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「ビルトソーク、ああいう質問をする気だったなら、事前にみんなにも知らせてくれ」

 俺が苦情を言うと

「え? まずかったか? 教えてくれるなら助かるじゃないか」

 とすっとぼけられた。いやむしろ素か。


「チームの狩りの仕方は、命がけで作り上げてきたものであるわ。

 あまり軽く扱うのは失礼よ。喧嘩になっても不思議はない」

 チリリが首を振る。


ビルト「うーん。知り合いの探索者は、質問があればいくらでもどうぞと言っていたんだが」


 そりゃお前の家に雇われて、お前の面倒見てたからだよ。


エスタ「まあ、たまにゃうっかり喋ってくれる奴だっているかもな。しつこくしなけりゃ大丈夫だろ。いひひ」

ジーネ「それに何か知ってそうだったよね。質問されて嫌そうだった」


俺「情報もとは水売りの子だしな。飲んだくれ親父のデマとは違う…

 あの子供が親父のデマ信じてる可能性もあるか」


 いいつつも、連中、特に後ろの三人の浮かべた不快感は相当なもので、それゆえ何かカリテイモに関わった経験があるのではないかと感じてはいた。



「ねぇおじちゃんたち、お水いらない?」

 割り込んできたのは、今噂した子供である。

 素焼きのツボを頭に乗せている。


「おう、いいぞ。ただしおじちゃんというほどの歳ではない」

「おねえちゃん、おにいちゃん」

「よろしい。ちょうど喉乾いたところだ」

 俺は竹筒とギルの実を差し出した。


 さっきビルトソークが飲んで平気だったから、大丈夫だろう。


 ところがこのガキ、ギルの実を見て不満そうなんだ。口を突き出しおった。


「そこはさー、2回目なんだから配慮してよ」

「いいよる。

 ただし水だけじゃダメだ。情報出すなら考えよう」


 座る石の上にテラの葉を置き、ボロリと唐揚げを出す。


「なんの情報?」

 いいつつ目は食べ物をガン見している。手を出さないのは、実は良いところの生まれだったのかもしれない。


「クルベルトワ、ってさっきの旦那のチーム、あそこの持ってる特技について、何か知らない?」

弟妹おとうといもうともいるの」

 ねだりよる。

「器があるなら出してやってもいいぞ」

「え…」


 子供はなんだか困って、それから着ているワンピースをめくり上げようとした。

 あ、女の子や。

 薄汚い痩せぎすだから気付かんかった。


「待って」

 止めたチリリが、テラの葉を折って舟を作って差し出してくれた。

 天然のジーネ、ガサツのエスタ、殿様のビルトにはできない対応である。


 まあビルトソークがすぐ視線をそらしたのは評価する。

 俺なんかガン見したからな。


「ほらよ、こんなもんだろ」ぼろぼろ

「ありがとー。倍くれたら、あの人らに訊かれても、お口チャックするよ」


 なおチャック自体は、発掘品に存在する。


「そりゃあ、次にあったとき、あちらが何の情報も得ていないと確認してからだな」

「お客さん、交渉上手いねー。子供相手に手加減してよ」本人が言うな。

「んで?」


「見たわけじゃないけど、サブの魔術師サビョンデイルが、【眠りの雲】3級を持っているのはよく自慢してるよ。

 あと3人の女戦士が、【薙ぎ払い】【豪打+8】【足払い】をどれかもっているはず。一時それを二つ名にしてたから」


 なんかそんなことするチーム、記憶にもあるわ。


「マショルカは、あいつらと揉め事になると予想してるのか?」

 エスタが忌憚のないご意見を表明してきた。


「いや、あくまで万一さ。

 他のチームで力あるのがいるなら、その情報も買うぞ」


 俺の言葉に続けて

「ウヒョウもいるんだ。あそこと喧嘩したいとは思わないさ」

 とビルトソークがいうが、お前のせいであちらに警戒されるようになったんだぞ。

 こっちは敵視したくないが、敵視されてるなら情報は収集せんとならんのだ。


「それであちらのリーダーさんは?」

 と少女に向かってチリリが尋ねた。

「それは」

 と少女が答えかけた時、


「こらーっ」

 と怒鳴りながら走ってきたのがいた。


 見るとさきほど、美人に石をぶつけられていた酔いどれおじさんである。

 片手には変わらず酒瓶を持っている。


「はぁ、はぁ …」

 息が切れて喋れなくなっている。

「はぁ … そんな子を裸に剥いてなにをする気だ! テルミナ! なんでもいうことを聞けばいい、ってことじゃないぞ!」


 ナニをする気に決まってるだろ、とボケが出るのをグッとこらえて

「何もしてないだろ。まずこっちの構成をみろ。女子が3人だぞ」


「ふぅ、ふぅ、言われてみればその通りだが… はー」


 どうもさっき、少女がワンピースをめくり上げた時から走ってきたらしい。

 遅いな。ナニかしてたら間に合わんぞ。


「おじさん、大丈夫だって。それよりお水飲む?」

 テルミナというらしい少女が、彼を落ち着かせようとする。


「いや、酒がある」ぐびりと飲んで「酒はあるが銭はない。だから水は買えん」


「さっき博打で勝ってなかったっけ?」

 エスタが首を傾げた。


「貰ったのは魔石よ。換金せんとなー。換金すると酒になるし」

 ダメすぎる人生送っとるな。

 よく見ると結構いい男なんだが。垢だらけで髭だらけだけど。


「それより貴殿、さっきクルベルトワ氏のチームを罵っていたが、そこまでの根拠はあるのか?」

 ビルトソークが尋ねる。


「あるぞ!」

 にわかにおっさんシャンとした。

「あいつらが迷宮に連れていった子供、殆ど帰ってこない。

 あんなに消えてるところは他にないぞ」


テルミナ「でもペリヨン兄さんはお金稼いだよ。街で暮らしてるもん」

呑み助「あんなものは例外だ」

俺「例外、といっても、実際うまく行ってるのがいるのではな…」

テルミナ「チームの三人の姐さんも、元は同じスタートでしょ」

呑み助「だから例外だ」

エスタ「どこが?」

呑み助「あれはハーレムなんだ」


 ハーレム?


「後ろに居た女性陣の目力から、そんな感じはしていたわ」とチリリ。

「値踏みしてたものなー。こちとら混じる気はねぇっての」これはエスタ。


「なんか怖い目してるなあ、とは思ったなあ。でも一番気になったのは黒マントだけど」

 いくぶん怯えを含んだジーネの言葉。


呑み助「あのリーダーは底なしの色キチガイでな。お眼鏡に適ったのだけ生かして残して、あとは使い潰してきたんだよ」


「女性陣のほうが嗅ぎ分ける能力があったようだな。

 しかしペリヨン兄さんというのは男性だろう?」

 ビルトソークが首を傾げた。


呑み助「まだ未成年だし、あれもクルベルトワの愛人だ」

ビルト「あ、そうなのか」

呑み助「そして宣伝塔でもある」

俺「というと?」

呑み助「ひとり成功者を出すことで、孤児たちに夢を与えるんだ。むしろペリヨンは、新しい孤児を連れてくる役を引き受けているんだ」


 おれはテルミナのほうを見て尋ねた。

「ペリヨン兄さんというのが、このオッサンの言うようにあっちのリーダーの愛人、ってのは聞いたことあるのか?」


テルミナ「知ってるよ。兄さんも言ってるもの」

エスタ「お、じゃあ事実だし、隠してるわけでもないのか」

テルミナ「でも、お尻の溝に挟んで擦られるだけだから、平気だって」

呑み助「野郎のイチモツは手首くらいあるからな。慣れんと無理だわ」

ジーネ「おじさん掘られたの?」

呑み助「ちげーよ! 連れションで見たんだよ!」


 掘られた恨みとか、捨てられた恨みとかではなかろうな。


「そのペリヨンが納得してるなら、とやかく言うのは野暮だが…」

 ビルトソークがいうと、おじさんが吠えた。

「そっちじゃない! 子供の命で金稼ぎしてるのが気に食わんのだ!」


「でも、子供を使って何するの? そんなに稼げるものなの?」

 額に皺を寄せながら、チリリがつぶやいた。


 そこでおじさんぐいッと長く酒瓶を煽って、大きくため息をついた。

「あの樽があるだろ。あの中に子供を入れて、中で霊薬を使わせるのよ。

 すると魔物が怒りを子供に向ける。

 魔物が樽を叩いているうちに、大人たちが魔物を片付ける、という寸法と思う。

 そうすればメインメンバーは傷つかないからな」


 俺とビルトは顔を見合わせた。

 予想したようなやり方ではある。

 というかむしろ、うちのビルトがやってるやり方より生存率高そう。

 樽改造の個人要塞があるわけだし。


「言わんとすることは理解できるが、でもやりようとしてはそこまで悪くはなさそうなんだけどな。

 俺の知ってる狩りでも、一人がタンクといって憎しみを集める役で、これをガチガチに硬くして、残りが攻撃に回るというのはある。

 現に今も、子供は参加してない様子だけど、樽を持ち歩いてるんだから、あの中の誰かが入るんだろ」


 俺が言うと、それは飲んべえさんも理解しているらしく、トーンダウンした。


「今はな。

 あそこはよく、新人を入れるんだが、そいつが入って呼び寄せ役をするんだ。子供の代わりにな。

 今日も一人いた」


 ウヒョウのことだよな。


「子供の代わりというか、そういう新人がいない時の代わりが子供だろ」と俺。


「彼とはさっき話したが、別段不満そうではなかったぞ」

 とビルトソーク。


「でも彼と違って、子供では身を守り切れないわ」

 と変わらず嫌そうな顔がほどけないチリリ。


「あまりさっさと囮が死んでしまうなら、連れていく意味がないんじゃないかな。

 樽の鎧も、最後の部屋まで生き延びる程度には、頑丈じゃないと…」

 俺は反論する。

 悲しみと怒りの混じった目でチリリに見られて、後半は口ごもる。


「しかしあいつらが子供を連れていくと、まず生きて戻らねぇんだよ!」

 こっちが納得しないせいか、酔いどれおじさんもいらだってきた。


ジーネ「どのくらいの率で戻らないの?」

呑み助「どのくらいって、なあ? 数えてねぇし」


 酔っ払いの判断力だしなあ。根拠が好き嫌いの可能性あるわけで。


エスタ「一人だけ酒の匂いぷんぷんさせて言われてもさあ」

飲んべえ「飲むか?」

エスタ「いただくぅ、」

俺「うぉい!」チリリ「ちょ、」

飲んべえ「ばーか! 誰がやるか!

 知らん男が差し出す酒瓶受け取ってどうする!

 俺がシラフで一服盛るかもしれんのだぞ!

 若い女が考えろ!」


 俺やチリリが引き留める前に、おっさんが真っ当なこと言って叱ってしまった。


エスタ「ぶーっ だったら呑むなよっ」

飲んべえ「俺の金で買う俺の酒だ。どこで飲もうと俺の勝手だ。あっかんべー」


 どうしようこの親父。殴っていいかな。


ジーネ「でもオジサンが好き勝手言っても、怒らないよね、あのリーダー」

呑兵衛「おう、なんでも行きつけの神殿が、年長者の忠告は聞いておきなさいと言ってるようでな。おかげでこっちは言いたい放題よ」

エスタ「どう聞いても、こっちの親父のがクズっぽい…」


チリリ「あのリーダー強いの?」

俺「金は稼いでるよな」

呑兵衛「強い、と思うなあ。多人数相手はともかく、【盾割り】やらやたらな強打をもっとる、だからわし、怒り出す寸前でやめてるもん」


エスタ「上行けよ。

 あ、オッサンに言ったんじゃないぞ。オッサンには『出て行けよ』といいたい」

テルミナ「ここより上だと女戦士三人がついていけないでしょ。だからここで稼いでるっていってたよ」


ビルト「そりゃあ、仲間想いなことだな…」

ジーネ「それだけ聞くと、付き合って悪い人ではなさそうだよね。

 ハーレム入りする気はないって、サブの人らが了解してくれるなら」


「俺がこんだけ、あいつらは悪党だって力説してるのによぅ…」

 汚い中年がしょんぼりしてるが、可愛い点はない。


「未成年を迷宮に連れ込むのは違法だが、それを本人も望み、銭を稼げると言われるとな…

 子供を明確な殺意で連れて行ってるならともかく…」

 ビルトソークも考え考え答えている。


「子連れで迷宮に入る探索者は時々いるっていうから、禁止されても困るんだけどなー」

 とテルミナが言い出した。


「時々、っていうか、カリテイモを倒したっておばちゃんが、自分の子供を連れてった、ってのがあるくらいだがな」

 と呑み助おじさん。


 お、なんか興味のあるほうの話の流れに。

 と思ったら

「そのおばさんはなんでまた、子供を迷宮に?」

 チリリがインターセプト。


呑み助「そりゃ、外においてったら、戻ると誰かに攫われてたとかあるだろ。

 誰か預ける相手がいるならともかく」

ジーネ「そっかー。知り合いが全部同じチームとかあるものね」


呑み助「あいつらが使ってる樽あるだろ。あれも最初使ったの、そのおばさんだ。

 囮に使ったんじゃないだろうがさ。子供入れて守ったんだな」


「そのおばちゃんは、どうやってカリテイモを倒したの?」

 ようやく俺は訊きたいことが言えた。


呑み助「知らん。

 俺のチームじゃないしな。

 それに本当にカリテイモに出会ったのかもわからん。

 生き延びたのはそのおばさんだけだったからよ」


「そのお子さんも?」

 傷ましそうに、チリリが訊く。


呑み助「死んだんだろうな。それとも連れていかれたか。

 カリテイモは子供をさらうという話がある。人間側が全滅する前に、魔物が子供を捕らえて去っただけかもしれん。

 その場合でも、子供は殺されてしまうんだろうが。

 あの怪物の眷属は子供の亡者だそうだからな」


 ん?


呑み助「ずいぶん昔にここにカリテイモを狩りに来た上級者の話だと、別名をキシモといって」

俺「あいつかあっ!」


 突然叫んだので、みんなびっくりしてこちらを見ていた。


俺「あ、ごめん、なんでもない。気にしないで。ちょっと妄想してただけ」


 きわめて雑に誤魔化すと、俺は自分の考えに沈み込んだ。


 これは、子供殺しがにわかに現実味を帯びてきたな。


   ◇ ◇ ◇



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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと捻ってマイナーな方でネーミングしてしまったせいで記憶から抜け落ちてたやつ
[良い点] キシモでピンときたけど、もともと鬼子母神って改心するまでは子供を食らう悪神だったって話か…。それをモデルにしたモンスターってことね。 [気になる点] 出会う冒険者出会う冒険者ろくなやつがい…
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