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まあそんなことはどうでもいい。
神殿である。
城塞都市帰還後さっそく寄ったのだ。
そして得たものだが、
ジーネは【ホコリ巻き4】。
戦場のパーティ以外のキャラを行動済みにする、こともある魔術。
空飛ぶ魔物に追加効果あり。
チリリは打たれ強くなったらしい。HPの増加という事だろう。
エスタは【豪打+4の4】。まあ悪くないと思う。
なにを得たのかは、俺のように文字で読めるわけじゃなく、感覚と使ってみてらしい。
もし正確な機能が知りたいなら、
神官が【人物鑑定】を持っていれば、個性の名称だけわかる。
より専門化していれば、あるジャンルの個性に限っては少し説明が読める。読めるというかわかる。
そうしたサービスを受けるには喜捨が必要だが。
ジーネとエスタは、いくらか魔石をはずんで説明を聞いてきたようだ。
そして俺だが、HP+3を得た。
HP+1を二つ棄てて、これで霊格の枠の空きが3つとなる。
これで次回から魔術師でも欲しくなるところだが…
それを得ても3枠使い切ってしまうから、呪文を入れる余地がなあ…
見習い消す手もあるが…
買取所で呪い外しの石を結構な値段で引き取ってもらうなどし、といっても俺の取り分はインスタントコーヒーなので関係ないのだが、ともかくその後ジーネの働く店に繰り込む。
「親父さーん、今日は客としてなんだけど、いい?」
「いいぞもちろん」
「サンマのなんとかってどう喰うんだ?」
席に付くとエスタが訊くので
「あっためたいな。このまま湯煎したいんだが」
「傷まないのか」
「平気平気」
「親父さーん、お湯貸して」
「変わらずフリーダムだな。まず注文しろ」
「じゃあ白飯大盛りとアヒルの旨煮と肉野菜炒めと軟骨揚げと春巻きとビールを人数分」
「あいよー」
あいよじゃねぇぞ、誰が喰うんだそんなに。
チリリ「ジーネ、余ったら食べてね」
ジーネ「うん。まかせて」
そういえばこのお嬢さん昼飯もよく食べてたな。むしろ痩せ型なのだが。
「俺は今日現金収入ないから、あんまり注文されてもきついんだけど」
エスタ「そのコーヒーとかいうの、少し出してくれれば奢ってもいいよ」
「だから空気に触れるとだな」
「飯にかけて喰ってみたい」
「ホンマやめろ。この世で一番がっかりする喰い方やめて」
「えー? ほんとかな」
「ホントだって」
一回試させてやろうか。
などとは少しも思わない。
このコーヒーが次いつ手に入るのか分からないのだ。
夕方なので他の客もいるのだが、その間を巡って注文とったり酒を運んだりしていたジーネが、こっちにも錫のジョッキを4つもってきた。
「では乾杯しましょう」「「「かんぱーい」」」
チリリの音頭でジョッキを傾ける。
チリリと俺は一口飲んで置き、ジーネは立ったまま半分ほど空け、エスタは飲み干してジョッキを差し出した。
出されたジョッキを無視して、木のボールを俺の前に置くジーネ。
「唐揚げ出して」
「お?」
「金がないなら稼げばいいのよ」
「おう?」
何かしらんがボロボロとボールを一杯にする。
それをツマミながら親父さんのもとに届けるジーネ。
「ねえおさけー、お代わりー」
文句を言うエスタ。
ムシャムシャ喰ってるジーネ「親父さん、これどのくらいで売る?」
「どれ」とひとかじり「お。2ギルだ。最初は割って突き出しだな」
「お金半分こね。
はいみんな、新製品の味見だよ。欲しかったら2ギルで買ってね」
なんか知らんうちに売り始めてるんだが。
旨い旨いつって食ってるし。
けっこう人気だわ。
ジーネ「湯煎できたんじゃないかな。ごはん大盛りでもってきたよ」
エスタ「さけー、おさけ頂戴」
チリリ「アンタはゆっくり飲みなさい。担いで帰るの大変なのよ」
俺「あっちあち。箸貸して。それで開ける」
ジーネが新しく酒を持ってくる間に、サンマの缶をパカリと開ける。
チリリ「へー。いい匂い」
ジーネ「漬けこんである液も美味しいね! ちょっとしょっぱいけど」
俺「フタの縁は鋭いから触らないように。この塩気も飯に載せると丁度合うから」
エスタはクピーと酒を飲みほしてる。漏斗かな。
各人が一片ずつ摘み取る。
ジーネ「美味しー! ホントごはんとよく合う!」
チリリ「いい味ね。これなら好事家に高く売れそう」
俺「懐かしい…」
エスタ「酒とも合うね」
エスタは間に合わなくなったのか、俺のジョッキを飲み干している。
まあそんなに俺酒好きではないから構わないがね。
俺「チリリはそんな酒飲まないんだな」
チリリ「家では飲むよ。そとではね、嵌め外す人がいるから」
そのたぶん一人であろうジーネは、白飯に缶の汁を全部かけてる。
俺「そこの縁も鋭いから舐めてはダメ」
ジーネ「【完全治癒】あるから」
俺「無駄遣いやめろ」
俺が補助しないとまず使えない、半々の確率で消耗するやつだぞそれ。
親父「できたぞー」
ジーネ「はーい」
チリリ「私もとってくる」
卓上に料理が並びだし、俺は自然に置かれた木の器にまた唐揚げを満たしてる。
客「なんかあの娘さんたちのところでコレできてねぇか」
親父「そんなわけないだろ」
「それにしてもさ」
俺は本格的に座って飯を食いだしたジーネに言う。
「ん?」
「ジーネはいっそ追加職業で戦士とったらどうだ」
「狙って取れないでしょ。農民か牧民になるでしょ」
「同じくらいの確率だぞ。戦士とそれらは」
「うーん」
「余裕あるんだから、とって魔術戦士になるのも悪くないと思うけどなあ」
余計な職業で枠を圧迫するのを嫌がるのは自然ではある。
だが、なんなら後で除去してやってもいいし。まあなんとか誤魔化せるだろう。
エスタ「打たれ強く避けやすくなるだけでも安心感あるね」
チリリ「もちろん決めるのはジーネだけど、2職くらいは追加しても、ジーネだと余裕あるわね」
ジーネ「考えさせてー」
彼女は残った半量のビールをググーと飲み込んだ。
エスタ「次ワイン」
俺「エスタ、それ俺のジョッキ」
エスタ「あれ?」
ジーネ「マショルカはビール?」
俺「いんや、薬茶」
親父「薬茶は自分で煎じてくれ。
今日は手伝いの子がいなくて、手が回んねぇんだよ」
ジーネ「ごめーん」
俺「ああ、いいわ。ジーネは飯食ってろ。俺がやる」
厨房の一角で薬茶を計っていると、客の何人かからも要望が出たので量を増やす。
常連が多いので、飲み物は自分で注ぎ、食器の上げ下ろしくらいは客がやってる状態になってる。
俺のだした唐揚げも、木の器から勝手に取られて銭を置いてってる状況だ。
近場の神殿が盗みや嘘を禁じている影響かな。
俺「ほいエスタ、ワイン」「きたきた」
春巻きをモシャるジーネ「あたいんはー?」
俺「お前のも空だったわ。ビールでいいか? チリリは?」
チリリ「私は白湯がいいわ」
要望に応じてると薬茶も出来たので、自分の分をとり、残りは湯煎にしておき勝手に自酌させることにする。
親父が空の器を寄越したので唐揚げを満たす。
戻ると話題が替わっていた。
軟骨揚げをコリるエスタ「神官さんの話だと【豪打+4の4】ということで、これなら少しは発動に期待できる。初級の迷宮ならどうにかなると思うんだよね」
肉野菜炒めでご飯を頂くチリリ「打たれ強さは良い鎧で補えるものね。買うにはもう少しお金稼がないとダメだけど」
いつの間にかチャーハン注文してるジーネ「あたいももう一枚の壁になったほうがいいかあ。戦士になるの真剣に考えよ」
「ここの神官の鑑定能力はどの程度なんだ?」
俺が訊くと
「探索三職に関しては、一言説明が聞けるのがそろってるって。それ以上は頂くのに深い迷宮に行く必要あるらしいし」
エスタが答えてくれた。
「さすが領都よね。村にはいなかったわ。
珍しい恩寵について知ろうとしたら、あっちじゃ大変。
霊格を数える力は浅い迷宮のコアが指定されるのが殆どというから、どの神殿にもそれができる神官様がいらっしゃるけどね」
チリリが補足する。
「【豪打】は名前で程度がわかるけど、【食いしばり】は分からんかったよな」
とエスタ。珍しいうえ死にかけたときにしか発動せんものな。
ジーネは喰っている。
「それよりマショルカ、次も私たちと一緒に行動してくれる?」
チリリがこっちに質問をぶつけてきた。
「俺は助かるよ。ほかに約束してる相手もいないし」
ソロで潜るには限界がある。
今日の鬼崩しでも、一人で潜ればトラップ系の魔物のエサとなったはずだ。
今後多少成長してもそれは変わらない。
「いいね。うちのチームに属しなよ。アンタが参加してから運が向いてきた気がするし」
とエスタが言えば
「だよねー。今までの生涯より魔術使えたよ。8匹のスケルトンに【眠りの雲】が効いたときには震えたー」
とジーネが応じる。
「あたしのだって見ましたか。泥田髑髏を一撃粉砕ですよ。フフン。それも2匹」
微妙に記憶改竄されてる気もするが、さすがにエスタ酔いだしたか。
これはいかん調子に乗りすぎてる気がする。
しかし介入しないと死んでたかもしれないんだよなあ。
「運で勝ったチームが翌年最下位なんてよくあることだから、浮かれちゃだめだぞ」
「そうね。大戦果を挙げた人たちが、すぐに消えてなくなるのも多いと聞くわ。
私たちは地道に身の丈に合わせましょ」
俺とチリリで冷水をかけておく。
それでも目標を達成できたことで宴は盛り上がり、いい気分になれた。
なお唐揚げは80個ほど売れて、俺の飯代と差し引きでプラスになった。
◇ ◇ ◇