表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

09




 佐倉達は、近くの教室、つまり佐倉と新月以外にとっては、『自分たちの教室』に相当する教室に入った。各々、無意識に自席に座っていく。新月は、晶紀の席を知世から教えてもらって座り、佐倉は最後に教室の後ろの方の空いている席に座った。

「先生。これからどうするんですか」

 阿部が佐倉の方を振り返り言った。

「……」

 小泉が言う。

「待ってたってしょうがないぜ」

「少し休みましょう」

「あんなのがこれからもでてくとしたら、かなえとか、新月さんがいないと私たちだけじゃ」

 何も答えない佐倉を見て、阿部に小泉が答える

「だったら、固まって動くしかないだろう」

「どこに」

「今まで行っていないところを探すしかないだろうな」

「学校全部を? 戦いながら? 無茶言わないで」

 山口が立ち上がって、阿部に近づく。

「な、なに。私、なんか間違ったこと言ってる?」

「これ」

 山口あきなは、阿部の机に掛かっている鞄を指した。正確にいうなら、鞄から突き出ている、袋に入った棒のことを言っているようだった。

 阿部はそれを取り出すと、袋から取り出す。

「新体操のリボン…… これがどうかした?」

「阿部さんなら、これで戦えない?」

 阿部真琴は怒って立ち上がった。

「何を言い出すの!」

 新体操のリボンを握ったまま言葉を失ったかのように立ち尽くすと、いきなり、丸めてあったリボン部分を床に転がすようにして伸す。そして棒の部分を跳ね上げる。リボンが波を打ち、波は先端へと進んで、先端部分が床を叩く。

 その音が異常に大きかった。

 全員が阿部の顔を見つめた。阿部自身も他の全員以上に驚いた顔をしていた。

 あきなが言う。

「私たちは、一人一人、ここに来た意味があるような気がする」

「そんな訳……」

 阿部があきなに対して怒りを向けると同時に、リボンが飛んであきなの体に巻き付いた。

「えっ……」

 まるでリボンが意思を持って動いているように思える。

 阿部が慌てて山口のからだからリボンを(ほど)く。

 佐倉は立ち上がって、言う。

「山口が言うように、一人一人の役割があるのかもしれん」

 小泉が笑う。

「自席に何かそんな武器かなにか入っているとでも言うのかよ。バカバカしい」

 言った後、小泉は机の中に手を突っ込んで、バタバタと動かして見せる。

「ほら、なにも……」

 机の中でバタバタさせていた音が止まった。

「!」

 机の中に手を入れたまま、小泉は黙ってしまった。

「どうなさったのですか」

 知世が問うと、声を震わせながら小泉が言った。

「なんでこんなものが机の中に入ってるんだよ。なんで……」

 あきなが言う。

「見せてみろよ」

 小泉が手を机から引き抜く。そしてゆっくりと手のひらを表に返すと、そこにはヨーヨーが握られていた。

「ヨーヨー? そうか……」

 仲井が言いかけた口を小泉が左手で押さえる。黙ったところで、小泉のげんこつが頭に落ちる。

「イってぇ」

「それ、どういったものなんでしょうか」

 と知世がたずねる。

「……」

 その質問に全員の視線が小泉に向けられた。

 しばらく黙っていたが、小泉がその視線と静寂に耐えられなくなって、話し始めた。

「分かったよ。言うから。役割があるってのも信じるよ」

 小泉は自らとヨーヨーの関係を語った。

 中学の時の彼氏の影響で、小泉はヨーヨーを始めたこと。すぐに振られてしまったのだが、悔しさのせいで、タコが出来るほどヨーヨーを練習したこと。喧嘩の時に、紐が金属ワイヤーになったヨーヨーを特注して実際に使ったこと。それらを話し終えると、頭を下げた。

「もういいだろう?」

 仲井が言った。

「久しぶりに技見せてよ」

 仲井はそう言うと、小泉が拳をつくったので、頭を手で押さえた。

「……」

 小泉はおもむろに教室の後ろのスペースに出ると、ヨーヨーを始めた。

 ヨーヨーを下に素早く投げるように振り、手元に戻るかと思うと小さな弧を描いて、ヨーヨーが前方へ跳ぶ。

 手に収まることなく、次々とヨーヨーが四方・八方に展開した。

「何か普通の感じと違う」

「何が?」

 仲井が言うと、ヨーヨーを目で追いながら、小泉が説明する。

「普通のヨーヨーじゃない。スピードも、パワーも。阿部が使った新体操のリボンみたいに、何か『力』が加わっている」

 ヨーヨーのトリックなど初めて見る人にはそんな違いなど分かるはずもなかった。

 ただ、縦に横に回転しながら振り回されるヨーヨーを目で追うだけで必死だ。

「すごい」

「ずっと回転しているのですね」

 石原が言うと、小泉が自慢気に説明する。

「こいつは特製の金属ワイヤーだから、硬すぎて紐を曲げてするトリックは出来ないけどな」

 シャー、シャーと鳴るヨーヨー。下に投げては受け、投げては受けと繰り返す。

 山口は自席に戻ると、机に鞄を見つける。

「これがあれば」

 山口は鞄を掲げて見せる。

 潰れた鞄の角が、金属で補強してあるのだが、どうも尋常でない尖りかたをしている。

「へ、へぇ……」

 佐倉は立ち上がった。

「机で何も見つからなかった者は?」

 知世と仲井、石原が手を上げる。

「三人は、戦う者の手当とか、補助をしてくれ」

 佐倉がそう言うと、戸惑いながらうなずいた。

 知世はボソリと言う。

「私には何も『能力』がないのかしら」

 佐倉には聞こえたか聞こえなかったのか、知世の言葉には無反応のまま、言葉をつないだ。

「学校の探索は、こうしよう」

 佐倉が名前を呼びあげて、九人は五人と四人の二班に分けられた。

 山口あきな、小泉メアリー、新月鏡水、阿部真琴、佐倉あやみ先生の五人。

 残り、木村かなえ、宝仙寺知世、仲井すず、石原美波の四人。

「それぞれ、A棟、B棟を探索する。連絡が必要な時は、渡り廊下を使う。いいな」

「はい」

 教室を出ると、佐倉先生の五人の班がA棟へ向かって渡り廊下を進んでいった。

「気を付けてください」

 知世の呼び掛けに佐倉が手を振り返した。

「こっちもいこうか」

 竹刀を持ったかなえがそう言うと、知世の班もB棟の探索を始めた。 




「!」 

 晶紀が目を覚ますと、そこには白衣を着た男が、十字架にカレンを縛り付けているところだった。

 体を動かそうとしても、晶紀の腕も足も、カレンと同じように十字架に縛り付けられていた。十字架は、学校の壁に無造作に立てかけられている。

 空は暗く、星は見えなかったが、校庭は照明設備や、学校から漏れ出ている灯りに照らされていた。

 白衣を着た男は晶紀を振り返らずに、言った。

「目が覚めた?」

「綾先生。何をしているんですか」

「見えているんだからわかるだろう。十字架に縛り付けてるのさ。こっちをやった後は、校庭に立てるために穴を掘れってさ。人使い荒いよね」

 縛り付けた状況を確認しながら、

「十字架に『釘で』打ちつけてないだけましだと思ってくれ」

「!」

 綾先生が、急に晶紀の頬に手を伸ばしてきた。

 目じりから顎の先、顎の先から反対の頬と顔の輪郭をなでるように指を動かす。

「苦しそうで、素敵な表情だ。そんな表情をしてくれるなら、悪役としてボクも鼻が高いよ」

「……」

「けどさ。神楽鈴がないとあっさり捕まっちゃうんだね。呪力というか霊力を使えるのは、神楽鈴に『霊力』が備わっているからじゃないんだぜ。神楽鈴を使えば、誰でもスーパーマンになれる訳じゃない。だから、何か、根本的なところが間違っているんだよ」

 綾先生は晶紀の頬をつぶすように手を押し付けてきた。

「ねぇ、聞いているかい?」

 晶紀が睨みつけると、綾先生は手を引き、後ろで組んで、にやりと笑った。

「敵の言うことだし、相手にしないってことかな。まあ、それでもいいけど」

 綾先生はスコップを手に取ると、

「こっちは仕事の続きがあるからね。やらないと殺されちゃう」

 そう言って校庭の方へ行ってしまった。

 晶紀は綾先生の言ったことを考えた。

 神楽鈴に『霊力』が備わっていない訳はない。式神は鈴が姿を変えたものだし、神楽鈴の光る剣は神楽鈴の能力のはずだ。

 一方で、神楽鈴が無くても出来ることはあって、綾先生がそのことを言っているのだとしたらその通りかも知れない。晶紀は考えた。神楽鈴を触媒であって、自らの力が光る剣や式神を作り出しているのだとしたら、神楽鈴を手にしていなくても児玉先生ともっと戦えたはずなのだ。まともに戦えなかったのは、自分のイメージが足らないだけなのかも知れない。

 そこまで考えて、晶紀は隣にいるカレンに呼びかけた。

 呼びかけても、呼びかけても、ぐったりと力が抜けたままだった。

「カレン!」

 何十回目の呼びかけだったか、その声にカレンが反応した。

「ん」

「目が覚めた?」

「晶紀ちゃん。これ、どういうこと?」

「分からない。これから、綾先生が掘った穴に差し込まれて校庭に立てられるみたい。ねぇ、私たち、どうしてつかまったの?」

「覚えてないの?」

 カレンは話した。

「晶紀ちゃんから階段の上に児玉先生が立っているイメージが送られてきて、直後に『ごめん、考えちゃった』って言われて、振り返ったら階段の上に児玉先生が立ってて」

「あっ……」

 晶紀は、児玉先生が容赦なく指から雷を放ち、それを全身で受けてしまったことを思いだした。

「晶紀ちゃんは私を庇って先生の雷を受けて倒れちゃったの。先生は晶紀ちゃんが倒れると、階段を降りてきて。『お前を庇う理由を見せてみろ』と言って私の眉間に指を押し付けてきたの。やめてって、抵抗したんだけど、その後の記憶がないの……」

「えっ?」

「何かされたんだと思うけど、その後は何も覚えてないから」

 カレンは視線を下に下げた。

「ごめんね。雷を弾くつもりでいたのに」

「いいの」

 晶紀は考えていた。

 カレンを庇うのは、何か訳があってするものではない。カレンが小泉だったとしても、知らない人間だとしても前に出ていただろう。しかし、児玉先生はカレンにそれ以外の何かがあると考えたに違いない。晶紀が考えたイメージを読み取ることが出来る能力は分かっているが、それ以外にもカレンには何か力があるように思えた。カレンには、ここに来た理由があるように思えるのだ。カレンと重なるように寝た後、すごく体調が良かったのも、カレンの力なのかもしれない……

 校庭側から綾先生が戻って来た。

「さあ、準備は出来たぞ。どっちが先に立てられたい?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ