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「ほんとにマショルカって、戦士と斥候兼業してたんだね」
行き止まり状の空間で湧水を見つけ、遅めの昼食をとったとき、エスタが感心の声を上げた。
俺「そうなんだけどね、言っても信じたり信じなかったり」
一番多いのは無関心だろうが。
『できるというならやってくれ。できたか。そうか』
『戦士だって不得意技能としてなら、宝箱開けは可能だしな』
こんなかんじ。
「霊格1だとあり得ないと思われるよねぇ」とチリリ。
「うまうま」 はジーネ。
また揚げたて唐揚げを召喚して配っている。
「いやむしろ、霊格1ってのがへんでしょ。そっちがでっち上げ?」とエスタ。当然の疑問。
「まあ… 信徒手形見せてもいいが…」
見せたほうが信頼得られるかな? と考え俺は言う。
「その手の力ある神官さんだったのね。見せて」とエスタ。
「ちょっと、そこまで要求するのは踏み込み過ぎよ」とチリリ。
公的機関から提示を求められることのあるモノだが、私的な理由で見せろというのは、確かに憚りあるところだ。
「別に構わんよ。ほれ」
「えーと、チリリよろしく」
「もうっ。 …うん、書いてあるわね、霊格1って」
エスタは読めないらしい。
というか、さっきジーネも読んでいたな。二人読めるというのは識字率の高いグループだ。
「じゃなんで斥候の技もできるのよ?」とエスタ。
「これも呪いみたいなもんだ。
たぶん斥候職だった人の霊魂にとりつかれたんだな。
その人の生前の技が使えるようになった」
もう全部呪いで説明する。押し通すつもりである。
「そんな風に憑りつかれて、なにか変調していないの?」
と唐揚げの追加を要求するポーズのジーネ。
心配そうだが、俺のことを思ってだか、自分らにかかる迷惑を思ってだかは不明だ。
「その霊に、特に何も望まれていないからなあ。
断片的に昔の記憶っぽいのが出ることがあるんだが、本人も忘れてしまってるんじゃないか?
残した子供たちとかと出会ったら、また何かあるかもしれない」
エスタ「いま問題ないならいいよ」
チリリ「お子さんと会えたなら、私たちも少し援助しましょうね」
「にしてもみんなに事情説明すればいいんじゃない? 私たちも見て、兼職も特技も持ってることも分かったし、他の人も同じだよ」
喰いつつ、ふと顔を上げてジーネがいう。
「呪いなんだから弱点にもなる。あまり広めないでほしい」
「そういうなら私たちは黙ってるよ。信頼されてるってことだから、応えないとね」とチリリ。
「あたいらにとっては、人に広まるより、独占できた方が助かるしね」と素直な意見のエスタ。
ともあれ、
一応『呪い』は言い訳として成立するようだ。が、
それでも神殿や有力探索者の関心を引きたくはないのである。
俺がまだ前世を曖昧に思い出すだけだけだったころ、随分「この世は俺の夢だ」、みたいなことを主張して、村の神官に目を付けられていた。
近隣の神殿にも連絡が行っていて、潜在的には良くて狂人、悪くて異端予備軍と見做されている可能性があり、「また何か妙なことを口走っている」と審問に呼び出されかねない。
いまさっき「霊に憑りつかれて」と説明したのもよくないな。
やっぱり悪霊だと、故郷の神官ならいいそうだ。
それにもう一つ、成人のときには1だった霊格が、今では12なのだが、何かの加減でこれを知られて「大丈夫か?」という疑問がある。
基本、霊格は変わらない。神殿でうける恩寵で極々たまに上がるだけだ。
神官もそう教えている。
ではそれが何倍にも増えているのをどう思うだろうか。
その教理から逸脱する例外を彼らはどうするだろうか。
どうも胃の当たりが嫌な感じがしてならないのだ。
「漬物挟みパン美味しい。唐揚げと出会うために生まれてきたものだよこれ」
「ジーネも食いすぎて動き鈍くなんなよ」
エスタが苦言を呈して、チリリが笑ってた。
◇ ◇ ◇
飯のあと、まずは一人で探りに出たが、ついに泥にまみれた巨人のスケルトンを発見する。
迂回できないかと見て回ったが、これは無理かもしれんね。
俺「すまん、遅れた」
チリリ「いいけど、ちょっと心配はしたね」
俺「抜けられる道はないかと探っていた」
偵察から戻った俺に、代表してチリリが声を掛けた。
明るさを演じながらも不安や焦りが芯で膨れてきていたようだ。
リーダー役とはつらいものだ。
「大物がいる。泥田髑髏というやつだと思う。
通行の要所になってる広場にいて、周囲を警戒している。
お付きの髑髏が二体いる。
別の道も探ったけど、安全な場所がない。
行き止まりか、アリジゴクタイプの魔物がいる場所しかなかった。
アリジゴクは落ちたらちょっと助からないと思う。
一度思い切って大きく下がるか、泥田髑髏と戦うか。
そのくらいしか思いつかないけど、どうする?」
俺がそういうとチリリは、
「お付き二体はまだ楽な方なんだよね。奥に行くなら、どっかで戦う事にはなると聞いているから、ここでやる?」
と残り二人に振り向いた。
エスタは背に盾を廻し、両手で棍棒を握ってうなずく。
「今日はまだ誰も怪我していない。運が上向いてるかもね」
「ねえ、すり抜けるって話は?」
不安げにジーネが問う。
「立ちふさがっているからな。誰かが犠牲になるのを前提で、がむしゃらに突っ込むなら可能かもしれないが、でもその場合、戻りはどうなる?
減った人数で、敵を減らしてもいない道を帰るより、戦う方が安全だと思う」と俺。
「そうね。メンバーが欠ければ結局帰れなくなるわ。ここが正念場よ。突破しましょう」
言いつつチリリは棍棒に別の棍棒を取り付けていた。
「それは?」
俺が問うと
「ねじ止めで鎖を繋げて、フレイルになるようしてあるの。私は盾で受け止めつつ、殴らないといけないから」
操作性は悪くなるが、一発が大きくなるよう準備しているわけだ。
「慣れているのか? うっかりすると自分の頭を殴るぞ」
「いくらかは練習してる。大丈夫。何とかして見せるわ」
「リーダーがやるってんなら、こっちも覚悟するよ。一撃でどたまカチ割ったる」
エスタがバットのように長めの棍棒を素振りしている。
「心構えはどっちがいい? 【雷撃】? 【完全回復】? それとも条件いれる?」
緊張で倒れそうになりながら、ジーネが尋ねた。
心構えというのはゲームで言うところの『行動表』に書き込むことのようだ。
俺自身はしないのでよくわからないでいるが。
この世界の住人は戦闘時にどうするかを事前に決めておいて、その通りにしかできない。
本人たちは「いざという時は事前に考えてたこと以外思い浮かぶものではない」と感じていて、とっさの場合にそうなるのは誰しも当たり前のことと考えている。
俺のように頭上にダイス目が見えるわけではないようだしな。
行動表がドウコウなんて自覚はない。
もっとも、とっさの時に今すぐ対応を思いつけと言われても、できないのは前世の人間も同じようなものだったかもしれない。
やる気ならいろいろ条件付けして、例えば「リーダーが斃れたら逃亡する。それ以外は通常攻撃」のような書き込み方も可能だったので、同じように、ここの人らも、それなり状況に対応可能ではある。
チリリ「【雷撃】にしましょう。まず敵を倒すのが優先。その後で必要なら回復をお願いするわ」
「う、うん。ならそれと【眠りの雲】ね」
ジーネ大丈夫か吐きそうだが。
それを口にしたら戻しそうなので言わないけど。
「よっしゃ行こうぜ」
エスタの声で全員がうなずき、歩き出した。
俺「まずやるのは左右のスケルトンからだぞ」
チリリ「作戦はいつも通りで」




