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 道の左側、岩壁の上に、一本の枯れかけた柳の様なものがあって、葉のない枝をこちらに垂らし揺らめかせていた。

 高低差もあり、そそり立つ様はいかにも恐るべきものに見える。


 これ、下を行くものにその枝を束にして振るってくる『釣り針柳』である。

 葉の代わりに無数の釣り針がその枝にはあって、叩きつけられると絡みとられ、身動きできず、激痛で魔術を使うのも難しくなる、ソロには天敵のトラップ型モンスターだ。


「よく気が付いたな相棒」

 さすがに小声でユビソールがいう。

「だがどうする? 登って切り倒すのか?」


 その間に俺は手信号で後方の三人娘に連絡をとる。『トラップ型モンスター』『来てくれ』


 やってきた彼女たちにも頭上の敵を示し、相談した。


ジーネ「遠距離攻撃はあたいの【雷撃】くらい?」

俺「あとは礫撃ちがあるけどね」

チリリ「それ得意ではないかな」


 俺は斥候系で【投擲】をとったので、実は得意技能である。

 だが今は雷撃メインでもいいだろうか。


 前線に戦士4人が展開し、盾を構える。俺は石を集めて手ごろなでっぱりの上に置いた。

 ジーネを視界に納める位置だ。


 戦闘が始まるが、釣り針柳は不意打ちでは強いものの、先に見つかり間合いを取られると弱い。

 ゲーム的には、戦場の範囲内ということで攻撃は一応届くものの、不得意技能値で釣り針柳は攻撃判定をする。


 つまり戦士相手ならまず当たらないのだ。

 前線を削らないと後列には届かないのでジーネは無事。


 なおジーネの行動表判定は順に《3:4》《4:6》《2:3》《1:3》

 一発入った。3D6ダメージ。

 俺の投擲した石が毎度あたって、間に合わせの片手武器に修正入って

 16=(2+2)×4


 たぶんHP30点くらいだったのかな。


「いやー、さすがジーネ姐さん、心強い心強い」

 褒めたたえたのに

「なんか納得いかん、とどめが石つぶてなんてっ。あたいの一撃で灰になれっ」

 なんだか不満そうだ。

 口角がニヤけてるから本心ではないだろうが。


「まだまだ青いね。自分の最大火力が爆発したあと、他人が凡打で見せ場奪うのに慣れてからが一人前よ」

 エスタがなんかいってるが、そんなルールはない。


「【雷撃】持ちのお嬢さんか。同じパーティに入れてよかったぜ」

 ユビソールが額から汗を零している。


 できればここでジーネが連弾飛ばしてくれると、彼への威圧としてよかったのだが。


 それともいま汗を流しているのは、最初の遭遇の時を思い出しているからだろうか。

 【雷撃】は戦場にいるパーティ外のキャラからランダムに一体を攻撃するので、彼に当たった可能性もある。

 あの時【眠りの雲】だったのも運がよかったわな。


「じゃあ上の落とし物を拾ってくる」

 俺が盾を背に回して岩肌にとりつくと

「なんでぇあんた、岩登りもできるのか。まるで斥候みてぇだな」

 と呟いてた。


 特段姐さんたちが反応・説明しなかったのは、やはり信用しきれていないからだろう。


 上には宝箱があり、8点の魔石と呪い外しの石が入っていた。


 降りてそれをジーネに渡したときも、ユビソールが何か言ってたけど無視する。


「これで呪い解く?」

 ジーネが尋ねてくる。


「いらん」

 即答する。


「相棒、なんか呪われてんのか?」

 ユビソールが訊いてくるので

「いろいろとね」

 と答えておく。

「さっきの戦闘でちらちらジーネ姐さんを見てたが、あれも呪いかい?」

「そうだ」


 あっさり肯定したので、なんだか鼻白んでた。

 からかうつもりだったのかもしれない。


「アンタだってマショルカみてたからそれに気づいたんでしょ。戦場で全体観るのは普通よ」

 エスタが言う。


「俺の場合、連携慣れしてないんだから、キョロキョロするのは仕方ない」


「その辺にして先に進みましょう」

 チリリが締めた。



 しばしユビソールと先行してると、また話しかけてきた。

「お前が呪われているってのは本当なのか」

「無駄話は迷宮でるまで控えなよ」


 ホントにダメな人だな。

 さっきの戦闘では逃げなかったから、行動表はきちんと『逃亡』を上書きしたようだが。


 いや、俺が魔物を発見したときは戦闘状態じゃなかったから、それから書き換えた可能性あるのか。

 そして今も書き換えてる可能性ある。

 まだわからんな。


「いや無駄ではないだろ。お前の呪いによってはこっちに迷惑かかる」

「かからないと思ってるからあちらの姐さんたちが入れてくれたんだよ。少し黙って」

「だけどよ」

「黙って」


 俺が立ち止まって先を警戒してるので、やっとユビソールも口を閉じた。


 彼が前方のやや開けた、何もいない場所をみて眉をしかめている間に、後方に手信号を送る。『大物1』『雑魚1』『待ち伏せ』


「ではユビソール殿、ここが実績の造りどころだ。入って左手見えない位置に敵がいる、彼女らが来たら、それに斬りつけてくれ。俺も奥に突っ込んでからそうする」

「お前らがあとから来てくれる保証は?」

「どうせここを突破しないと帰れないんだ。戦力をまとめて投入しない理由はないだろう。

 不安なら『相棒が一緒に飛びこまなかったら逃げ出す』、って心構えならしてもいい」

「信じねぇ、ってわけじゃねえけどな」


 女性陣が追い付くと、右手に隠れたもう一体をエスタに叩いてもらうよう頼む。

 チリリは左手だ。


「よし、覚悟はいいかユビソール」

 そして俺は彼の背を叩き、自分も駆けだした。


 やむなく、といった感じで突っ込んだユビソールは、目の前に泥田髑髏を見て驚愕していた。

「ひゃ、ひゃあ!」

 頭上に出たのは《6:4》


 走り抜けながら俺は当然6を選ぶ。

 【豪打+5】が出るはずだ。


 しかし彼は敵に背を向けて逃げ出そうとする。


 やっぱりこいつ、『敵が泥田髑髏なら逃亡する』のみ置いてやがったな。


 前世の人間と違い、逃亡するのは事前に決めておかないと難しいのだ。


 回り込みながら後ろを見ると、女戦士二人も走りこんでくる。


 待ち伏せしていたお付きスケルトンがエスタを迎え撃つ。

 盾も使わず回避に成功。


 逆にエスタがスケルトンを撃ちすえるが、《3:2》

 普通に少し削った程度だろう。


 ユビソールが逃げようとするのに気付き、泥田髑髏が一歩大きく飛んで武器の鍬を振り上げる。

 回避する時よりずっとはやいな。

 回避は不得意だが逃亡阻止は得意か。よくある。


 泥まみれの鍬が振り下ろされ、柄が肩に当たった。立ち止まったところをぐいと引かれて胸元に刃が当たり、よろけるが、何とか耐える。しぶとい。


 ユビソールは慌てて引っかけられた鍬の刃を抜けようとするが、かえってさらに引き戻される。


 その時後方でジーネの念じる姿があり《6:3》


 もちろん6を選び、エスタの前の骸骨に落雷した。

 まばゆい光とともにスケルトンが砕け散る。


 【雷撃】は対象がランダムな魔術だが、これは良好な結果といえる。

 これで戦力を集中できる。


 あちらから盾を構えたチリリが近寄り、泥田髑髏に片手フレイルを打ち付ける。

 《2:2》の目が見えたが、 …うーんまだいいか。


 俺は麻痺薬かボーラをユビソールにぶつけてやろうか迷ったが、まず魔物を倒すべきだと断腸の思いでボーラを泥田髑髏に投げつける。

 上手く絡んだ。

 ダメージは間に合わせ武器クラスだが、対象のファンブル値を+1する武器だ。

 敵が固定値ならこちらのクリティカル値が+1される。


 目の前で敵の飛び散ったエスタは、素早く切り替え振り返って突撃し、片手で泥まみれの頭蓋に槍改造の棍棒を振り下ろす。

《6:3》

【豪打+19】がさく裂し、当たった長柄棍棒が額から右の眼窩を砕いて通り、下顎まで割って、さらにあばらを砕き通り過ぎた。


「なんだそりゃあ!」

 飛び散った泥と歯や骨片を浴びながら、ユビソールが唖然とする。


 俺が普通に槍で叩き、ジーネが《1:3》を出してチリリが叩く。


 ユビソールが逃げかけるが足払いに倒れる。


 そのままそいつを殴ればよいものを、泥田髑髏はチリリを狙った。

 最後に叩いたものを狙うタイプか?


 真正面から盾で受け《5:3》

 普通ならダメだが俺の選択で盾が生きる。


 俺が髑髏の背から一撃加え、チリリが正面から反撃する。


 ガラリと髑髏が崩れ落ちた。


 ユビソールが解放され、俺の横を駆け抜けていった。


   ◇ ◇ ◇



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