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04

 佐倉は新月に言った。

「いや、それでいい。感じるなら、感じるままを言ってくれ」

「変な奴だと思わないでくれ」

 新月は唇に軽く握った指を付ける。少しうつむいて、視線が斜め下を向いた。

「匂いを感じるんだ。まるでここに扉があるかのように」

 新月は廊下の空間に丸く描いて見せた。

「けど、向こう側には何もない。ここの教室と、この空間までにしか、匂いがない」

 佐倉も新月がそうしたように手を空間に丸く動かすが、何も感じない。

「……」

 かなえがやってきて興味深げにその空間を見る。鼻を動かすように息を吸って吐くが匂いは感じない。握った拳に顎を乗せるようにして少し考えると、かなえは教室の扉を開けた。

「かなえちゃん!」

 不安げな顔で知世が言うと、かなえは立ち止まって振り返った。

「ちょっと取って来るだけだから」

 佐倉が呼びかけた全員がその空間を必死に眺めたが、何も手がかりがなかった。

「ここの空間が割れて、異世界に入れるのかしら」

「匂いがするって言ったって、晶紀がいる場所に行けなければ助けられない」

 すると、教室の扉が開いて、かなえが出てきた。

 扉から数人の生徒が顔を出して佐倉達の方を見ている。

 佐倉は教室の生徒を席に戻るように言って、押し戻し、扉を閉めた。

「どいて」

 新月が晶紀の匂いを感じるという空間に来ると、かなえはそう言った。手には竹刀が握られていた。

 何も見えない廊下に向かって竹刀を構える。

 切っ先が、釣り竿の先のように、ときどき、ピクッと動く。

「かなえちゃん、何を……」

「静かに」

 問いかけようとした知世の口を、オープンフィンガーのグローブが塞ぐ。

 新月だった。

「私には分かるわ。たぶん、あの()も殺気とか人の気配、気持ちを戦いの中でしか感じ取れないんだわ」

「かなえちゃん……」

 かなえは、リズムを取るように前後に足を滑らせる。

 竹刀の切っ先は、新月が言った空間をいったり来たりする。

 そして足を止めた。

 大きく呼吸し直すと、真っすぐ竹刀を引いた。

 おそらく天井が高ければ振りかぶっていたのだろう。

 引き金を引いたように勢いよく飛び出すと、空間に向けて竹刀を突き入れた。

「!?」

 何もない空間に穴が開いたように光が差し込んでくる。

 そののち、その穴から黒い霧がこぼれるように流れ出してきた。

「何かをやぶったみたいだ」

 山口が言う。新月がその光が差してくる穴に指を差し入れ、左右に切り開く。

 さらに大量の黒い霧が入ってくると、佐倉達の足元を覆い隠した。

「新月、それ開けていいものなのか?」

 小泉は怯えたように避け、壁に手をついている。

「中から晶紀の匂いがする」

 新月が言うと、かなえも言う。

「間違いない。この先に連れていかれたんだ」

 佐倉はうなずき、全員に指示する。

「さあ、中に入ろう。晶紀を探して、助けよう。頼む」

 新月が、木村かなえが、その裂いた空間の切れ目から中に入っていく。

「帰ってこれんのかよ」

 小泉は震えながら佐倉や知世にたずねる。

 知世は厳しい顔をしたまま、無言で空間の切れ目に入ってしまう。

 佐倉は空間を更に両手で裂いてから、片足をむこうへ入れた状態になり、石原の手を取って中に入るのを手伝う。

「すず、お前もいくのかよ」

「面白そうじゃん」

 佐倉が手を貸そうとするが、その手には触れずに飛び込んでいく。

 山口が仲井に続いて入っていくと、後は小泉一人になった。

「……」

 小泉は、ゆっくり近づくと、おそるおそる佐倉に手を伸ばす。

「それ」

 グイっと手を引っ張られると、掃除機で吸い込まれるように佐倉と小泉が異空間に入っていく。

 同時に黒い霧も差し込む光も、切れて広がっていた空間の裂け目も……

 何もかもが無くなり、そこには以前と変わらない廊下に戻っていた。




 閉じ込められた部屋の中で、晶紀とカレンは食事をした。

 晶紀は児玉先生に蹴られた時に口の中を切っていたようで、食べる度にしみた。

 だからお腹の減っているカレンに大半は譲って、しみないものだけを口に運んだ。

 食事を済ませると、晶紀とカレンは隣り合って横になった。

 二人で天井を見つめていると、カレンが言った。

「役に立たなくてごめんね」

「カレンさん」

「私、漫画とかイラストとかそういうの以外は何も出来ないんだ。勉強とか、スポーツとか。周りの空気を読むとか」

「なにを……」

 晶紀は口の中が切れているせいで続きを離せなかった。

「さっきもあの男に胸を触らせておけば鍵を奪えたのかもしれないし」

「だから、それは」

「ただのオタクで本当にごめん」

 カレンは、寝返りして体を壁に向けてしまった。

 晶紀は目を閉じて、カレンに話すことを考えていた。

 自分が霊力を使って物を動かしたり、運動をアシストしたり出来ること。児玉先生やその背後にいる敵はその力が邪魔でこうやって捕まえて、殺そうとしていること。このままなら、きっとカレンの目の前で、霊力を使って戦うことになる。その話を先にしておくべきだ。覚悟をしていてもらわねばならないからだ。

「!」

 晶紀が顔を横に向けると、カレンが見ていた。

 驚いたような表情で、目を見開いていた。

「ど、どうしたの」

「今、何か言った? 声は聞こえなかったようなんだけど」

 カレンは晶紀の手を握った。

「なんの話?」

「うんと、晶紀さんが神楽鈴から光る剣を出して戦うところとか、雷を使うところとか、児玉先生と戦うイメージが」

「カレンさん、私のそんな姿、どこかで見ていたんですか」

「見たことないよ。今、初めて頭に浮かんだんだ」

 晶紀が考えて伝えようとしたものが、イメージとして伝わったのだろうか。晶紀は試してみることにした。

 新体操のリボンに、グルグル巻きにされ、体を持ち上げられる。

 そのまま身体は投げ飛ばされ、屋上のフェンスを越えて校舎の下へ……

 巻かれたリボンの端が、フェンスに引っかかっている。

 体に巻き付いたリボンは、勢いよく解けていく。

 晶紀は、リボンの端を手で押さえると、体を振り子のようにして校舎の上空へと飛び出す。

 屋上にいる目出し帽を被ったツインテールの女へ、落ちていく。

「えっ?」

 カレンが言うと、晶紀はたずねる。

「また何か見えたんですか?」

「スパイダーマンの映画のように、リボンを使って振り子のように屋上に飛び上がる様子が」

 間違いない。どうしてそうなのか分からないが、晶紀の考えたものがイメージとして伝わるようだった。

「晶紀さん、あなたは、超能力者かなにか?」

「いや、カレンさんがすごいんですよ」

 カレンに佐倉と同じヒーリングの力があるのは間違いない。それが証拠にこうやって手を握られているだけで、口の中の切れた部分が治っていている。考えながら、想いを伝える。

「えっ?」

 カレンはそう言うと、晶紀と体を密着させた。

「今の本当」

「うん」

 晶紀がそう答えると、ギュッと抱きしめられた。

「特殊能力もない『ただのオタク』じゃなくて良かった」

 カレンはそう言って微笑んだ。

 急に何か思いついたように表情が変わる。

「そうだ。ねぇ、晶紀さんは触らなくても物を動かせるんでしょう?」

「まあ、そうです。見えないほど遠くのものや硬くて重いものとかは難しかったりしますが」

「じゃあ、鍵あけられるじゃない?」

「えっ?」

 カレンは寝転がったまま、自らの足をあげて見せる。

 足首についた足枷と鎖が音を立てた。

「お、重い」

 カレンはすぐに足を下ろすと、反動を使って上体を起こした。

 晶紀もカレンに合わせて起き上がる。

「ほら、さすがに針金で開けれるほど簡単ではないにせよ、中の歯車の、回るべきところが回れば開くのよ」

「……」

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