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 俺には前世がある、なんてことを口走っていたのは、割と小さいころからだったらしい。


 妙に現実味のある夢をよく見ていて、それが続き物だった。

 日本という国に住む学生で、友人と自作のゲームで遊んでいた。

 卒業ということをして別の学校に移り、そこでは一人で改良しながら楽しんでいた。


 そこで造っていた設定が、たまに神官が教えてくれる世界の成り立ちや構造とそっくりで、『この世界は僕が作ったような気がする』なんてことを口にしたものだ。

 笑われたし神官から怒られたりもした。

 『夢でお前が世界を作ったからそっくりなんじゃなく、私の教えを元に夢を見るのだからそっくりになるだけだ』なんて説教されたっけ。


 あの神官、親に「悪霊払いならやってやるぞ」とまで言ってきたから、けっこう危機だったと思う。

 親が、主に経済的理由か知れんけど「そこまでじゃない」と断って助かったが。


 そして15の成人を迎え、突然、あくまで夢だった曖昧な記憶が鮮明になった。

 プレイヤーとしての能力も使えるようになった。

 やっぱりここは俺が作ったTRPGの中だ。

 なぜそのとき覚醒したかといえば、きっとPCの最低年齢が15だからだろう。

 未成年時代を設定はするけど、プレイするわけではないからな。


 赤ん坊から扱えるルールにして置けば、もっといろいろ準備できたのに。そう思ったよ。

 そこからプレイするのを想像はできないけど。


   ◇ ◇ ◇


 TRPGのPCって奴は、冒険に出やすいよう、あるいは出ざるを得ないよう、孤児だったり三男坊以下だったりすることが多い。


 俺も御多分に漏れず、農家の四男坊で、成人までは家でこき使われ、分ける土地はないから自力で食い扶持を探しなさい、と追い出された口だ。

 喰えるようになったら実家を援助して、と言われているあたり世知辛い。


 それで同じような境遇の幼馴染らと、村の神殿に最初の職業を貰いに行った。


 最初の職の選び方だが、

 後見人がいれば、その人の職になれる。

 普通は親が後見人だが、俺は親の『農民』を貰っても、土地がないので意味がない。


 迷宮潜りの三職はボッチでも選べる。

 そして俺の選択肢は実質二つで、『戦士』か『斥候』だ。


 『魔術師』は誰かの保護がなくては最初を生き延びられない。

 だからそれは後ろ盾のある人が選ぶ仕事だ。


 貧乏人でも仲間が守ってくれるとかなら、なれないことはない。

 魔術師は育てば役に立つ。

 しかし新人戦士で何人もは守り切れない。

 同郷の先輩が新人募集に来ることもあるが…


 相談して一人体の小さな女の子を魔術師とし、二人を斥候、残りは戦士になろうということになった。


 俺も戦士になった。

 まではよかったのだが、儀式のあと神官から渡された木簡、(『信徒手形』といって、これには神殿発行の身分証明書のような意味があるのだが)、それをみなで見せあったところ、場が凍り付いた。


 俺だけ霊格が1だったのだ。


 いや、この世の中、霊格1の人間もまるでいないというわけじゃない。

 そして霊格の差が即能力の差になる、というわけでもない。

 成人したばかりでは、誰もまだ恩寵を得ていないからだ。


 そう。霊格とは、最大限保持できる恩寵の限界を意味している。

 つまり伸びしろの高さだ。

 最終的には霊格の高いキャラしか強くなれないが、最初のうちは団栗の背比べなのである。


 そうしたこともあって、周りの空気の硬さにもかかわらず、まだ俺はへらへらしていた。

「そんなにかからず霊格5くらいには行くから平気だよ」と


「何言ってんだおまえ?」

 その頃まだいたガキ大将が呆れたものである。

「霊格が上がるわけないだろう」


 そこで思い出したのだが、NPCは霊格が固定だったのだ。

 最初にダイスを振って決まるのである。


「いや、たぶん大丈夫のはず。霊格も成長の対象だから」

「お前まだ小さいころの妄想から抜け出ていなかったのか。神官様の話をまるで聴いていなかったな。これからは子供だからと目こぼししてもらえるわけじゃないんだぞ。口の使い方に気を付けろ」


 それからみんなが心配して、『飯さえ食わせてもらえればよいから』という条件で家に帰れ、の大合唱になった。

 悪気はなかったろうがそれでは困るのだ。

 ダンジョンコアに触れないと成長できないのである。


 戦士にはなれたのだからと、なんとか頼み込んで旅立ち組に参加はさせてもらった。


 成人式に来ていた大人たちも渋い顔してたしな。

 親だって、『農民』の職を選んだうえ「家に残してくれ」というならともかく、戦士で農業不得意が確定してる息子なんかいらんわ。


 同郷の新成人も憐れみとともに、参加は認めてくれた。「邪魔だからこいつ連れてけや」という村の雰囲気もあったのだろう。


 やれやれ、ゲームをしていた時には交渉技能なんて、ドラゴンや権力者相手にしたときくらいしか使わなかったが、リアルプレイでは一番重要かもしれないぞ。

 とはいえ交渉系の【土下座】とか【靴を舐める】とか、戦士系のテーブルではそう取れないんだが。

 【挑発】【恫喝】とかのが楽に取れるが、お偉いさん相手に使うとクリティカル以外はファンブル扱いだし。


 さて、成人とともにプレイヤーとしての行動が(いくらか)できるようになったので、自分のステータスなら見られるようになった。

 まあ平均値だ。


 ほかのキャラや生物のデータが見えるかというと、実はこれが難しい。

 どうも中途半端に制限があるようで、じっと凝視すると、そばに文字が浮いている、様な気がしてくる。

 しかし他人が手に持つキャラシートを隠れて覗き見してる感じで、よくわからないのだ。

 一文字ずつ追う感じだし、動かれるとブレてしまう。


 一番良いのは手相を見るように、体に触れてしばらく動かず見つめることなのだが、そうしたことを許してくれる相手も、そういないのである。


 ただ最初に、互いに神殿からもらった『信徒手形』を見せ合ったときに、他のメンバーの霊格は見ていたので、大体の伸びしろはわかった。


 初期メンバーとしてはありがちな、霊格=2D6+3で作成されているようだった。

 数がばらけていない、という意味では組んだまま冒険はしやすい連中といえる。


 そして迷宮探索の拠点となる街に移った俺たちは、ド素人練習用のミニダンジョンで殺しに慣れたあと、初心者用ダンジョンに狩場をうつして命と銭の等価交換を続けていた。


 いや、俺だけは随分長くミニダンジョンに潜り続け、霊格成長とほぼ『HP+1』だけのしょぼい恩寵を貰って貧乏暮らしをし続けていたが。


 ゲーム内ではミニダンジョン潜りなんて何度か挑戦してもすぐ終わる。

 省略することも多い。


 それが現実になってみると、雑魚モンスター相手でも生死の際だし、コアに触って街に戻って神殿で恩寵を願う、で一日終わる。それどころか怪我して動けなくなったり、財布が尽きる前に、最下級の荷運び人足で食費・宿賃稼ぐ必要もある、と何ともハードモードだった。



 それでもどうにか武器などもそろえ、そろそろ平気だろうとなったところで、幼馴染チームに加入許可を求めた。

 いくらか人数は減っていたが、恩寵も得て力量を上げていたあいつらは、快くそれを認めてくれた。


 可能な限り後列に居ようとする俺を、分け前の寄生虫のように思うやつだっていたが、その頃から探索の成功率が上がり、「人に親切にするものは、天に親切にされる」と神官の言葉を借りて弁護してくれるものもいたものだ。


 ともあれ、俺も初心者用とはいえ通常の恩寵がもらえるコアに触れ続けることで成長できた。多少の悪口は気にならなかった。


 ただ俺が成長していることは大っぴらに言えることではなかったが。


 俺たちは若手のホープと呼ばれるようになり、実力以上の迷宮に挑んで成功し、優れた恩寵を手にして、財を蓄え調子に乗った。俺も調子に乗っていた。


 あいつらが俺に黙って難関ダンジョンに挑み、全滅するその日まで。


   ◇ ◇ ◇



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