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 残した女性たちにも伝えたコースをたどり、すぐ外に出る。


俺「では次はあの辺から入るか」

チリリ「あら、まだ探索するの?」

俺「え? だって昼飯食べたばかりだろ?」

ジーネ「そういえばそうだった! まだお昼なんだね」

チリリ「さっきの戦闘のせいで、一日分戦った後の気分になってたわ。そうね、まだ半日だった」

俺「少しは(連中の懐探ったせいで)稼いだから帰ってもいいが」

ビルト「すでにコアにも触れているからなあ」

エスタ「もうちょい廻ろうよ、今日調子いいし」


 結局チリリ・リーダーが決断し、もうしばらく巡り歩いた。


 チリリとビルトはさっきの戦闘で血を吹いていたな、そういえば。

 ひょっとしたらリーダーには無理させているかもなあ、と思う。


 それでもまた2時間くらい、魔石60点分ほどと、現世の駄菓子ふたつをゲットして、無事迷宮を後にしたのである。


   ◇ ◇ ◇


「噂の豚づらデッカイノに会わなくてよかったよね」


 丘陵の尾根伝いに道を歩みながら、エスタが誰にともなくいった。

 明るいのは今日の成果のおかげだろう。


 天頂の太陽が赤みを帯び、徐々に夕焼けの風景へと周りは変わりつつある。


ビルト「出会ってもこの5人なら倒せるであろう。上の迷宮では雑魚で出る相手だ。そこまでの敵ではないぞ」

チリリ「遭わずに安全に稼げるほうがいいわよ。力は強いんでしょ。ここのみんなは撃たれ強いわけではないもの」

ビルト「良い鎧でそれは補えるのだがな」

俺「鎧で補えてるのはお前だけだって、ビルト」

ジーネ「あたい達は貧乏人だものねぇ」

俺「さっきのウヒョウくらいは打たれ強いならともかく」


 このチームだと無理だな。エスタやチリリの霊格が少なすぎる。

 つまりあそこまで成長することがない。


 先を行くエスタがふと振り返った。


 そしていう。

「なんであいつ人狩りなんてしてたのさ」


 俺は気になって左右を見た。

 立木の間から見える、うねる海のような丘陵地。

 夕日に赤く染まり、放牧も終わってヒトケはない。


「人殺しには慣れておけ、という上の意向があるからな」

 遠くを見て、しばらく黙ったあと、聞こえるほど息を吸い込んでからビルトが答えた。


「では彼の殺人は違法ではなかったということになるの?」

 一瞬あぜんとしたあと、チリリが嫌そうに問うた。


 悪くするとこちらが全面的に悪くなるのである。

 皆が緊張をもってビルトソークの返答をまった。


「そうではない。我々武門が練習台に使っているのは、主に犯罪者だ」

 首を振りつつ、今度はすぐにビルトソークの答えがあった。


エスタ「犯罪者? 街中で首枷付けて放り出されてる?」


ビルト「あれは軽犯罪だな。ただのさらし者だ。

 武門が練習台とするのは、重罪のものだ」


ジーネ「殺されちゃうの?」

ビルト「実戦練習の相手にするだけだ。それで死んでも構わんしな。法の保護が停止しているから」


俺「返り討ちにされることはないのか?」

ビルト「そこまで弱いのは武家にはいらぬ。それに心構えを損なう道具もある」

俺「なるほど」


チリリ「特技なしじゃ、弱くて練習にならないんじゃないの?」

ビルト「人を殺しておくことが重要なんだ。

 人を殺したものは強い。次は躊躇わなくなるからだ。

 我々武門の戦う相手はよその都市であり、野盗・強盗だ。

 それと向き合ったとき、容赦なく殺せないと自分が死ぬ。

 その訓練には、人に似た魔物より、人がよりよい、という考えだ」



 ここの住人、『戦闘の心構え』をしておくだけでは戦闘時に行動できるわけでなく、さらに『戦闘状態に入る』という決心がいるらしい。


 子供時代の『戦闘の心構え』は『逃げる』と『隠れる』がせいぜいで、これは比較的簡単に『戦闘状態に入れる』。


 しかし抵抗する相手と向き合い、殺しあうために『戦闘状態に入る』のは、やはり容易ではないようだ。


 俺の同郷たちはミニダンジョンで弱虫オークを殴ることでそれを体得していた。

 順応に早い遅いはそれぞれだったが、何しろ俺が圧倒的に遅かった。

 ルールの補助がないから、ひたすら死ぬのが怖い。怪我がいやだ。 

 あの時はとんでもない愚図と呆れられた。


 まあいい。


 そして、人間相手に殺しあうとなると、さらにもう一段上の覚悟が必要という事なのだろう。



ジーネ「なるほどー。それであの人は、人間相手が楽しくなっちゃったってことかー」

ビルト「一部にいるのだ。一般職やハンデの付いた相手との実戦など、弱い者いじめでしかないというのが。

 ではなく戦闘職を相手に殺しあわないと、役に立たないと。

 バスティオスもそういう意見だった」

エスタ「ならそういう意見のやつ同士で殺しあえばいいのに」

ビルト「それだと武門の人数が減るばかりで、合理的ではない」


 言わんとすることはわかるが、練習台として殺される下級探索者としては迷惑なことである。


 そんな風に会話しながら、宵闇迫る道を城塞都市へと還っていった。


   ◇ ◇ ◇


エスタ「くわぁー、何にもなかった」

俺「仕方ないって。腕前や枠は簡単には増えんという」


ビルト「ほんとうに空きができていたぞ! 恩寵を頂けた。追加ダメージ1とかで微妙らしいが…」

俺「固定値が増えるのはありがたいものだぞ。むしろかなり良い」


 チリリは最後の空きを埋めるかどうか悩んだようだ。

 結局祈らなかった。


ジーネ「『農民』頂いた…」

ビルト「我が同士よ」

俺「なんならこのあとミニダンジョンいくか? 職業貰いに」


 神殿で恩寵や追加職を求め、それぞれ悲喜こもごもである。

 エスタが文句言ってるのは、たま~にでるという技能値や霊格上昇が来なかったという事なのだが、ああいうのは、そうはでない。


 俺の霊格伸ばしがキノコ狩りとすれば、あっちの難度は金塊探しだ。


俺「では俺もいってくるか」

チリリ「いってらっしゃい」


 最近戦士としての打撃力のなさ、というのも気になってはいるのだが、今日の迷宮でよりほしいな、と思ったのは地図作成能力である。


 魔術師には【マップ】という、自分の歩いた道を鳥瞰図として観られる魔術があるのだが、斥候として得た【見習い魔術】にも、それの劣化板があり、その名も【ベクトル検知】という。

 指定した基点が、自分から見てどちらにどれだけ離れているかがわかるというもので、それで出口がわかるわけではないが、あれば助かるに違いない。

 これが欲しい。


 そう思って祈った。


 もちろん外れた。


   ◇ ◇ ◇


ジーネ「なにー? なにが頂けたの?」


 祭壇から戻ると、さっそくジーネが懐いてきた。

 他のみなも興味津々である。


「【指先通話3】だった。パーティメンバーに触感で連絡とれるやつ」

 と俺が言うと


ジーネ「あれ? ダメなやつだよね」

エスタ「やったじゃん。当たりのほうでも当たりのほうだ」

チリリ「あー、パーティ抜けてもらうほどでも…  ん?」


 と各員各様の反応が返ってきた。


俺「どゆこと?」

ビルト「どうした?」


エスタ「後で説明するよ。

 それよりビルトは宿どうする?」

ビルト「僕は前の宿を追い出されたけど、荷物を預かってもらっているんだ。

 従者も戻っているかもしれないから、いったんそちらに行くつもりだ」


 ちょっと考え込んでいたチリリは、頭を振って何事か切り替え、ビルトソークに目を向けた。


チリリ「今後は? 私たちとともに行く?」

ビルト「ぜひともそう願いたい。君らのうちの一人が僕の運命の人なんだ。未来を呼び寄せてくれる神の選びし人だ」


ジーネ「そういう言い方はドキリとするからやめようよ。でもよろしくね、ビルトソーク」

ビルト「こちらこそ」


「そういえば」とチリリが顎に手を当てこちらを向いて「ほんとうにあの占い当たってたのね。先ほどビルトソークが『空きができていた』って言ってたもの。

嘘つき扱いして申し訳なかったわ」


俺「いや、そんなことは」

 嘘ついてたのはホントだしな。


エスタ「え? 空きができたとかマジなのか? 事実なら凄いこと、なんだよな?」

ビルト「凄いことだよ。冒涜的手法で恩寵を捨て去るというならともかく、天がその恩恵を、重なったときに外してくれるなんてことは」


 チリリが「ひょっとしてコイツ『冒涜的手法』を知らせず使ったんじゃ」という目で見てきたので鉄のように冷静さを保つ。


ジーネ「あれ? そういうのに使えるアイテムを前の探索で拾ってなかったっけ」

俺「それを売ったお金で暴飲暴食してたんじゃないか。俺エスタをお米様ダッコで持ち帰ったぞ」

ジーネ「あー、あんときのかぁ」

 あんときというか昨日だぞ。

エスタ「思い出すといろいろ腹が立つ」


ビルト「手段自体は知っているが、資金がないとムリなことも知っているよ。僕に使う意味もないんだ。この奇跡は天意でしかありえない」


 すまんな。


俺「今後も三人娘を偽らず、守れば、また余計なものは削られるだろう。そんな気がする」

ビルト「さすが神殿だな。お声が聞こえたか。ありがたいありがたい」


 そういえばここ神殿だったわ。罰当たらんだろうな。


俺「では帰るか」

ビルト「うむ。次に会う時と場所を決めておかないか」


 みながチリリを見ると、しばし考え込んでいた。

「明後日の朝、夜明けにこの神殿前にしましょう。今日は色々疲れたから、明日は休日にしたいわ」


 ではそれで、ということでビルトソークと俺たちは別れた。


   ◇ ◇ ◇


ジーネ「あれ? マショルカって霊格1じゃないっけ? なんで新しく恩寵貰ってるの?」


 4人で歩きだしてしばらくしたところで、ふと気づいたらしくジーネに尋ねられた。


 ほんとだな。なんでだ?


エスタ「そういや。

 じゃあ霊格って結構伸びるのか? あたしもすぐ伸びそう?」

チリリ「! 待って。そういうのは個人的なことで、むやみと質問するのは失礼よ」


 なんだか焦ってチリリが抑えようとする。


俺「いや別に構わないよ。

 前いったろ。霊が憑いてるって。それの霊格に空きがあって、そこに新しいのをもらってるだけだよ」

ジーネ「え!? そんなことできるの? コア触ってきたのマショルカだよね」

俺「憑りついてるんだから一緒に触るよ」

ジーネ「そっかー」


エスタ「そっかー、じゃねぇよ、そんな都合のいいことあるのかよ。じゃ悪霊にわざと憑りつかれればいいのか。嫌だなやっぱり」


ジーネ「つまり勝手に悪霊が恩寵願ってくれて、それをマショルカが勝手に借用してる感じ?」

俺「まあだいたいは。誰だって、コアを見れば触るし、神殿に行けばお祈りするだろ。そういう生前行動を繰り返してるのかもな」


チリリ「… …悪霊に憑りつかれて、普通の村人が戦士や魔術師の技を使ったり、生前のようにふるまう話はあるものね。 …矛盾はないのか」

俺「ないですよ矛盾。何を言ってるんですかね」


ジーネ「でもマショルカは、操られてるっぽくないよね」

俺「向こうに意識が感じられないからなあ。乗っ取られてるのかもしれないが、乗り手が寝てたら馬は好きな方に歩くぜ」

ジーネ「あ、なる」


エスタ「あなるじゃねぇよ。いっぺん死ぬまで生きてんのに、まだ空き枠あるって、その悪霊どのくらい霊格あるんだよ」

俺「でも例えば今ジーネが死ぬと、空きだらけだぞ」

ジーネ「ほんとだ!」

チリリ「たとえが不穏すぎる」


エスタ「くそぅ、役にしかたってないじゃないか。寄こせ!」

俺「だからそこが欠点だろ。いつか突然憑りつき先変えて引っ越したら、俺最弱戦士になるだけだぞ」

エスタ「こすりつけたらこっちに移ってくれないかな」


 エスタが腕にしがみついて腰振ってきた。犬か。


俺「だーっ。中年の薄汚れた陰気なおっさん亡霊だぞ。寝てる間に何されるかわからんぞ」

エスタ「メリットしかない!」


 そういえばそういう人だった。


ジーネ「みんな見てるよ」


 路上である。


チリリ「それにそうなるとエスタが【指先通話】使うことになるけど?」

エスタ「そういやそうか」


 離れた。なんなんだ?



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が何を獲得したか聞かれていますけれど、霊格1ってことになってましたよね。
[一言] ハーメルンから来ました。 TRPGベースの異世界というのが新鮮で面白いです。 続きを楽しみにしてます!
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