俺の名は大豪院邪鬼
「ぐわわわわわをををを・・・・」
「かあちゃん・・・」
「・・・・」
「・・・・!?」
ひととおり苦しむと、俺は机と椅子だけの窓のない真っ白い部屋にいることに気づいた。
机の横には片腕のない男が少し引き気味にこちらを見ていた。
「俺・・・死んだんだね・・・あなたは死神か何かかな?」
「いや~まいったよ、こんなに早くあなたに会うことになるとは思ってもみなかった・・・」
「まだやりたいこといっぱいあったんだよね。」
俺はさっきまでの醜態が見られていたかと思い、少し饒舌になっていた。
神は言った。
「いや違う!」
「勇敢な戦士よ、よく来た!ここは神の国だ!」
俺は事態がよく呑み込めなかった。
「なに?俺は神になるのか?結構昇進したな・・・二階級以上の特進だ。」
「それも違う!私の域にはまだまったく及ばぬ!」
俺は確かに死んだのにまだ話せている。こんなことができるのは神ぐらいだろう。
説明には納得できる。
・・・だが俺は話を聞きながらも、ふと彼の腰にさげている派手なとっくりと、これみよがしに机の上に置いてある豪華なノートが気になった。
「(まさかあれは・・・)」
神は続けて言った。
「まずお前の名を聞かせてもらおうか・・・」
俺は少し考えて答えた。
「俺の名は・・・大豪院邪鬼だ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
気まずい空気が辺りを包み込んだ。
神はあきれた様子で言った。
「お前の名が大豪院邪鬼なわけないよね。」
「大豪院って顔してないじゃん・・・」
俺は派手なとっくりを指さした。
「そのとっくりはなんだ?」
「名前を呼ばれて返事したらそのとっくりに吸い込まれるんだろう?知ってるぞ!」
神はとっくりをはずして机の上に置いた。
ほら、とっくりは外したぞ・・・
俺は机の上のノートを指さした。
「そのノートはなんだ?名前を書いたら死ぬノートだろ?」
「まんがの見すぎだよ・・・」
といいつつ、神はノートを机の引き出しにしまった。
俺は思った。
「(こいつは牛魔王だか夜神だか知らないが、地獄への逆戻りはごめんだ・・・)」
「まあ、すぐに信じられないのも無理はない・・・お前の立場なら当然だ。」
「お前が助けたパーティのことが気になるだろう・・・今見せてやろう・・・」
神はそういうと、何もない空間に仲間の姿を浮き上がらせた。
まさに俺のバーティ!俺の青春!俺のかけがえのない仲間たち・・・
彼らは俺の死をひたすらに悲しんでいた。
「レビン・・・俺たちを守るために犠牲に・・・」
「可哀想に・・・」
「どうしよう・・・レビンが・・・」
「ありがとう・・・君のことは永遠に忘れない」
「うわぁぁぁ~~ん」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
自分のしたことが人の役に立った・・・俺の死は無駄ではなかったのだ・・・
俺は目から熱い汗が流れていくのを感じた。
しかし・・・次の瞬間、驚くべきことが起こった。
「でも、俺思ってたんだけど・・・あいつ弱くてお荷物だったよね・・・」
なんと、お調子者の剣士がいままでの感動をぶち壊すことを言い出したのだ。
「そんなこと言っちゃかわいそうでしょ!おかけで助かったのに!何てこと言うの!」
「まあ、私も実は同じこと思ってたけど・・・」
魔法使いの少女まで同意しだした・・・
「口にださなかったけど・・・」
「そうね・・・ちょっと頼りなかったわね・・・」
「そうだな・・・」
「憐憫の情が湧くよね・・・レビンだけに!」
レビン「(いまお笑い要素いる?)」
女勇者は締めくくりのように言った。
「さあ!元気を出して!前向きに考えましょう!そしてこれからはレビンの代わりに”もう少し強くてハンサムで器用でまともな中堅”が雇えると思えばいいじゃない!」
俺は絶句した。
「・・・」
「・・・」
神は少し言いづらそうに話した。
「ごめん、ちょっと思ったのと違ったけど・・・ま・世の中そんなもんだよ。前向きに・・・な?」
「愛なき世の中では、人は常に消費される存在となってしまう。」
「だから再び愛のある世の中を取り戻さなければならないのだ。」
「今度は私の命を受けた愛の戦士として蘇り、愛の大切さを説いていくのだ!」
神はとりたてて自分のスローガンらしきものををしゃべると、決意を促した。
でも俺は正直疲れていた・・・働き続けだったし、楽しみもない、信頼していた仲間にも弱く、ハンサムでなく、器用でもなく、まともでもないと言われてしまった・・・
これからまた生き続けて本当にやっていけるのだろうか・・・
「神様、正直言って俺もう疲弊しきっています。」
神は続けて言った。
「そうであろう、そうであろう。」
「愛の戦士の特典として、さっき「かあちゃん」って叫んでたことは、私の胸の中だけにしまっておこう。」
「愛の戦士になろうではないか!何でもやったるぜ!マイフレンド!」