、そこまでやれば叔父上は心動かされる方だ」


ウヒョウ「… な、なかなか苛烈な未来が待っているな…

 それでも、そうすればその人は動いてくれるんだね?」

ビルト「動くと思う。その時君が死ぬか不具で立てなかったら、僕がクルベルトワ討伐隊を率いるよ。一番槍で死んで見せよう」


 率いる奴が死ぬなよ。


 なんかエスタが感動してる。

「うぉぉ、カッコいいじゃねぇか…」


俺「よかねーよ。なんでビルトソークまで死ぬ気なんだ」

ビルト「人に死ねと言っておいて、生き恥晒すわけにいかないよ」


 チリリが焦った。

「待って待って。みんなが生き残る道を探さないと」

 ジーネもうなずく。

「あたいも、もう少しお手柔らかな、コネの使い方期待したんだけど…」


 しかしウヒョウが首を振る。

「どうせだったら意義のある死に方をしたい。俺一人じゃ確かに何もできない」


 俺はため息を吐いた。

「OK。話は決まったようだな。なら街へと帰ろうか。帰り道でクルベルトワと喧嘩すんなよ」

チリリ「ちょっとマショルカ、あなたも止めて」


俺「ともかく、今日は休もうぜ。一晩考えて、また明日いいアイデアが出るかもしれんし。

 そも殺し合いまですることもないんだよ。連中がここにいられなくすれば。だってここしかカリテイモは出なくて、よそで同じ狩りの仕方は意味ないんだから。それだけで子供は殺されなくなる」

チリリ「そ、そうよね。疲れてるときによい考えは浮かばないわ」


エスタ「よし酒で脳みそ奇麗に溶かすか。隠れてた知恵が見つかる気がする」

ジーネ「お腹いっぱいにするだけで、子供が迷宮に入ることなんてなくなるだろうになー」


 それ俺の唐揚げであるいはできるかもしれないが、めんどくさいからやる気はないぞ。


チリリ「では、そろそろここを出ましょう。ウヒョウは今日、うちのチームに入れる、でみんな構わない?」

エスタ「もうその気でいたぞ。筋の通る奴との付き合いは大切だ」

ジーネ「お金ないもんね。ボッチだし。良いと思うよ」

俺「いんじゃないのか」

ビルト「まず本人の希望は?」


 俺の場合、ウヒョウの【豪打+4の2】がそれほど悪くない、という判断もある。


ウヒョウ「入れてくれるなら助かる。このあとの飯も宿代もないんだ」

 というのが本人の希望。


 まあ案外一晩たてば、今の死ぬ気も冷めてるんじゃないだろうか。



   ◇ ◇ ◇




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― 新着の感想 ―
[一言] 財布すられているしな! リスクあるのに反対意見がないのは性根の良いメンバーならではですね 不遇されてきたから弱者の目線を持っているのもあるかな
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