3話
「さて、その耳と尻尾をどうするか...」
ひとしきり頭を撫でた後、ナナの服を買いに行く準備をしたんだけど....
耳と尻尾を見られたら流石にマズイよな.....
今もピクピク動いている猫耳と尻尾を見ながらそう考えていると、思いがけない言葉がナナから発せられる。
「へへーん!安心してご主人様!実はナナ、耳と尻尾を人に見えないようにできるの!!」
「おぉ!マジか!!」
ドヤ顔で胸を叩くナナのその言葉に俺は目を輝かせる。
「うん!!いくよぉ〜〜」
「んん〜〜〜ッ!とりゃぁーー!!!!!」
ナナはなにやら唸った後、人差し指を上にさすと、その指先から光が出て気づいたら耳と尻尾が消えていた。
「Wow…」
なかなかに現実離れしたその光景に唖然としてしまった。
「ナナすごいでしょ!!ほめてほめて!!」
そう言ってナナは俺の近くに寄ってきて頭を突き出す。
正直さっきの頭撫でるのに体力をかなり持っていかれたから疲れてるんだけど.....
「〜♪」
頭を突き出して早く撫でて欲しそうにしてるナナの様子を見ると断るのは忍びないしな...
今は見えないはずの尻尾が激しく動いているのまで何故か見えてきたし...
こうなったら精一杯甘やかすぞ!!
そう思いナナの頭に手を伸ばそうとした瞬間、
「お邪魔するわよ____え?」
「あ____」
隣の家に住んでいる幼なじみの『涼宮彩音』が玄関から出現した。
彼女はうちの両親から絶大な信頼を持たれていて、俺の世話をして欲しいと沖縄に行く前に俺の両親から頼まれて、家の鍵を渡されている。
なので玄関を開けること自体はなんら問題ないのだが____
俺の第六感がこの状況は非常にマズイと言っている。
案の定彩音からドス黒いオーラが漂ってきて____
「あ、彩音?とりあえず落ち着こ____」
「こ〇す」
物騒な言葉を吐いた瞬間、彩音は一瞬で俺との間合いを詰め、右ストレートを繰り出す。
それを何とか受け流した後、右ストレートの勢いを利用して彩音は回し蹴りをするが、胴体に当たる寸前で体を捻り攻撃を躱す。
しかし、彩音は攻撃を止めることなく俺に蹴りや拳をお見舞いしようとしてくる。
「〜〜♪」
ちなみにナナはこの状況に一切気づいておらず、俺が撫でるのを待っている。
「彩音ー!!落ち着いて!!多分なんか誤解してるから?!」
「こ〇すこ〇すこ〇す」
「ひぃぃ〜!!!」
「はぁっ...はぁっ...」
「お、落ち着いた...?」
彩音の猛攻を防ぐこと約3分、ようやく攻撃の手を止めてくれた。
彼女は額から流れて汗を腕で拭いながら答える。
「えぇ...はぁ、はぁ...少し冷静になったわ。・・・それにしてもやっぱあなた強いわね。空手で黒帯の私の攻撃をいとも容易くかわすなんてね」
「は、ははは.....」
乾いた笑いしか出なかった。
「それで.....あの子は誰?」
本題を切り出す彩音。最後の言葉がやけに冷たかったけど気のせいということにしておこう。
さて、どう答えよう?
正直に「うちのペットのナナだよ!」って答えたところで信じて貰えるだろうか...。
かと言って嘘をついたとしても俺の嘘って彩音には直ぐにバレるし。
...それにバレたらとてつもなく怖いので正直に言う事にしよう。
「あの子は____ナナです」
「ナナ?ナナってあんたが飼ってる猫の名前よね?」
「はい、そうです」
「まさかあの子がナナとか言わないわよね?」
「Yes,ma'am. she is Nana」
そう答えると彩音はようやく笑顔になってくれた!!!.....青筋を浮かべながら。
.....やべぇどうしよう
「あんたねぇ...冗談言ってる場合じゃない____」
「ご主人様〜、まだ撫でてくれないの____」
しびれを切らしたナナが顔を上げると同時に彩音と目が合う。
「『アヤネ』...ッ!!」
すると、ナナは明らかに不機嫌そうな顔で彩音を睨みつける。
「あら?どうして私の名前を知っているのかしら?」
彩音はそのナナを挑発するように疑問を投げかける。
「いつもいつもナナとご主人様の邪魔ばっかり.....!!ご主人様に体を撫でてもらってる時もなにかと理由をつけてナナをご主人様から引き剥がすし.....今回も.....!!!」
「?もしかしてこの子、本当に遥のペットのナナちゃんなのかしら?」
.....これヤバイ気がする。ナナの瞳から光が消えていき、ハッキリと感じられるほどの殺気が溢れ出てくる。
さっきまでの甘えん坊で元気なナナの様子は一切感じられず、彩音を睨むその形相は酷く冷たく、そしてその表面下には物凄い怒りの感情があった。
「もう.....我慢出来ない!!!」
そう叫ぶとナナは彩音に向かってその殺意をぶつける。
「へぇ、面白いじゃない。相手をしてあげる」
彩音はナナの殺意を感じとり、戦闘態勢を取る。
これはヤバイ!早く2人を止めないと!!
ナナの拳と彩音の拳がぶつかる寸前に俺は間に入って仲裁を試みる。
「2人ともストーープ!!!____グハッ?!!」
「は、遥?!」
「ご主人様!!!」
が、しかし。俺はもろに2人のパンチを顔面で受けてしまう。
.....なんて力だ2人とも.....。俺は意識が遠のいていくのを感じる。
「ば、バカ!!何やってんのよほんとに!!!!」
「ご主人様.....ご主人様ぁーー!!」
よかった....
さっきまでの地獄のような雰囲気はなく、2人とも俺の心配をしてくれている。
これで.....一安心かな.....?
慌てふためく彩音と、涙をこぼして俺に抱きつくナナを尻目に俺は意識を手放した。