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ジーネ「へー。あのあと仲良くならなかったんだ」
エスタ「信じられん。体中丁寧に拭いて次行かないんだよ! 女に恥かかせるのが趣味なんか! 酒飲んでなかったら怒りで寝られんかったぞ! 寝たけど!」
チリリ「まんざらでもないようだから喰われたなあ、と思ったんだけどな。耐えるとは。思った以上に我慢強いね」
俺「なんでかしらんが翌朝起きたら吊し上げに遭ってる件について」
「次のチャンスはもうないからな! こん畜生!」
とりわけてエスタの怒りが凄まじいのである。
「おかしい。ここのルールを守ったはずなのに」
俺は首を傾げた。
「それはそうなんだけどね。でも『私のために規則を破れない男は大したことない』、と思うのも女なの」
笑いを含んでチリリが言う。
「それに杓子定規にルールを守るのは、動きを読まれることにもつながるわ。この仕事だと最善というわけじゃない、そんな風に思うの」
なるほどと思う部分もあるが、それをルールを伝えてきたチリリに言われるのはなあ。
「やはり乳か。乳のデカさかーッ」
「いや別にそうでは。おちつけエスタ」
大体、やや小ぶりかもしれないが、エスタは標準サイズのおっぱいの持ち主なのである。
眼下では半裸の三人娘が乳にサラシを巻いたり、まだ巻かなかったりで比較ができる。
貧乳とは言えない。ジーネに失礼だ。
全体のスタイルは痩せ型のジーネやロリ体型のチリリより女らしいし。
「あまり騒ぐと追い出されるからやめましょう」
とチリリ。
「ちくしょーう」
と沈静化するエスタ。
本心からキレまくってたというより、半分演技だった気がしてくる。
ジーネ「恥ずかしさを大声で消化したかったんだよね」
エスタ「しゃあああああぁおらぁっ」
チリリ「残り火に油を注がないでジーネ」
「して今日はどうします?」
この時点ではまだベッドの上段で半裸だった俺は、引っかけといた上衣をとってニオイを嗅ぎながら尋ねた。
洗濯したいが、今の暮らしでは持てる量に限度があり、替えの服がなく、なかなか実行できない。
布地が手製で高いので、貧民は一張羅のみというのは珍しくないのだが。
ジーネ「君も洗濯同盟入りなよ」
俺「洗濯同盟?」
チリリ「共通の服が一着あって、それを交替で着ながら汚れ物を洗っているの」
「こいつだ」
とエスタが払ってみせたのは浴衣様式のもので、付属の帯が垂れている。確かにこれなら誰の体にも合わせやすい。
「でも君の服はそんなに汚れていないよ。ほとんど臭わない」
下から服の端を手に取って嗅ぎつつ、チリリがそんなことを言う。
エスタ「つかこいつ、体臭感じないんだよ。握って弄ったのに、手のひら嗅いでも微かに香るだけ。オーラがないって話したけど、ニオイもない」
ジーネ「いいなあ。あたいやエスタは臭う方だよね」
エスタ「え? は?」
チリリ「いま一番汚れてるのエスタのでしょ。今日はそれを洗いましょう。
宿に頼めばやってくれるの。向こうも屋内にたくさん干されると困るから安くしてくれるわ」
ジーネ「もしかしてニオイが強くて避けられたんじゃ」
エスタ「しゃぎゃああああぁ」
チリリ「だから火に油」
この世界では洗濯屋の職もあって、やはり世襲化している。
そうした人らにお金を払ってしてもらう方が綺麗にはなる。
彼ら用の『特技』として、乾燥とか虫殺しとか服の軽微な損傷回復とかあった気がする。
また質屋や洗濯屋など、客から物を預かる商売は【顧客管理】をとりやすい。
大概は任せて安全である。
「洗濯同盟には入らしてもらいますが、それより…
あ、ジーネは戦士になるつもりになった?」
結局そのままワンピースを着こんで、下の魔法少女に尋ねた。
「なってみようか。たしかに霊格に余裕あるんだから」
ジーネが顎に指を触れながら、考えてうなずく。
エスタ「クソ羨ましい。こっちは使い切ったってのに」
チリリ「天命は仕方ないでしょ。それより戦士職が得られるのを祈りましょう」
チリリが天命と言ってるのは、霊格の大きさは生まれつき・天の意志によるという事だろう。
俺「なら今日は初級ダンジョンのどれかだね。
追加職業の恩寵を得るのに、コアの程度は原則関係ないからミニでもいいけど、それだと収入面がきつい」
エスタ「じゃあ飯食ってから組合で魔石預けて、それから迷宮だな」
チリリ「部屋でる前にパーティを結成しましょう」
「迷宮に行く前に造っておくのか」
不思議に思い、上段から見下ろしつつ訊くと
「その前に何かあるかもしれないし、その時あたいの魔術の的になったら嫌だもの」
とジーネが答えた。
なるほど。
「というか、昨日のパーティ解散したわけじゃないぜ」
とエスタ。
「寝てる間とか別行動で解けてしまうことがあるから、朝に再結成するのよ」
とチリリ。
そういえばゲームでもそんな運用だった。
冒険中はずっと結成したままだ。
風呂や就寝中でも外す理由がない。少ない。
この世界に生まれてからは、基本ソロで臨時にパーティ参加していたから、迷宮前で加盟してばかりで忘れていた。
そしてゲームならセッション終了で解散するわけだが、ここの住人にとってはその切れ目が自覚できるわけではなく、「いつの間にか解けている」となるのだろう。
俺の場合も、
…いや、臨時参加は離脱後リーダーから除名されてたのかもしれないが…
宿を出るとき「それが四人目かい?」と宿の主人から嫌味っぽく問われたが、チリリが「そうよ」と堂々答えるとそれ以上はなかった。
ずっと四人目の分も払っていたからだろう。
三人でも四人分払うのは、さもないと見知らぬ他人と相部屋となるからである。
宿と契約した洗濯屋にエスタの上衣を預ける。
腰巻だけは自分らで濯いで部屋干ししてある。これは皆予備を持っている。
ホントは前夜のうちにしておくのだが、体を拭いたあとの水を使うところ、俺がいたので遠慮したらしい。
そうして宿での始末を終えると、朝の屋台で買い食いしながら組合へと向かった。
◇ ◇ ◇