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 次の一周は初回よりはしょぼかった。

 一部屋目でスケルトン。

 次の間でオーク、3部屋目でクレイゴーレムが一体。

 跳んで8・9の部屋でオークとスケルトン。

 終了。


「うーん、魔石だけだったね」

 チリリが残念そう。


 負傷が残ることもなく利が出たのだから、そう悪いわけではないのだが。


「クレイゴーレムで槍が傷んだな」とエスタ。

「スケルトンも堅い。戻ったら研ぎに出さねば」とビルト。


 必要経費もかかっていそうである。

 しっかりした作りのビルトソークの持ち物より、俺や姐御戦士らの武器のが損耗が激しい。


「クレイゴーレムから得た魔石は、ちょっと色合いが違うようではあるが…」

 と俺。


「なんか違ってる? 高く売れそう?」とジーネ。


「塩の召喚の時、効果が大きくなるようだ」

 『塩魔石』と読める。


 神殿には参詣者に恩寵をもたらすモノ以外に、物資の召喚を行うところがあった。

 塩や砂鉄など、一部の物資が、魔石の奉納と交換にもたらされる。

 砂糖も得られるが、微妙に土臭くイラッとする。

 わざと添加物入れて不味くしてやがる。


ビルト「塩か。生活必需品であるけど、それだけに高くは買ってくれないだろうな」

チリリ「普通の魔石と変わらない?」

ビルト「むしろ神殿に行くと『功徳を積まれては?』と勧進されるよ」


 ただでよこせ、の意である。

 まあ塩をトンデモ暴利で売るようなこと、神殿はしてないので、そうしたことを言うのもそこまでへんでもないが。


「切り替え切り替え。反省点もないし、次行くために一休みしよう」

 エスタが手を打ち、また外に戻って休んだ。



 休憩してると、素焼きのツボを頭に乗せて水売りの子供がやってきたので、ビルトソークが銅粒を渡して購入しようとした。


 だが子供は釣りがないという。


 このへんはビルトも悪い。

 荒野価格とはいえ、竹筒満たすのにギルの実一つがいいところだろう。


 ギルの実は通貨の基本となっている木の実で、クルミに似ている。

 保存がきき、豊凶はあっても生る数が上下するだけで、実のサイズは変わらないので、価値基準になる。


 銅粒は秤量貨幣ではあるけど、大体重さが揃えられていて、10ギルくらいの価値がある。


「なあ、他に飲むものはいないか? 奢るけど」

 ビルトソークはいうけど、ちょっとためらう。


 一服盛られる可能性もあるので、全員が飲むのは反対である。


「なあ坊主」

 俺は呼びかけた。

「坊主?」

「名前知らんし」

「いいけどさ。なに?」

「喰いもんやるから、その分こっちの兄ちゃんに水やってくれ」


 子供は不機嫌そうにいったん黙り込んだ。


「釣りなしで銅粒貰うのがいいけど」


 そりゃそうだけどさ。会ったときのジーネ思い出すわ。


「まあ試しに喰ってみろ」


 まだ持っていたテラの葉に唐揚げを乗せる。

 日が経ってもう書き物に使えないだろうが、こうしたことには使える。

 

「うわっ、素敵な匂い… あつっ」

「それで水一杯な」

「えぇと、もう一個かな」

「お前なー、これ都市で喰うと2ギルだぞ」

「わ、あつ、おいしい…」

 指をぺろりと舐めて、媚びるような視線を寄越す。

「このやろう」


 図々しいが可愛げもある。たぶん8歳くらいで苦労もしてるだろう。

 もうひとつ支払って、無事取引は成立した。


「あたいもお腹空いたー」

「ちょっと早いけど飯にするか」


 風下のジーネとエスタが食欲中枢を刺激されたらしい。


チリリ「パンは半分だけにしない?」

エスタ「そうだな。残りはあとで喰おう」


 ジーネは全部喰う気だぞ。


 例によって漬物パンを開くヒナたちに唐揚げを配っていると、子供がごくりと喉を鳴らして、それでも素知らぬ顔でその場を離れようとした。


「待って」

 チリリが呼び留め、パンを半分に割り、片方を差し出した。


 俺もむちりとパンを割ってチリリに押しやる。

 負担は半分こといったところだ。


 嬉しそうに目を輝かす子供に、

「ただし取引だ。2~3の質問に答えてくれ」


「ひひひょ、まに?」

 さっそく齧りだした子供が、口いっぱい含んだまま聞き返す。


俺「この迷宮で最強の魔物は何か、聞いたことはあるか?」


 もぐもぐ、ごくん、と飲み込んで、子供はちょっと考えた。

「たしかカリテイモ、って名前と思うよ」


俺「どんな怪物で、どんな異能を持つか、知っているかい?」


 以下子供と俺のやり取り。


「女に見えるらしいよ」

「ふむ」

「打撃はそう強くない」

「弱いのか」

「当てるのも下手」

「怖くないじゃん」

「でもこっちの攻撃は全部避けられるとか」

「ほう」

「魔法が通じないとか」

「おや?」

「ともかくタフ」

「結構嫌だな」

「子供のスケルトンを連れ歩くとか」

「眷属まで」

「どうにかして動かなくできれば、何とかなるらしいよ」

「どうにかして?」


 俺はビルトソークと目を合わせた。

 これ誰かが囮になっても、倒すの無理じゃね?


 この迷宮は勝負がつくまで出られない、ってのが痛い。削り殺される。


俺「どのくらいの頻度で出るんだ?」

水売り「殆ど出ないそうだよ。何年も見ていないって」


 出会って生き延びたのが、何年もいない、って方じゃなかろうな。


「ではなんで、それに関して情報があるんだ?」

 不思議そうにエスタが尋ねる。


水売り「ずっと前に、狩ったおばさんがいたんだって」

ジーネ「そのおばさん今では?」

水売り「クルベルトワって人と付き合ってたけど、いつの間にか消えちゃったって。

 男のほうは自分のチームつくって、今日も来てるよ。樽持ち歩いてるひとたち」


 また何人かが顔を見合わす。

 覚えがある。


ビルト「そのチームは、カリテイモを狩るノウハウを継承していないのか?」

水売り「全然そういう話はないみたいよ。だって、カリテイモがそもそも現れていないし。

 ただ羽振りはいいチームよ」

ビルト「一応は聞いてみるか」

エスタ「聞いて答えるとも思えないが」


「それに次ぐ強さのは?」

 喰いかけのパンに唐揚げを押し込んでやると、

「クレイゴーレムかな。あとは吸血オオコウモリ」

「そいつらならもう遭ったな」



俺「じゃあもう一つ質問だ」

水売り「なに?」

俺「ここにいる探索者で、なんか問題行動起こす危険人物はいるか?」


 子供は商売もんの水をすくって飲んで、またちょっと考えた。


「ズロイ、って人かな? 午後になるとお酒飲んで騒いでる」

「騒ぐだけか?」

「さっき言ったクルベルトワって人がリーダーのチームに、よくケンカ売ってる」

「なんて?」

「子供殺してるって」

「殺してるのか?」

「さそって、迷宮潜りにつれていくのは本当。たぶん死んでるのもいる。

 だけど取り分は大人と等分で、成功して街に住んでる子供もいるし、あのチームのうち3人は、リーダーに孤児から引き揚げられた、って言うから、そんな酷いわけじゃないと思う」


 うーん。

 迷宮で子供にできる仕事って、あれだよなあ。

 みるとビルトソークも渋い顔をしている。


ビルト「領主は、未成年が迷宮入りするのを禁じてるのだがな」

水売り「でもしかたないよ。食べるためだもの」

ビルト「孤児だけに許可された仕事がいくつかあるが」

水売り「それにも付けないのもいるんだ」


 行政が孤児の生存に予算を付けてる様子はまるでない。

 法律違反で子供を働かせたとしても、それを悪とは言い難い面がある。


「ありがとう、美味しかった。じゃあまたよろしく」

 そういうので、手を振って、頭に水瓶載せた子供を見送った。



ビルト「やむをえないともいえるのか」

チリリ「みんながお腹を空かせないですむ、そんな奇跡を神様くださらないかしら」


 なんかしんみりした空気の中、差し出されるジーネのパンの残りに、唐揚げを載せている俺。


 ビルトソークがまったく不思議なものを見る目で感心している。

「同類の恩寵を聞いたことがないが、どこで得たのだ?」

 話題を替えたかったのかもしれない。


「ミニダンジョンだな」

 ビルトソークのパンにも載せてやりながら、うっかり口にしてしまう。


「「「「えっ」」」」

 全員が驚いてこっちを見た。

「あ、しまった」


ジーネ「しまった、ってなに?」

チリリ「あ、でも訊かない約束してたっけ?」

エスタ「これは口滑らしたのが悪いだろ、中途半端で気になる。きりきり吐け」


ビルト「ミニダンジョンで特殊な異能を得るなんて聞いてないぞ…」


 ないだろうな。普通得られない。


俺「… 以前こっちの三人には言ったんだけど、俺【使える呪いにかかりやすい】という呪いにかかってるんだよ」


 いつものようにその場の思い付きで雑にごまかす。


俺「たぶんそのせい。それで普通の人なら躓かない切っ掛けで、呪いにかかってしまうんだ。ミニダンジョンだったのもたまたまに過ぎない」


 聞いていてビルトソークが首をひねった。

「なんで呪いの話をしてるんだ?」


ジーネ「あれ? まだ聞いてないっけ? マショルカが唐揚げ出すのは呪いだよ」

ビルト「なんと!? そんな話は聞いたことないぞ」

チリリ「それは、呪いの種類っていっぱいあるから、たぶん専門家じゃないと…」

ビルト「それもそうだね」


ジーネ「でもあらためて聞くと都合のいい呪いだなぁ」


 むむ。おのれジーネ、痛いところを。


俺「始まりの呪いはたまたまじゃないんだ。

 喰いっぱぐれてあちこちのチームを転々としてるときに、安い恩寵石を渡されて、『これの使い勝手を教えろ』と言われたんだよな」


 恩寵石というのは迷宮で見つかる宝物のひとつ。それを消費することで『通常なら神殿で得られる恩寵』を得られるというもので、事前に鑑定してあれば、なにが得られるか分かるので利点がある。

 ただしレベルの低い迷宮で見つかるのは、ほとんどがゴミのような恩寵か、呪いが入っている。


ビルト「人体実験じゃないか。断れなかったのか?」

俺「こっちも切羽詰まっていてね」


エスタ「マショルカは、…あ、これ言わないほうがいいか?」

俺「いや、結構知ってる奴いるわけだし。

 俺、霊格1なんだよ」

ビルト「ほう、 …それは、なんというか…」


俺「後がないんだ、だから試しにやってみた。すると心構えを度忘れするかわりに、戦況に応じた行動をとりやすくなったり、手から唐揚げ出せるといった、変わった呪いにかかるようになったんだな」


ジーネ「そのくれたひと、自分で使えばよかったのにね」

俺「たぶん俺がうまく使いこなせるかどうか見てから、自分で使う気だったんじゃないかな?」

ビルト「そうすると、同じ呪いの付いた石を複数持っていたことになるが?」

俺「そうなんじゃないか?」

チリリ「『呪い外しの石』が、キグヅリ鬼崩しで見つかるようなものじゃないかしら」

俺「そうそう」

エスタ「拾ったのを鑑定したら呪いの品だったんで、無駄遣いするよりはと押し付けたのかもしれないぞ」

俺「かもなあ」


 しばし考えたビルトソークが、真面目な顔で尋ねてきた。


ビルト「有用な石かもしれない。その人物に会ってみたいな」

俺「残念ながら、そのあとの冒険で死んでるよ。パーティ壊滅」

ビルト「え? 知り合いとか残っていないかな?」

俺「どうだろう? 少なくとも俺は、名前も憶えてないよ」


 ビルトソークは天を仰いだ。


ビルト「霊格が極端に低かったり、まったく良い恩寵に恵まれなかったものには、役に立つかもしれないのに、残念だ」

俺「【いざという時ウロが来る呪い】とかのがそうした人には向いてるだろ。そっちなら売られてることあるし」

ビルト「そうだが、あれは戦闘に使えないから、武家には向かない。君のなら使える可能性がある」

俺「やめとけ。そこまで言われたら言うけど、俺の受けたデメリットは寿命半減とか、頻々とミニダンジョンに潜らないと不調になるとかもあるんだ。

 呪いの効果は運しだい、全く分からない以上、簡単に人に勧めていいもんじゃないぞ」


ビルト「… そうだな。君が表にそうしたものを出さないから、安易に『使えそう』と判断したようだ。すまなかった」

俺「いやいや全然、気にしないでくれ」


 嘘ばっか言ってるんだから、気遣われると罪悪感出るんで。


エスタ「でも、呪いでもいいから特技を増やしたい、ってのはあるわな」

チリリ「うん。神様の配った札で勝負するしかないけどね」


 霊格極少派は、そうなるよなあ。


ジーネ「うー、なんかすいません」

エスタ「身近に霊格膨大なのいたわ。使いこなせてねーの。ぷぷ」

ジーネ「なによぅ」

エスタ「泣き言言わなくなったら文句言っていいぜ」

ジーネ「ぐぬぬ」


ビルト「今気づいたが、もしマショルカの呪いが得られるなら、僕も欲しがったかもしれない」

チリリ「え。最初からそれで質問してるのかと思ったわ」

エスタ「お前霊格高いけど無駄に使い切ってるだろ」

ビルト「なんとなく前のまま余裕がある気がしてるんだ」

ジーネ「ビルトって時々ポンコツだよね」


 そんなところでこの流れはお開きとなった。



 俺を噂の発祥として、ミニダンジョンに挑まれても困るのである。

 俺と同様な異能を得るものなど、現れないからだ。


 それで噂を遡ると俺がいた、となれば、領主や神殿から「ちょっと顔かせ」と言われかねない。

 迷惑なことである。


   ◇ ◇ ◇





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