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「俺たち6人は霊格がイマイチだったり、イマイチの恩寵ばかりで埋まりかけていたり、というパッとしない連中ばかりだったんだ」


 ユビソールは魔術師のジーネを捕まえて、何かやら愚痴っていた。


 正直雑音は探索の邪魔になるのだが、なんとはなし、みな放置している。


「最後に一度格上の迷宮に入ってみよう。そして質の良い恩寵を貰ってみようってな。

 強すぎる相手にぶつかったら逃げる。そうすれば何人かはコアまで行きつけるだろうって」


 黙れと言わないのは、彼らの運命が自分たちのものでも有りえたからだろうか。


 俺はやや高台に登って、周囲の様子を探っていた。


 造ってたゲームだと、戦場を逃げ出したあと、敵が追ってくるのはまれだ。

 しかし追跡タイプもいて、振り切れない限りどこまでも追ってくるのもいる。

 あの泥田髑髏は、このタイプじゃないかと期待する。

 なら眷属のスケルトンを倒したことで、追尾がきれたことになるからだ。


 あとは一度フラグがたつと、戦闘が起きるたび登場判定して理不尽に乱入してくるとかもあるが。

 これだとセッション終了まで有効で、殺さない限りいつまでもクソ厄介だ。

 最悪だと殺しても登場判定して出てくるのまでいた。


「ここまでよ。私たちはこの道を行く。コアに触れるならあっちよ」

 下でチリリがユビソールに告げた。


「え? そこ連れて行ってくれないのか?」


「あたしらにまたコアに行くメリットないじゃんよ」

 エスタが呆れる。


「そこは優秀な戦士が一人増えたというのに免じて」


「さっき、そこまで優秀じゃない6人組が集まったと言ってたような?」

 ジーネが素で疑問を口にしていた。


「素質はあるんだよ俺はホントだよ。練習試合じゃ俺結構優秀よ」


 確かにさっき見た判定基準だと、個性なしなら優れたほうのグループに入る。


「魔物に追われたってのがまだ続いてるなら、そちらと一緒にいるデメリットが上回るんだが」

 降りてきた俺がいうと嫌げな顔をして

「それはないだろう。さっきから気にはしてるが、ついてきてるならもう遭遇してるはずだ」

「気にはしてたのか。じゃあなんでずっと喋っていたんだ? 警戒の邪魔だろう」

「む」


 あれこいつひょっとして追いつかれることを想定していた?


 他のメンバーが『逃亡』を行動表に置いていない中、変わらず1に『逃亡』を置いたままなら、俺たちを囮に逃げ出せるわけだ。


「そもそも生き延びたのがコアにまで行く、というのでそちらのチームが出来たんだろう。我らと出会う予定もなかったのだから、これで別れて問題はあるまい」

「まあそういうなって坊主。こっちの想定してたより状況は悪いから、予定変更するわ。今日のところはアンタらとともに還るとする」


 坊主呼ばわりか。こっちのほうが若いから無理ないが、マウントとってきてるな。


「正直言うと、知り合いじゃない戦士と同行するのは不安なの。離れてくれたほうが嬉しいけど、同行したいというなら、先頭に立ってほしいわ」

 チリリがいい

「魔術師や斥候を捨ててきた戦士ってのは、そう思われても仕方ないだろう?」

 エスタが補足する。


「そのへんは事前の約束があったからなんだが… まあ俺以外が生きてない以上信頼される筋もないか…

 OK、俺が先にたつよ」


「今のうちに『心構え』を置き換えてくれ。戦う一心にね。

 そういえば特技は何かあるのかい?」

 俺が言うと

「あー、いや、特にはないんだ。少し打たれ強くなっただけでな。それでここに来たってわけだ」

 と答えてきた。


 妙だな。

 【豪打+5】を隠す理由ってなんだ?

 ひょっとして。


 となるとさっきからの話も本当だろうか。

 皆で相談して逃亡を決めてた、というのは嘘で

 斥候から強敵がいると聞いた段階で、一人だけ逃げる準備をしていた?

 さすがにそこまでのクズはいないか。

 一人でコアまで来ても帰るのは難しいしな。


「取り分はどうする?」

 明確にしておきたいので、三人娘を見て俺が訊くと

「このあとの魔石は人数割り、その他はあたしたちでいいんじゃないの?」

 とエスタが答える。


ユビ「おい、それはどうなんだ? ちょっと俺に厳しすぎないか?」

エスタ「そうかな? 助け賃もらってないし、言ってるの自分の都合ばかりだし、できれば同道したくないけど、見捨てはしないっていってるんだけど」


「囮役なのに恩着せられてもな」

 まだ文句いうので

「俺も一緒に先行するよ。愚痴るより脚を動かそう。信頼関係は実績を積むことでしかできない」

 と俺がいうと

「しかたねえなあ」

 と嘆息していた。


 正直単独先行したほうが、被発見率が下がるが、俺と三人娘の間にこの男を入れて連絡が伝わる確信が持てない。

 三人娘はこの男とあまり一緒にいたくないようだし。

 殿にいられるのも嫌なようだ。


「ではパーティを再結成しましょう」

 チリリ・リーダーがそう宣言し、全員が手を差し出してそれは成った。




 道を替えてしばらく、三人娘との距離が離れたあたりでユビソールが話しかけてきた。


「坊主はあの三人にこき使われてんのか? なんならもっといいチームを紹介するぜ」

「いいから黙って警戒しなよ。だべってっと奇襲受けるよ」


 この男は先行してる意味を分かってるんだろうか。


「戦士の斥候代行なんて、ただの囮に決まってるだろ。

 それに背中の傷が痛んで、集中できねぇんだよ。だれも薬のヒト瓶も寄こしやがらねぇ。

 おめぇもってねぇか?」

「むしろなんで自分で持ってきてないの?」

「ここへ来るまでに使いきっちまってな」


 彼の行動表に戦闘中アイテムを使うことは書いてあったろうか。

 『逃亡』に専念するなら他の項目は空欄にしそうだが。

 だとしたら治癒薬は既に使い切ってたわけで、その時点で帰還すべきだったのではないのか。


 計画性のないチームだったんだろうな。急造っぽいし。


「【賭け治癒】ならあるけど」

「なんでそんなもん? 【魔術師見習い】なんて斥候のもんだろ!?」

「斥候職の個性で戦士が取れないのって、宝箱開けくらいだよ。確率が低いだけだ」

「そうなんか… 運がいいな」


 ちなみに【宝箱開け】が取れないからといって、戦士や魔術師が開けられないわけではない。不得意技能で判定はできる。


「いや、運がいいのか? それで傷が深まるなら無駄な恩寵じゃねぇ?」

「使ってやってもいい。けどやるかどうかはそっちに任す。それなりには成功する」


 ユビソールはしばし考え込んだ。


「一発ぶん殴って、お前が治すの見てからにしていい?」

「4対1の戦闘になると思うよ。治すのを見られるかは、死後の亡霊の知覚力次第かな」


 またしばし考え込んだ。


「しくじってもすぐ死ぬわけじゃないはずだ。2度ほど試してくれ」

「まだ種銭はあるみたいだから、何度かやれるって」


《4:2》


「げふぅ」

「お、悪い」

「お前何級だ! 結構痛かったぞ!」

「敵が来るから騒がない」


《6:1》


「ちょっと治った気が」

「どうする?」

「……十全じゃなけりゃ生き延びらんねぇ。もう一発だ」


《5:3》


「お? おう、痛みが消えたぞ、すっかり」

「ふさがったぞ。じゃあもう黙って警戒に専念してくれ」

「大したもんだな相棒、これからもよろしく頼むわ」


 ユビソールが鎧を締め直して整えながらなんかいってる。

 坊主から相棒に昇格したらしい。迷惑だな。



 そのあとまた進むと、何かいた。


 手信号でユビソールを停めて、不審そうなその顔に上を見るよう指をさす。

 見上げた彼はギョッとして表情をゆがめた。




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